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武田薬品、誰のための「7兆円」買収なのか?失敗の懸念広まる、膨張する巨額有利子負債

文=編集部
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買収実現までの高い壁

 だが、買収提案に向けて乗り越えるべき壁は高い。

 武田薬品の取締役13人のうち8人が社外取締役だ。17年にはウェバー社長の後見役だった長谷川氏が退任し、コマツ相談役の坂根正弘氏が取締役会議長に就いている。5月9日のウェバー社長の記者会見に坂根取締役会議長ら社外取締役2人が出席。坂根氏は「経営陣が一枚岩になれば、非常に大きな企業価値を実現できる」と、ウェバー社長の買収戦略を支持する発言をした。企業買収の記者会見に社外取締役が出席した例は極めて珍しい。裏を返せば、武田薬品の経営陣が現時点で一枚岩でない様子をうかがわせる。

 もうひとつ、創業家の問題も不安要素だ。創業家の武田國男氏は経営から退いているが、今も健在である。

 14年のウェバー氏が社長就任時には、「外資の乗っ取り」と反発した創業家の一部やOB株主112人が結成した「タケダの将来を憂う会」が7条目の質問書を出し、「創業家の乱」と呼ばれた。

「長谷川社長の時代にM&Aを繰り返し失敗続きだったことを、創業家は苦々しく思ってきた。武田薬品の経営陣と創業家の関係は完全にこじれている。ましてや、今回は7兆円という巨額の買収。もってのほかとの思いだろう」(国内大手製薬会社社長)

 6月末の株主総会が注目される所以だ。さらに武田薬品は18年後半に臨時株主総会を開き、大量の新株発行に関して特別決議を得る必要がある。

 買収される側のシャイアーも事情は同じだ。シャイアー側は株主の75%が身売りに賛成しないと成立しない。

 ウェバー社長は5月9日、共同通信のインタビューで「シャイアーを買収完了後、武田薬品に吸収合併する」考えを示した。「シャイアーを武田薬品の中に入れていく。シャイアーの名前を維持するわけではない」「武田薬品の取締役会にシャイアー側の取締役を最大3人受け入れる」としたが、シャイアーの社名が消えることに、シャイアーの既存株主はどのような反応を示すだろうか。「(ウェバー社長は)踏み込み過ぎ。シャイアーの臨時株主総会前は、あまり刺激しないほうがいい」(武田薬品関係者)との懸念の声も挙がっている。

 シャイアーは米NASDAQに上場している。武田薬品が吸収合併すれば上場は維持できなくなる。M&Aに詳しいアナリストは、次のような疑問点を指摘する。

「1株当たり27.26ポンド分を武田薬品が発行する新株で支払うが、シャイアーの株主が武田薬品株を売買しやすいように、買収完了後に(武田薬品は)NY証券取引所にADR(米国預託証券)を上場することを決めた。これでシャイアーが合併に向けて前向きなったといわれているが、シャイアーの株主にとって武田薬品株は、本当に魅力あるものなのか。

 不安なのは、シャイアーの利益の源泉となっている希少疾病領域の新薬群の一部が、21年頃から特許が切れることだ。16年にシャイアーが買収した米バクスアルタの事業に早くも陰りが見え始めている。バクスアルタが“切り札”としている血友病治療薬にスイスのロシュが新薬で挑戦する(開発したのは日本の中外製薬)。独バイエルも新薬を開発中である」(在米の薬品業界のアナリスト)

 開発競争は激しさを増している。シャイアーの希少疾患治療薬が、これまで通り高い利益を稼ぎ出すという保証はない。シャイアーは武田薬品が買収提案をしている最中に、がん治療事業を仏のセルヴィエに24億ドルで売却すると発表した。シャイアーにとって「がん領域はコア事業ではない」との理由だが、武田薬品にとって、がんはコア(最重要)分野。「武田薬品はシャイアーに足元を見透かされている」との厳しい声もあがる。

BusinessJournal編集部

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