結果を見て、「やはり私立校は進学に強い」「難関大学に行くには、やはり私立」と受け止めた向きは多いのだろう。確かにトップクラスの私立進学校の進学実績は優れている。1970年代に都立校や首都圏の公立校の多くが学校群制度によって凋落してしまって以降、難関大学の合格者ランキングで上位を占め続けているのも事実だ。
しかし過去のデータを丹念に追ってみると、また違う眺めが見えてくる。「難関大学への進学ならば絶対に私立校」とは言い難くなっているのだ。
文末の表は、例年東大合格者数で上位に顔を出す私立進学校の、この3年の東大合格者数とピーク時の合格者数を比較したものだ。首位が定位置になっている開成や超安定校の駒場東邦、新興勢力である渋谷教育幕張はともかく、他の私立進学校の最近の実績は最盛期には遠く及ばないことがわかる。中にはピーク時と比較して4分の1近くまで激減してしまっているところさえある。意外に感じる方は多いかもしれないが、トップクラスの私立進学校であっても、もはやかつてほどの進学力を示せなくなっているわけだ。
多くの私立校の東大合格者数のピークが1980年代から90年代に集中しているのも、関係者や学生の努力ばかりではなく、経済環境も影響していると思われる。80年代はバブルに象徴される好況の時代であり、なんであれ価格の高いことが評価されるような風潮さえあった。90年代はバブル崩壊があったものの、世帯収入は90年代後半まで伸び続けていた。厳しくなりつつあったものの、公立校に比べて格段に高い私立校の学費の負担に耐えられる家庭はまだ多かった。
●巻き返し著しい公立
退潮傾向の私立校に対して巻き返しているのは、かつての名門公立校だ。今年の東大合格者数を見ても日比谷、浦和、西の3校が30人台、岡崎、国立、旭丘、岡山朝日など9校が20人台に乗せた。
私立の進学校は男子校が圧倒的に多い。一方、公立校の場合、男女共学でほぼ同数の高校が多い。東大、京大の学生の8割は男子であり、旧帝国大学(東北大、九州大、北海道大、大阪大、名古屋大)も男子の比率が7割前後だ。このように最頂点に立つ難関大学は女子の合格者が少なく、確率から見ても男子校は共学校に比べて合格実績を高めやすい傾向がある。逆にこの点を考慮すると、私立校より男子比率が低い共学の公立校(日比谷、西、岡崎など)の進学力は、数字以上に評価されてよいわけだ。
公立の旧名門校復活の背景には、学区制の廃止や、独自テストの導入、行政による進学重点校の指定などのテコ入れがあった。ただ、こちらも時代に支援された面はある。デフレと低成長がキーワードになった2000年代以降、多くの家庭では生活の防衛に追われ教育費をふんだんに使うことは難しくなった。学費負担の重い私立よりも公立(現在は授業料無料)へと保護者の支持が集まるのは当然であった。今や高収入層でも例外ではないようで「富裕層の多い東京・世田谷区、杉並区あたりでも都立の上位校や中高一貫校に関心を持つ保護者が明らかに増えている」(学習塾講師)という。