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宮永博史「世界一わかりやすいビジネスの教科書」

鹿と列車の衝突事故、年間5千件…激減させる画期的方法を、なぜ素人が開発できた?

文=宮永博史/東京理科大学大学院MOT<技術経営>専攻教授
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 通常の柵は線路面に垂直に立てるが、梶村氏のアイデアは盛り土の斜面に立てるというものだ。城の石垣が反り返っていて敵の侵入を防ぐように、柵が斜めになっていると鹿は線路に侵入しにくい。逆に線路に入ってしまった鹿にとっては逃げやすい。半年間にわたって検証した結果、鹿の侵入件数は171件から4件にまで激減したという。この柵を「ユカエル」と名づけて商品化した。

 日鐵住金建材は鉄の会社だから柵の解決法は理解できる。梶村氏の商品開発はそこで止まらない。鹿が線路に入る理由が鉄分を求めているのであれば、線路に入らなくても鉄分を吸収できるようにすればよい。そこで、塩にわずかな鉄分を混ぜ、「ユクル」と名づけて商品化したのである。実際に鹿がユクルをなめている様子が観察されている。鉄の会社とは思えない商品化だが、まさに顧客の立場に立った商品化といえる。ユカエルとユクルは、鹿との衝突事故に悩む鉄道会社が採用し始めているという。

製品開発に行動観察を

 梶村氏の商品化は鹿の行動を観察するという情報収集から始まった。動物にヒアリングするわけにはいかないから行動を観察するしかない。なまじ人間は口をきけるだけに、つい行動観察しようと思わないが、行動観察は人間に対しても有効だ。実際に消費財メーカーは家庭に入って主婦の行動を観察し、その知見を商品化に生かしている。

 家電メーカーはテレビで儲けが出ないと嘆く。しかしその前に、4Kや8Kなどという技術者の自己満足の製品開発をやめて、テレビを視聴する人の行動観察をしたら、魅力的な製品を開発できるヒントが得られるのではないだろうか。

 販売不振の原因は、もしかしたらテレビそのものではなくて、複雑で使いにくいリモコンかもしれない。たかがリモコンと侮ってはいけない。米アップルの製品に人気が集まるのは、突き詰めていえば、ヒューマンインターフェース(人の使い勝手)の心地よさなのではないだろうか。
(文=宮永博史/東京理科大学大学院MOT<技術経営>専攻教授)

【参考文献】
『鹿も満足衝突防止策』(2015年10月20日付日経産業新聞より)

●宮永博史 
東京理科大学大学院 イノベーション研究科 技術経営(MOT)専攻 教授
東京大学工学部・MIT大学院修了。1979年日本電信電話公社入社。研究所において半導体の研究開発に従事。AT&T、SRIを経て、2000年デロイトトーマツコンサルティング(現アビームコンサルティング)事業部長・統括パートナーに就任。2002年同社取締役。2004年より現職。主な著書に、『技術を武器にする経営』(共著、日本経済新聞出版社)、『全員が一流をめざす経営』(共著、生産性出版)、『世界一わかりやすいマーケティングの教科書』(中経出版)、『顧客創造実践講座』(ファーストプレス)、『幸運と不運には法則がある』(講談社+α新書)、『理系の企画力!』(祥伝社新書)、『成功者の絶対法則 セレンディピティ』(祥伝社)など。

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