東京ミネルヴァ“破産問題”…元武富士社員が弁護士事務所に食い込んだ“一千万円丸抱え”
「弁護士法人東京ミネルヴァ法律事務所」(以下、東京ミネルヴァ)の負債約51億円の倒産劇で、元武富士社員らの暗躍が指摘されている。つまり、元武富士社員らが東京ミネルヴァの「金」「人」「広告」を握り、利益を吸い上げていたというのだ。
このような元武富士社員らの暗躍については、2010年、松永晃弁護士(当時、以下同)が月刊誌『紙の爆弾』(鹿砦社)や弁護士会に告発している。さらに、元武富士社員の兒嶋勝氏が経営する広告代理店「DSC」から広告代金の支払いを求められた訴訟でも、松永弁護士は「元武富士社員らが『非弁提携』(弁護士以外の者が弁護士の名義を利用して利益を得ること。弁護士法違反)を企てていた」として、契約の無効を主張した。
しかし、弁護士会は元武富士社員らの暗躍を放置し、裁判所も元武富士社員らの一部の行為を「非弁提携の疑いがある」と認定したものの、松永弁護士に広告代金を支払うよう命じる判決を言い渡した。
訴訟の経緯については、前回の記事【東京ミネルヴァ“破産問題”で問われる「裁判所と弁護士会の責任」防げたはずの武富士支配】で報告しているが、この訴訟の尋問調書を読むと、元武富士社員らが、どのようにして松永弁護士を籠絡していったのかがよくわかる。現在、同様の立場の弁護士がいないとも限らないので、今回の記事では尋問調書の内容を紹介したい(敬称略)。
開業資金1000万円を、元武富士社員の会社が丸抱え
東京地裁で行われた尋問で、松永弁護士は裁判官の質問に対し、以下のように証言している。
裁判官 事務所を開くにあたって、開業資金というのはどうしたんでしょうか。
松永 「KKサポート」(宇田篤雄、木村博、菊池公宏の元武富士社員3人が取締役を務める人材派遣会社)から基本的には出していただきました。
裁判官 いくらくらい資金を援助してもらったんでしょう。
松永 広告費等も含めて全体で1000万円前後です。
裁判官 費用を丸抱えにしてもらうことについて、弁護士法との関係であなたはどのように考えていたんでしょうか。
松永 弁護士法でそれを規制する規定はありませんので問題ないと思っておりました。銀行から借りるのも結局、個人や親戚、友人から借りるのも大差ないですので。
裁判官 資金援助の返済については、月々いくらという合意だったんですか。
松永 金額の合意はないです。売り上げが確実に上がるかどうかまったくわかりませんでしたので、実際にふたを開けてみてそこで調節するということになっておりました。
裁判官 どうして木村さん(KKサポート代表取締役)はその先行きがわからないのにそういった資金援助をしてくれるとあなたは思っていたんですか。
松永 私と木村氏が話をしたときにどういった法律事務所を運営したいか、どういった債務整理事務所を運営したいかということを私はとうとうと語ったんです。で、その結果として木村氏がなかなか面白い考え方を持っている人で、こういう考え方を持っている人には初めて会った、ですのでいろいろと便宜をはかりたいと、そういうような話からこの資金援助になりました。
元武富士社員におだてられ、「調子に乗りすぎてしまった」
裁判官の質問のあと、原告(DSC)代理人の中村信雄弁護士の質問に対し、松永弁護士は以下のように証言している。
中村 常識的に言うと、我々の世界では、そんな丸抱えで全部事務所費用も賃貸借契約も、全部持ってもらったらそれはまずいだろうってふつう思いません。
松永 当初は私は自分のお金でやる予定でいましたが、木村氏や宇田氏が私の方法ですとか、戦略ですとか、考え方をものすごく褒めるので確かにその点については、私がちょっと調子に乗りすぎていたのではないかというところはあると思います。私は、木村氏が言うにも宇田氏が言うにも、他の弁護士と話しても、これだけのアイディアを持っていて、これだけの行動力を持っている先生はいませんよと言いましたので、やはり調子に乗って、これくらい便宜をはかっていただくのは当然かなと思っていた面もあります。
なお、DSCは「KKサポートが松永弁護士に資金援助していることは聞いていたが、詳細は知らなかった」という立場である。
一番最初の受注で、いきなり“4カ月の支払猶予”の怪
一方、DSCも松永弁護士に広告代金の支払いで便宜をはかっている。これに関しては、裁判官が兒嶋氏の尋問で問い詰めている。
裁判官 ちょっと裁判所でわからない点があるので、ちょっとお聞きしたいんですけれども、一番最初に(2009年)6月に受注を受けましたよね。
兒嶋 はい。
裁判官 そのとき80万部の受注を受けた。これはどれぐらい時間をかけて、配るものだったんですか。
兒嶋 基本的には1カ月間の中で配るように、手配をしております。
裁判官 これを分けて配るとか、そういうものではない。80万部を1カ月。
兒嶋 はい、1カ月です。
裁判官 それは最初からそうだった。
兒嶋 最初からです。
裁判官 それで支払いを10月に延ばしている理由は、どこにあるんでしょうか。
兒嶋 まず宇田さん含めて、松永弁護士に要請をされました。4カ月間、据置きにさせてくれと。理由としましては、債務整理というビジネスに関してはまず(依頼者から)受任をして、(消費者金融が依頼者の取引)履歴を出して、先方と和解して交渉になってお金になってくるのがちょっと遅いので、できるだけ手持ちを出したくないということで、4カ月間時間を猶予をくださいということで言われました。
裁判官 そのあとさらにその翌月も、同じような部数を受注してますよね。
兒嶋 はい。
裁判官 それも支払いが。
兒嶋 4カ月。
裁判官 あなたとしては、不安にはなりませんでしたか。
兒嶋 正直不安ではなかったです。
裁判官 それはほかの仕事だと、そういうことはあまりないと思うんですよ。
兒嶋 今でも当然よく言われるんですけども、その当時は実績もけっこうありましたので、ポスティングを配ればこれだけの反応があってと。事実、小さな個人事務所なんかも、支払いをちょっと猶予しておつき合いを、分割であったりとかっていうのをしていっていたのが何カ所もありましたので、特に不安というのはなかったです。
裁判官 他の事務所でやった実績から、問題がないと判断したということですよね。
兒嶋 はい、今もうちの支払サイトの平均が4、5カ月ぐらいで推移しております。
松永弁護士の場合、1カ月の広告代金は約400万円だった。それを1円も受け取らず、4カ月先行させるというのは、やはり裁判官が指摘するとおり、「あまりない」ことではないのか。
一方、松永弁護士は尋問で「DSCの方からそういう形でさせていただきますと言いましたので、お言葉に甘えることにしました」と証言している。「甘い話には裏がある」という格言は、弁護士が依頼者だけでなく、自分自身にも言い聞かせるべきだ。
(文=寺澤 有/ジャーナリスト)