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なぜ出光興産の経営は「トロい&甘い」のか?ENEOSにどんどん引き離されていく

文=編集部
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出光興産のガソリンスタンド(撮影=編集部)

 出光興産は石油精製子会社、東亜石油(東証2部)の完全子会社化を狙ったTOB(株式公開買い付け)が不成立に終わった。買い付け予定枚数の下限である約206万株に対し、応募株数は47万株あまりだったため、買い付けは行わなかった。

 2020年12月16日から東亜石油のTOBを実施した。買い付け価格は1株2450円。TOB公表直前の東亜石油の株価に23%強のプレミアムをつけた。最大約150億円を投下することになっていた。ところが、東亜石油の株価は、年明け以降、上昇を続けた。3000円台に届き、3300円をつける場面もあった。出光が提示した買い付け価格を大きく上回ったままだった。出光は買い付け期限を2月2日から同15日に延長したものの、買い付け価格は変えなかった。TOBの最終日である15日の東亜石油の終値は3010円だった。

 東亜石油はもともと出光と経営統合した旧昭和シェル石油系。川崎市の京浜製油所で日産7万バレル生産していた。19年に統合したのに伴い、出光は東亜石油株の50.12%保有した。TOBを通じて持ち株比率を100%に引き上げ、経営の効率化と意思決定の迅速化を目指した。背景にあるのは、政府が2050年に温暖化ガス排出を実質ゼロにする目標を掲げたことだ。石油需要のさらなる減少が予想され、設備の集約が急務となった。

米ファンド、コーンウォールが東亜石油株を買い増して対抗

 東亜石油の第2位の株主である米投資ファンド、コーンウォール・キャピタル・マネジメントによる東亜石油株の買い増しがTOB失敗の原因といわれている。コーンウォールが東亜石油株の大量保有報告書を提出したのは18年5月。出光がTOB開始した昨年12月中旬の持ち株比率は18%だった。そこから一気に勝負に出た。2月12日時点で持ち株比率は約29%になった。TOB不成立後も買い増しており、2月25日には30%を超えた。

 コーンウォールは著名なファンドだ。創業者であるジェイミー・マイ氏は、作家マイケル・ルイス氏が著書『世紀の空売り』のなかで<2008年の金融危機を予見し、莫大な利益を得た投資家のひとり>として取り上げたことから名前が知られるようになった。「価格次第だが引き続きチャンスを見計らって挑戦する」。出光の幹部はTOBの失敗公表直後、東亜石油を完全子会社化する意思を改めて示したが、即効薬があるわけではない。

 一方、コーンウォールは「東亜石油や出光興産との対話を通じて東亜石油の企業価値の向上を実現したい」とコメントした。「東亜石油と出光との間の取引関係やコーポレートガバナンスの見直しなどを求めていく」と付け加えることを忘れていない。出光とコーンウォールの大株主2社で合計8割の株式を握る東亜石油株は、流通株比率の面で21年に判定作業が本格化する東証の新市場の市場区分の基準に適合しないという、やっかいな問題が横たわる。上場廃止になったら米ファンドも困るので妥協の余地はある、と市場関係者は見ている。高値で、集めた株を売り抜けるのがファンドの目的だからである。

 コーンウォールは日本株を買い占め、高値で売り抜けてきた実績がある。16年末、日立造船はジャスダックに上場する自動車業界向けプレス機械メーカーのエイチアンドエフ(H&F)を完全子会社にするため総額95億円を投じてTOBを実施した。H&Fの大株主である投資ファンドのコーンウォールはTOBに応じ持ち株を売却し、成果を挙げた。

 コーンウォールは、トラックや建機向けの鍛造品大手、シンニッタン(東証1部)株を大量に買い占めて24%を保有する筆頭株主となり、株式市場の話題になったこともある。シンニッタンは20年2月、自己株式を除く発行済み株式の25.25%を上限とする自社株買いを東証の立会外取引で実施。このときもコーンウォールは売却に応じて売り抜けた。

 コーンウォールの高値売り抜けの作戦は、TOBか、自社株買いに応じるかのいずれかだった。今後、東亜石油が自社株買いを実施し、コーンウォールが応じることになるというのが有力な選択肢になる、との指摘もある。問題は1株いくらで自社株買いを実施するかにかかっている。東亜石油に自社株買いを行うだけの財務面での裏付けがあるかどうかが問われることになる。

少数株主の保護

出光と昭和シェルの統合時の見通しの甘さのツケが出光に回ってきた」。東亜石油のTOBの失敗をこう総括するアナリストもいる。「出光の経営陣は何をやってもトロい」と酷評するアナリストもいる。

 19年6月、経済産業省は「公正なM&Aの在り方に関する指針――企業価値の向上と株主利益の確保に向けて――」(以下・指針と略)を公表した。指針には、MBO(従業員による会社買収)だけでなく、親会社による上場子会社の買収を対象に加えるとともに、「取引の公正さ」を担保するための措置について詳細に提言した。

 出光による東亜石油のTOBは親子上場の解消である。完全子会社にするにあたり、少数株主の保護に目配りしたかというと、疑わしい。親子上場解消という大義名分はあったとしても、少数株主の保護をないがしろにはできない。

 出光によるTOBの失敗は、少数株主の権利・利益の保護という重要な問題を突き付けた。親会社、上場子会社ともにTOBの狙いを詳細に投資家に説明する必要がある。出光は「TOB価格が安すぎる」と主張するコーンウォールときちんと対話したのだろうか。東亜石油の潜在的な企業価値はどの程度なのか。「有利子負債を除いた理論株価は3000円台前半」(M&Aに詳しい中堅証券会社の幹部)との試算もある。

 コロナ禍や脱炭素の動きで石油精製業界を取り巻く環境は一変した。業界トップのENEOSホールディングスは大阪製油所(大阪府高石市)の生産を停止するなど設備集約に向け着々と手を打っている。東亜石油のTOBに失敗した出光は、ENEOSに大きく水を開けられてしまった。

(文=編集部)

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