人事採用担当者覆面“本音”座談会「こうやって採用は決まる」
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「シャープは5000人、NECは1万人の人員削減」
かつて、日本経済の牽引役となった大企業。そこへ入社さえできれば、定年までの雇用と高額の退職金が約束された時代は、とうに終わったとの声がよく聞かれる。リストラや賃金ダウンで、転職を強いられる人もいるだろう。
前回に引き続き、今回は、
「転職、採用現場のリアルな実態」
「自社に、転職エージェントに、これだけは言いたい!」
などについて、日本企業の現役の人事採用担当者4人に、語ってもらった。
※前回記事はこちら
「人事採用担当者覆面“本音”座談会『転職に失敗する人の条件』」
――皆さんは、企業の採用担当者としてご活躍ですが、他の企業の採用担当者との横のつながりはあるのでしょうか?
A 意外とつながりが強い業界と、そうではない業界があると思います。
――皆さん会われて、具体的にどういうお話をされるのでしょうか?
D 年間何人採用していて、どういう体制で採用を行っているか、どういう方法を使って採用しているのかなどです。
A 採用って実はすごく単純で、より早く、安く、良いタイミングで候補者を入れることしかない。この「安く」の中に自分たちのコストも含まれるので、「より少ない人数で、安く採用する」ということが求められている。
B 採用予算は「今期これだけ」と決められていますが、どの部門が何人辞めるのかはまったくわからないので、絵に描いた餅のような予算です。ですので、他社がどのような採用方法をとっているかは、とても参考になります。
――ある意味、お互いにライバルでありながら、良い方法は取り入れようとする関係にあるわけですね。
C 今は違いますが、昔は「どこの転職エージェントが良い」などの情報交換をしていました。ライバルといっても、まったく同じことをやっているわけではないですしね。ただ、同じ業界内でも、採用担当者が他社との付き合いのない企業もあるようですね。
A X社とか?
一同 (笑)
――なぜX社は、他社と付き合わないのですか?
C 同業他社への流出が激しいからじゃないですか?
B しかも、X社さんは「エージェントを使わない」と決めた瞬間から、転職エージェントの“狩場”になっている。エージェントは「転職者を入れる会社」と、「引き抜く会社」を決めていますから。
転職エージェントはどう使う?
――一般的には、経験者の採用といえば、まず転職エージェントを使うということになるのでしょうか?
A 私は使っていますよ。一人でスカウトからスクリーニング(候補者の選別)まで、すべてをやるのは限界があります。エージェントからの紹介は、アウトソーシングのひとつとして、ある程度使っています。エージェントを使わない企業は少ないのでは?
C X社くらいですか?
B いや、X社も実は2~3社は使っているはずですよ。
D 日本人って公の場に情報を出さない。特に「欲しい」と思う人は今の会社で優遇されている人で将来有望視されていますから、わざわざ個人情報をパブリックの場に流さない。なので、そこにリーチするためには、やはりエージェントをある程度使わざるを得ない。
C 例えば、ウチと取引のある企業に採用したい人がいる場合、あからさまに引き抜くわけにいかない。そういう場合、お金を払ってもいいから、どこの誰かわかっているけれど、あえてエージェントに間に入ってもらうこともある。
――積極的にエージェントを使っているわけではないのですね。
A 役職によりますね。
B 普通に探していたら、絶対にこのレベルの候補者は見つからないというケースもあるので。
D ケース・バイ・ケースですね。
A 簡単に採用候補者が見つかる職ではエージェントは使わないようにして、自力でやっても届かないところをエージェントにお願いするようになりました。全体的にはエージェントを使うケースは減っているのですが、使うところはしっかりと使う。
C エージェントにも「付加価値を出さないと意味がない」と言っているのですが、理解してくれない。
B 確かに、僕もそう思いますよ。
エージェントに対する不満
――エージェントに対して「もっとしっかりしてくれ」とか「こういうことはやめてくれ」といった具体的な不満はありますか?
B 一番は、まったく条件が合わないのに、とりあえず紹介してくるケースですね。
A「とりあえず会え」って。
D 時間の無駄だよね。
C 例えば、ある大手転職エージェント会社Rの根本的問題は、成功報酬型のビジネスであることで、こちらの条件に合う、質の良い人材を探そうとすれば、ものすごく労力がかかるわけです。
B 同じく転職エージェントのI社は、「とにかく1人でも多くの転職希望者を、受け入れ先企業を探してバラまいてこい」というやり方。収益は一定するのですが、受け入れる企業のほうはたまったものではない。
D だからI社は、例えばある量販店さんが新しい店を出すので「この職種に20人欲しい」といった場合には有効に働く。ボリュームディスカウントも可能かもしれない。だけど、「こういうスペックで、こんなことができる人」と細かい要求を出すと、適当な人材を探してくる能力はない。
A だから、使い分けだね。
B 結局、登録型のR社とかにお願いしても、いつまでたっても候補者が来ないわけです。希望と違う人ばかり出てくる。僕らも人数が少ない中でやっているので、こちらのニーズにきちんと応えてくれるエージェントにお願いしたい。
無理難題を押し付けてくる会社
――皆さん、「勘弁してくれ」というような、会社に対する不満などはありませんか?
B 採用費用をもっと出してほしい。エージェントに頼らざるを得ないことがあっても、お金がないので使えない。
A それもそうだけれど、外資系企業の場合、本国の本社が日本の現状を知らないと聞きます。「日本はなぜこんなにかかるのか?」と言ってきて予算設定されるので、厳しいと聞きます。個人データを公表する習慣がないという日本の状況を、本社がわかっている場合はいいですが……。
C あと、採用担当者にとって厳しいのが、採用活動にかかる時間をカウントされるという点。日本だと書類選考から面接までで1カ月、入社するのにさらに1カ月かかる。しかし、会社から求められる採用日数は、ある職種について、採用活動開始が承認されてから入社するまで◯日です。
A それはすごいスピードだね。
D 承認されたらすぐに埋めないといけないので、事前に動いておく必要がある。エージェントを使えるかどうかわからないので、日頃から自分で探した候補者をどれだけ抱えているかが重要。
英語も仕事もできる人なんていない!
――人事採用で一番苦労しているところはどこですか?
D 新しい人材を探している社内の各部署が、いってみれば我々にとってみればお客さんだといえる。そのお客さんに満足してもらうためには、「早く人材を見つけること」が第一前提で、そうでないと、人事部の採用コストが下がって喜んでいても、それは内側の喜びでしかない。
A われわれはお金を持っていないので、採用イベントや転職エージェントの使用料は、採用を行う社内の各部署が支払います。人事は本当に権限がなくて、社内にいるエージェントのようなものです。
D あと、外資系企業の採用担当者に聞いたのですが、外資の場合、「英語ができるヤツは、日本にはそんなにいないんだ」ということが、本国の連中にわからないみたい。特に営業は、国内のお客さんを向いて仕事をしているので英語の必要がない。大きな案件を動かせて、お客さんの経営層と強い人脈を持っていて、それで英語がバリバリできる人なんか、ホントいないんですよ。
「シンガポールにはいるのに、なんで日本にはこんなにいないんだ」と言われて、その感覚が理解してもらえない。そもそもいないですよね、英語のできる日本人て。向こうにしてみると、「中学・高校・大学と10年も英語やって、なんで話せないの?」って理解し難いようです。
B でも、逆に英語しかできない人に惑わされることもある。帰国子女系の人で、「英語がすごい」ということで雇ったら、まったく仕事ができない人だったというケースもよく聞きます。
――人事の評価・報酬は、どう決まるのですか?
C やはり、どれだけ埋めなければならないポストの数に対して、どれだけ採用できたかです。
A 会社によっては、エージェントのように「1人決めればいくら」と、年収がド~ンと上がるところもあります。これは会社の価値観ですね。会社のビジネス全体を考えたら、「このポジションは、いま採らないほうがよい」とか、背に腹は代えられないと言いながらクオリティの低い人を入れるのは「やめたほうがよい」という判断もできるのですが、何人決めていくらだったら、「とりあえず決めておけ」となります。そこは会社の考え方ですね。
(構成=編集部)
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「人事採用担当者覆面“本音”座談会『転職に失敗する人の条件』」