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旧日栄、倒産直前に創業家が大儲け!?

「目ん玉売れ!」の商工ローンと武富士が強力タッグ

文=北健一
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「目ん玉売れ!」の商工ローンと武富士が強力タッグの画像1ロプロ(旧日栄)に吸収された旧武富士。
(「ウィキペディア」より)

 2010年に経営破綻し、会社更生手続き中であった大手消費者金融・武富士を、個人/法人向けの融資やローンサービスを手掛けるロプロが呑み込む会社分割(ロプロを承継会社とする吸収分割)が行われた。ロプロといえば、昔の名前は「日栄」。10年ほど前、債務者に対する「金がないなら腎臓売れ! 目ん玉売れ!」などの恫喝で、話題になったあの会社だ。

 そのロプロと、組織的な盗聴を繰り返してきたとして、当時の武井保雄会長逮捕にまで発展した武富士が合体するとは、目まいがしそうな話だが、実はロプロは09年、武富士より先に経営破綻していた。その会社更生プロセスには、創業家だけが大儲けしていたという、知られざる「計画倒産」疑惑が囁かれている。

 昨年12月8日、京都地裁の法廷では、東京地裁から出張した裁判官と書記官、弁護士が、一人の男を待っていた。その男の名は松田一男。言わずと知れたロプロ(旧日栄)創業者である。一男氏は、彼から00年に同社社長を継いだ息子の龍一氏とともに、過払い債権者から訴えられていた。「顧客を手形の罠にはめ、違法金利を強制的に巻き上げる経営が生んだ損害を償え」というのが原告の主張である。

 出廷時間を過ぎても一男氏が姿を現さないので、やむなく「不出頭」という扱いになった。「松田氏の弁護士は、『体調が悪いから尋問に耐えられない』と主張しました。しかし、カラオケに通っていることがわかり、『それなら話を聞こう』となり、今回松田氏が出廷する予定になっていたのです」(原告代理人の茆原洋子弁護士)。一男氏はカラオケだけでなく、代表取締役を務める松田観光(京都市)という不動産管理会社にも出勤している。ちなみに彼も同社も、ロプロ破綻まで同社の大株主だった。

 2963万円もの過払金のほとんどを会社更生で踏み倒された原告は、こう訴える。

「違法な金利を取ったままにして、『会社から過払金は返さない』『松田親子も個人も責任を取らない』のでは、どうしても納得がいきません」

 言われるがままに「借金」を返してきたら、実は過払いになっていたことがわかった。そこで過払金を返してもらおうとしたら、貸金業者が経営破綻し、雀の涙の配当金だけ。そんな目に遭った過払い債権者が怒るのも無理はない。

 本来なら、会社更生の際には会社から独立した管財人がついて、旧経営陣の責任を追及する。ところがロプロや武富士の破綻については、法曹界から次のような疑念の声が上がっている。

「ロプロから独立して同社経営陣の責任を追及すべき管財人に、なんと同社から多額の報酬を得て、同社の会社更生(=破綻)申立代理を委任されていた弁護士がついたのです。管財人は裁判所によって選任されたのですが、これで旧経営陣の責任が十分追及することが果たしてできたのか?」(法曹関係者)

 関東弁護士連合会は、1月19日に発表した意見書の中で、大手貸金業者の会社更生について、
「このとき、更生会社経営陣や大株主と密接な関係にあった更生会社の申立代理人が管財人の立場から公正かつ厳格にその責任を追及できるのか、過払金返還請求権を有する債権者が疑念を持つことにもなろう」との見解を示している。

ロプロに囁かれる「計画倒産」の疑惑

 ちなみに、ロプロと武富士の管財人は同一人物である。”倒産村”の実力者・小畑英一弁護士だが、筆者が取材を進めると、ロプロには「計画倒産」としか思えない疑惑が浮かび上がった。

 まず目に付くのは、過払い債権者はそっちのけで、銀行や社債権者など”強者”にだけ倒産前に優先して返済していることだ。一男氏へのカネの流れも半端ではない。莫大な一男氏の退職金や配当はもとより、倒産直前に限っても、一男氏およびロプロ傘下の企業が、ロプロにカネを貸し、かなりの金利収入を得ている。一男氏はロプロに多数のビル等も貸し、多額の賃料収入も得ていた。こうした事実から、表向き経営から身を引いていた大株主である一男氏と、当時の同社社長である長男・龍一氏が共謀して、「倒産に備えロプロの資産を外部へ移転したのでは?」との疑いは拭いがたい。

 さらに問題なのは09年9月、つまり破綻2カ月前の「子会社再編」である。それによって、ロプロから子会社・ギャランティパートナーに8.6億円が出資された。そしてギャランティ社には約3億円(10年1月末)のキャッシュ資産があったにもかかわらず、ロプロと創業家が保有するギャランティ社の株式100%をわずか2.3億円で、子会社2社とまとめて、第三者に叩き売ってしまったのだ。つまり、一男氏が、ロプロから子会社に金を流し企業価値を上げておいて、その子会社の株式を売却し利益を得た疑いがあるのだ。

 一男氏と現在彼が社長を務める松田観光に取材を申し込むと、「松田は経営を退いてから随分たち、取材はお受けしていない。ノーコメントです」(同社社長室)とのこと。自社の社長について「経営を退いて」と答える社長室も珍しいが、松田氏にとって「経営」といえば、今でもロプロのこと、なのだろう。

 これほどの疑惑は封印されたまま、ロプロはJトラストグループ(藤沢信義代表)に入って過払いの重荷を降ろし再出発した。そして3月1日、前述したように、ロプロが武富士を吸収する会社分割が発効した。

 貸金業界関係者が言う。「過払いさえ整理すれば、顧客はキャッシュフロー=利益を生んでくれるありがたい『資産』です」。会社更生の名の下に、生活や生業をつぶされた過払い債権者が泣かされ、豪邸に住む創業一族が責任を逃れ、「目ん玉売れ」のロプロと盗聴大好きの「武富士」が蘇る。
(文=北健一/ジャーナリスト)

北健一

北健一

フリーランスのジャーナリスト。コンビニ加盟店ユニオンとの共著に『コンビニオーナーになってはいけない』(旬報社)、単著に『その印鑑、押してはいけない!』(朝日新聞社)など。2020年3月、第68回東京労働大学専門講座(労働法コース)で都知事賞を受賞。

Twitter:@k_kitaken1965

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