「むしろ大手チェーンの総合居酒屋こそ、完全禁煙で差別化をする必要があります。今の大手総合居酒屋はどこも商品で差別化ができておらず、いまだに飲み放題や団体割引といった価格面での付加価値に頼っている状況です。しかしそれだと、宴会の時期くらいしかお客さんを大量に呼び込むことができません。今は性差問わず全年代で喫煙者が減ってきていますし、また女性陣にとってはタバコ臭い宴会の場でオヤジの相手なんかしたくない、というのが本音でしょう。ですから完全禁煙の居酒屋が出てくれば、非喫煙者層や女性層を取り込むことができると予想されます。
また、喫茶店の場合は、何を付加価値とするかで対応が変わってくると考えられます。例えば全席禁煙を打ち出しているスターバックスは、おいしいコーヒーを付加価値として成功しているチェーン店です。お客さんにはコーヒーの味と香りを楽しんでほしいと考えているので、そこにタバコの煙が入ってくると味も香りも損なわれてしまうわけです。コーヒー自体に付加価値を持つお店であれば全席禁煙化がなされるでしょうし、逆にコーヒーの安いお店であれば、150円くらいのコーヒー代でタバコを吸えることを付加価値とすることもあるかもしれません。
そもそも近年喫煙者が減ってきている理由として、健康や金銭的な問題のほかにも、料理の味を楽しみたいと考える方が増えてきていることが挙げられます。そういう意味でも全席禁煙のお店は増えていくでしょうし、あくまでフードアナリストである私の個人的な意見ではありますが、飲食店は食事を楽しむための場所なので全席禁煙であってほしいとは思います」(同)
今後の課題は喫煙者の権利も確保すること、「完全喫煙店」登場の可能性も
禁煙化を語るうえで、世界の喫煙事情を避けて通ることはできない。日本は遅ればせながら禁煙というワールドスタンダードに追いついてきたわけだが、その背景事情について、重盛氏はこう語る。
「日本はこれまで、非喫煙者の権利が認められていないような状態でした。それこそ昔は路上でもタバコを吸えましたし、新幹線にも喫煙車両があったくらいですからね。なぜかというと、タバコ税の収入が相当大きかったので、政府も健康より税収優先で考えていたのです。ただ、海外からの観光客を迎えることを考えると、非喫煙者の権利を認めていく必要がありました。つまり、ワールドスタンダードに合わせて外国人が訪日しやすい環境をつくるためにも、税収がどうこうなどとは言っていられなくなったというのが実情でしょう」(同)
海外を見習うべきなのは禁煙化だけではないという。
「海外では禁煙化を推し進めると同時に、タバコを吸える環境もちゃんと整備されており、非喫煙者の権利と同じくらい喫煙者の権利も大事にされています。今の日本は、非喫煙者は権利を行使できますが、喫煙者からは『どこで吸えばいいんだ』という叫びが聞こえてくるような状況です。
これから完全禁煙のお店が増えていけば、スモーキングオンリーと銘打ってタバコを吸えることを付加価値とした『完全喫煙』のお店が登場する可能性もあるでしょう。他にも有料トイレのように、100円払えば快適にタバコを吸うことができる『有料喫煙スペース』が業態として出てくるかもしれません。いずれにしても、喫煙者と非喫煙者、両者の権利をどうやって成り立たせていくか、というのがこれからの課題になってくるといえます」(同)
2020年に開催される東京オリンピックのためにも、禁煙化は速やかに行わなければならない問題だろう。しかし、訪日外国人にも喫煙者は必ず存在している。一方的に禁煙化を推し進めるのではなく、喫煙者と非喫煙者がお互い嫌な思いをすることのない社会へと変遷していくことを願いたい。
(文・取材=A4studio)