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「ブルーライトは目を傷めない」「PC用メガネは推奨しない」…米眼科学会が表明

文=佐藤博/ジャーナリスト
「ブルーライトは目を傷めない」「PC用メガネは推奨しない」…米眼科学会が表明の画像1「Getty Images」より

 スマートフォン(スマホ)やパソコン(PC)などの発する「ブルーライト」は、有害なのか無害なのか――。米国で一大論争が巻き起こっている。

 米国オハイオ州のトレド大学のアジス・カルナラスン(Ajith Karunarathne)博士は7月、「眼の光受容体が必要とするレチナール(網膜の杆状体に含まれる視紅の構成物質)の研究を重ねた結果、携帯電話、ノートPC、スマートフォンなどが発するブルーライトは、レチナールの毒性反応を誘発し、目の光受容細胞を死滅させることから、網膜の損傷を引き起こし、加齢黄斑変性症の進行や失明を早める可能性がある」とする研究論文を英オンライン科学誌『Scientific Reports』発表した(https://www.nature.com/articles/s41598-018-28254-8)。

 しかし、カルナラスン博士の研究に真っ向から反論する論調がある。

 米国眼科学会(AAO)は8月、「スマートフォンのブルーライトと失明に関連性はなく、ブルーライトは失明させない。ブルーライトは睡眠の妨げにはなっても、目を傷めるという科学的根拠はない。PC用メガネも推奨しない」と、強く表明した(https://www.aao.org/eye-health/news/smartphone-blue-light-is-not-blinding-you)。

 発表によればカルナラスン博士の研究は、極端な量の光を投射したラットでの動物実験の成果にすぎず、ヒトの眼から採取した細胞を使用していないので、眼の健康とは無関係だという。2017年に発表された「スマートフォン失明」という結果は、片方の眼を閉じながら、もう片方の眼でスクリーンを見続けたために一時的に発生した状態にすぎないという。

 さらにAAOは、ブルーライトをブロックする眼鏡やフィルターの効果が実証されず、長期的な副作用も不明だとして、ブルーライトをブロックする眼鏡やフィルターも推奨していない。

 ただ、ブルーライトは、サーカディアンリズム(概日リズム)に影響を与え、睡眠の質を低下させる可能性があるため、スマホや携帯電話を寝室の外に置くこと、ドライアイになる可能性があるので長時間、スマホや携帯電話を凝視しないことを推奨。眼の健康が気になる人は、眼科医に相談するよう呼びかけている。

 大衆紙USA Todayは、「携帯電話やタブレットからのブルーライトが網膜に損傷を与え、失明を加速し、視力を傷つけ、重大な睡眠障害を招く可能性がある」と警告した(https://www.usatoday.com/story/tech/nation-now/2018/08/13/blue-light-phones-tablets-could-accelerate-blindness-study/974837002/)。

 ブルーライトの功罪について、カルナラスン博士の研究の根拠か、AAOの反論の正当性か――。決着がつかない。

ブルーライトは肥満、糖尿病、心筋梗塞、がん、うつの元凶?

 ところで、ブルーライトとは何か。

 眼で見ることのできる可視光線のなかでもっとも波長が短く(380~500nm)、強いエネルギーを持つ青色光、それがブルーライトだ。スマホなどのLEDディスプレイLED照明が発するブルーライトは、波長が短いため散乱しやすく、角膜や水晶体が吸収できずに網膜まで到達するので、眼や身体に大きな負担をかけるのは確かだ。

 厚生労働省のガイドラインは「省エネ化でLEDが普及し、日常生活のブルーライトの暴露量が増え、VDT症候群(テクノストレス)が広がった。1時間のVDT(デジタルディスプレイ機器)作業を行った時は、15分程度の休憩を取る」ことを推奨している。

 また、厚労省の「技術革新と労働に関する実態調査」(2008年)によれば、パソコンなどのVDTを使う労働者は87.5%で、1人当たりの1日の平均作業時間は6時間以上。仕事以外での1日の平均使用時間は「1時間以上2時間未満」が19.2%、「2時間以上4時間未満」が11.5%となっている。

 ブルーライトによる眼へのダメージを軽減する製品の市場規模は拡大の一途をたどっている。アイマスクや眼鏡などの健康機器が数多く上市されるなか、アイケアを訴求した機能性表示食品は112品目に達した(2月14日現在)。ブルーライトを遮断する眼鏡、液晶画面の表面に貼るシートなども次々と発売され、格安めがねメーカー、ジンズの『JINS SCREEN』は5000円台の低価格設定が受け、2011年の発売以降、累計で800万本以上を販売しているという。

 にわかに沸き起こったブルーライト健康被害論争。ブルーライトが細胞を傷害するかどうかの問題と、スマホなどの依存が“眠らない24時間社会”に追い打ちをかけている事態とを、分けて考える必要がある。

 不眠はサーカディアンリズムを狂わせ、眼精疲労、ドライアイ、睡眠障害、肥満、高血圧、糖尿病、心筋梗塞、がん、うつなどのあらゆる現代病の元凶になる恐れがある。

 ブルーライト健康被害論争を尻目にスマートフォンを脇に置き。深まる秋をどう楽しむべきか思考をめぐらすのも一興だ。
(文=佐藤博/ジャーナリスト)

佐藤博/ジャーナリスト

佐藤博/ジャーナリスト

大阪生まれ・育ちのジャーナリスト、プランナー、コピーライター、ルポライター、コラムニスト、翻訳者。同志社大学法学部法律学科卒業後、広告エージェンシー、広告企画プロダクションに勤務。1983年にダジュール・コーポレーションを設立。マーケティング・広告・出版・編集・広報に軸足をおき、起業家、経営者、各界の著名人、市井の市民をインタビューしながら、全国で取材活動中。医療従事者、セラピストなどの取材、エビデンスに基づいたデータ・学術論文の調査・研究・翻訳にも積極的に携わっている。

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