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石徹白未亜「ネット依存社会の実態」【アプリ四季報 2018年7~9月】

TikTok、40代男性のユーザー増で10代の割合減少…“フェイスブック化”する可能性も?

文・構成=石徹白未亜/ライター
TikTok、40代男性のユーザー増で10代の割合減少…“フェイスブック化”する可能性も?の画像1TikTokの画面(写真:Imaginechina/アフロ)

 ダウンロードしたものの、数回使っただけで休眠状態だったり、アンインストールしてしまったりしたアプリがある人も多いはずだ。テレビCMなどでは「数百万ダウンロード突破!」と威勢のいい言葉をよく聞くが、実際にどんなアプリがどの性年代にどのくらい使われ続けているのか。

 本連載では、ダウンロード数だけでは見えない「アプリの利用率」をモニターの利用動向から調べるサービス「App Ape」を提供しているフラーに、四半期ごとに人気アプリの実態について聞いている。

 今回も、同社のコンサルティング本部長の岡田雄伸氏に2018年第3四半期(7~9月)を中心にアプリの動向を聞いた。

話題のTikTok、テレビCM開始で異変?

――こちらの連載では四半期ごとにその時期を象徴するアプリを岡田さんに紹介していただいています。18年7~9月のアプリのトピックとしては、何があるでしょうか?

岡田雄伸氏(以下、岡田) 18年1~3月期にも紹介した、10代の男女を中心に急激に利用者を伸ばした動画アプリ「TikTok」ですが、18年7月にテレビCMの放送を開始しました。

――テレビCMを開始して、ユーザー数はどのくらい増えたのでしょうか?

岡田 App Apeで見たアプリの所持ユーザー数推移はこちらの通りです。数値や割合の実数は出せないのですが、順調な右肩上がりが続いています。

TikTok、40代男性のユーザー増で10代の割合減少…“フェイスブック化”する可能性も?の画像2

――テレビCMが始まる直前となる18年5~6月の2カ月でもユーザー数を倍にしており、CMなしでも十分に伸びていたことがわかりますね。テレビCMにより、利用者の内訳はどう変化したのでしょうか?

岡田 CMを開始する直前の18年6月とCM開始から約2カ月がたった18年9月の、それぞれのユーザーの性年代比を比較してみましょう。まず、こちらがCM開始前のユーザーの性年代比です。

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――「10代のみに人気で、年代が高くなるほど関心が薄れていく」なら、利用動向は年代が上にいくほどすぼまるピラミッド型になりますが、40代男女、特に40代男性の関心がけっこう高く、そのためちょっといびつなピラミッドになっていますね。世代的に「保護者が子どもの利用動向を確認したい」という事情もあるのかもしれませんが、「かわいい10代女子の動画を見たい40代男性のニーズ」もあるのかなと推測されます。

岡田 そして、こちらがテレビCM開始後のユーザーの性年代比です。マスに向けて広告展開したため、性年代が均一化したことがわかります。

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――グラフの形が明らかに変わり、「10代のためのアプリ」感が薄れましたね。一方で、テレビCM前から存在感のあった40代男性は全体が均一化するなかでも高い割合を維持しています。

岡田 テレビCM開始後、ユーザー全体が純増するなかで10代男女も母数は増加していますが、割合は相対的に減っています。一方で、40代男性はCM後も一定数純増したことがわかります。日本の人口構成比に近づいてきています。

――テレビCMにより、若者は自分たちのサービスが他世代に侵食されるのを嫌がった一方で、40代男性は関心が高い状態が続いているんですね。

「若者向けブランド」を維持することの難しさ

――TikTokを見ると、フェイスブックを思い出しますね。日本では、いつの間にか「フェイスブックは中高年に人気のサービス」という雰囲気ができてしまい、若い人がほかのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)に離れていってしまいました。

岡田 若年層が利用の中心となっているコミュニティに中年男性が入ってくると、敬遠される傾向はありますね。なかには、出会い目的のコミュニティではないのにそういった目的で使ってしまう人もいたりしますから。

――そういった直接的なアプローチ以外でも、若い人だけで盛り上がっているなか、見当違いのアドバイスなど空気の読めない発言や振る舞いで場をしらけさせているのに気がつかないという人も多そうですね。そういった無邪気な中年男性は、若年層向けサービスを提供する事業者にしてみれば脅威だと思うのですが。

岡田 理想は「クローズドコミュニティの雰囲気でそのまま大きくなること」なんですよね。しかし、実際のウェブサービスはオープンコミュニティであり、クローズドではありません。コミュニティが小さかった頃にはいなかった層の人たちが入ってくることによって、若い人たちが「自分たちのいたコミュニティはクローズドコミュニティでなかった」と気づいてしまい、離れてしまう人もいるわけです。

――そこで、若年層向けブランドの価値確保を優先するか、ブランド価値崩壊を覚悟の上でマスを優先するかは、事業者にとって悩ましい問題ですね。

岡田 ブランド価値を守るならば、「ハードルの高いメディアコンセプト」を表に出すことが手っ取り早いです。たとえば「大きなサングラスをかけてスタバのフラペチーノを飲んでいる姿を、強めの加工をかけてあげている写真ばかりが多いという特徴を持つコミュニティ」なら、少なくとも投稿側に「それ以外の、たとえばきれいな山々を加工なしで撮った写真」は投稿されづらい、というような雰囲気を出すことはできます。

 ですが、閲覧自体は止めることはできませんし、オープンコミュニティである限り完全に投稿を防ぐことは不可能ですから、雰囲気をもって割合を減らすということで対処するしかないですよね。

フジテレビの動画アプリ、なぜユーザー急増?

岡田 「ハードルの高さを出す」以外にも、そもそも若い女性がコミュニティからいなくなれば中年男性がアクセスする可能性は減るかと思います。

――「若い男女」ではなく「若い男性」向けのコミュニティサイトなら、若者向けブランド価値は保たれやすいと。

岡田 もちろん、コンセプトによります。男性に特化したコミュニティもあれば、逆も然りです。ただ、若い男性をターゲットにした場合は、若い女性がコミュニティに一定数いると、アクセスは増えやすい傾向はありますね。

――「F1」(20~34歳の女性)という言葉がありますが、若い女性は男性を惹きつけるという意味でも消費の主役なんですね。

岡田 なお、TikTok以外では、18年7月にフジテレビのVOD(ビデオ・オン・デマンド)アプリの「フジテレビオンデマンド(FOD)」 が利用者数を伸ばしました。

――FODは以前からあるアプリですよね。きっかけがあったのでしょうか。

岡田 山下智久さん主演のドラマ『コード・ブルー』の映画版『劇場版 コード・ブルー-ドクターヘリ緊急救命-』(東宝)が7月27日に公開され、11月現在で興行収入が92.2億円(興行通信社調べ)と、2位の『名探偵コナン ゼロの執行人』(同)を抑えて18年のトップとなっています。

――『コード・ブルー』は3rdシーズンまで放送されたフジテレビの人気ドラマシリーズですね。

岡田 映画版の公開に伴い、通常は月会費が必要なFODでドラマの全シーズンとスペシャルドラマが6月14日より期間限定で無料配信されました。無料配信を開始した6月から映画公開の7月にかけて、月間利用者数が伸びていることがわかります。

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――フジテレビのホームページを見ると、このキャンペーンの無料配信の開始日は告知されていますが終了日は伝えられていません。ただ、グラフの形を見ると、おそらく月間利用者数が減っているタイミングで無料配信が終了したのでしょうね。「一時期無料にするので、その後は有料で使い続けてください」は、なかなかハードルが高いようですね。

「ネット」と「加齢」は相性が悪い?

 今回感じたのが、「ネット」と「加齢」の相性の悪さだ。TikTokのような若者に人気のアプリに中年男性が惹かれるのは、「動画に出てくる若い女性がかわいいから」というのがおそらく一番の動機だろうが、若者の適応力や順応性、自在に使いこなす軽やかさに惹かれる、という点もあるのではないだろうか。TikTokは特に顕著だったが、ヒットしたネットサービスの多くは若者から火がつく。

 ネットは変化が目まぐるしいので、「ネットユーザー」という立場でいるなら、適応力や柔軟性が高い若者のほうがより有利であり、使いこなせる。年長者の利点である経験は、こだわりになって邪魔にすらなるときがあるのだ。

 もともと、日本は長寿国のわりに加齢に対してネガティブなとらえ方が強い。さらに、若者に有利なネットに接する時間が長くなればなるほど、若さを渇望する気持ちと年を取ることへの嫌悪感がますます強くなっていくのかもしれない。全員、明日になれば今日よりは老けているというのに、これはなかなか暗い話だと思う。
(文・構成=石徹白未亜/ライター)

石徹白未亜/ライター

石徹白未亜/ライター

ライター。得意分野はネット依存・同人文化(二次創作)・ファッション。ネット依存では自身の体験をもとに書籍『節ネット、はじめました』(CCCメディアハウス)を執筆、NHK『ハートネットTV』、フジテレビ『バイキング』、朝日新聞、週刊文春等メディア出演多数。個人に向けたスタイリストとしても活動しており、著書に男性スーツ本『できる男になりたいなら、鏡を見ることから始めなさい。』(CCCメディアハウス)。ユニ・チャーム株式会社でのスーツ着こなしセミナーなど、ファッション研修も多くの実績あり。おうち大好きインドア派。同人誌と串揚げとしめさばとビールで生きてます。
●「主なプロデュース作品
『何になりたいかわからないけど就活を始めるあなたへ まず自己分析をやめるとうまくいく』辻井啓作(高陵社書店)
『自分のイヤなところは直る! 』牧野秀美(東邦出版)
『英語がサクッと口から出る 英語の「筋トレ」4センテンス繰り返しCDドリル 初級編 』渡部泰子(主婦の友社)

Twitter:@zPvDKtu9XhnyIvl

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