近年、若い女性の間では密かに仏教徒の僧侶、いわゆる“お坊さん”が結婚相手として人気を集めている。
どんな悩みを抱えていようが親身に相談に乗ってくれる癒しの存在として好印象なこともあるだろうが、お坊さんたちが高収入であると考え、魅力を感じている女性も少なくないという。
古来「坊主丸儲け」といった言葉があるように、僧侶には裕福なイメージがあったが、昨年10~12月まで放送されて人気を博した連続テレビドラマ『5→9 ~私に恋したお坊さん~』(フジテレビ系)では、ジャニーズタレントの山下智久が有名寺院の跡取りである僧侶役を演じたことから、ますますお坊さんの経済力に注目が集まっているようだ。
そこで、実際のお寺とお坊さんの経済事情について、『お寺の収支報告書』(祥伝社)の著者であり、曹洞宗見性院で住職として働く橋本英樹氏に話を聞いた。
税金面でかなり優遇
「一般的なお寺の収入源としては、やはり葬儀や法事、お盆供養やお彼岸供養などでのお布施が大きな割合を占めます。また、それなりに歴史があり、由緒あるお寺になると安定して参詣者が訪れますので、参拝料やお賽銭でかなり収入は上がります。
それだけではなく、まさに“坊主丸儲け”という言葉に即している実態もあるのです。まず、宗教法人に入るお布施はすべて非課税です。何より、住職と檀家では住職のほうが強い立場にあるため、お布施の額の決定権は寺院側にあり、提示された額が高額でも檀家は断りづらい関係にあるのです。額も定額化しているわけではなく、株価のようにその時々で変動しますので、檀家はいつもビクビクしています。そのせいか最近は檀家との関係がギクシャクしている住職が多いと聞きます」(橋本氏)
お布施の平均額は40万円前後とされている。坊主丸儲けとは、元手が不要で詩経を読むだけで利益が出るという側面を揶揄した言葉でもあるが、大きな収入となるお布施が全額非課税ということは、文字通り丸儲けである。
「それ以外にも、お寺は社会に貢献しているということで、税金面でかなり優遇を受けています。お布施が完全に非課税である以外にも、宗教法人が所有する固定資産についても非課税です。もちろん宗教活動に使用することが前提となりますが、一般家庭や企業と比べるとかなり優遇されています。都会にあるお寺では、所有する土地を貸したり、マンションを経営するなど不動産収入を得ているお寺も多くありますが、そのような営利事業を営んでいる場合の法人税も一般企業よりもかなり低く抑えられているのです」(同)
「坊主一本では食えない」厳しい格差社会
ここまでの話だけを聞くと「安定高収入」は間違いなく、お坊さんになれば金銭的に困窮することはなさそうだが、必ずしもそうではないようだ。
「バブル期に比べると、ほとんどの寺院の収入は確実に右肩下がりです。特に田舎のお寺の経済事情は逼迫している場合が多々あります。都会のお寺と地方のお寺、そして檀家数が2000軒以上の大寺院とそうでないお寺では、全体的な収入に大きな開きがあるんです。過疎に近いような地域のお寺ですと檀家数も多くありませんので、お葬式や法事の数自体も少ないですし、参拝料や不動産収入もありません」(同)
寺院社会も厳しい格差社会となっているのか。
「有名でかなりの収入がある寺院であっても、収入がそのまま住職や従業員の給与になるわけではないので、普通に暮らすだけならば十分であっても、それほど高所得というわけではありません。実は多くのお坊さんが僧侶一本で生計を立てられていないのです。田舎にある小さな寺院では、お寺の収入だけでは暮らせず、別の仕事で生計を立て、副業的にお坊さんをしているという方が多いです。安定したほかの職業についているからやっていけているというのが現実です」(同)
そのような現実があるにもかかわらず、サラリーマンを辞めてお坊さんとして静かに暮らしたいという人は年齢を問わず多くいる。
「お坊さんの資格を取るだけならば、誰でも取れます。ただ、古い因習が残っていて閉鎖的・排他的な世界ですので、しがらみが強く、よそから入ってくる人を認めようとしません。また、若いお坊さんが何か新しいことを始めようとしても、高齢のお坊さんらから反対され、最悪の場合はその土地から追い出されることもあります。サラリーマンからお坊さんになった方の話をよく聞きますが、かなり厳しいことは間違いありません。ただ、それでもやりたいのであれば、お寺の娘さんと結婚して婿養子になるのが一番です」(同)
「坊主丸儲け」を地でいけるのは、ほんの一握りというのが実情で、決して楽して稼げる“仕事”ではないということか。
(文=日下部貴士/A4studio)