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東京ヤクルト、なぜ最下位でも観客動員が激増? 神宮球場の「魅力」

取材・文=武松佑季

 さしてプロ野球に関心がない人なら、地上波のプロ野球中継の激減を見て、「プロ野球は昔に比べて人気がなくなったな」と感じてしまってもおかしくない。

 だが現実は、そうとも限らない。今シーズンの観客動員数は全858試合で、プロ野球史上最多を更新する2513万9463人、一試合平均2万9300人という数字を記録。実数発表が開始された2005年の1992万4613人(一試合平均2万3551人)と比較すると、なんと約26%も動員が伸びているのだ。

 かつて中高年が占めていた頃と打って変わって、最近の球場は家族連れや若い女性、さらに外国人も非常に多い。“カープ女子”という言葉も、そのムーブメントの一端を表した現象だろう。野球ファンには周知のことと思うが、今、球場観戦ブームが到来しているのだ。

 しかしこの盛況ぶり、野球熱が高まっただけが理由ではなく、球団や球場の努力があってのこと。そこで、そんな各球団の球団努力にスポットを当てていきたい。

“神宮呑み”をスローガンに観客増

 今回取り上げるのは東京ヤクルトスワローズ。チーム成績はシーズン96敗とセ・リーグでぶっちぎりの最下位となりながらも、主催試合は年間で前年比4.7%増の186万2731人の観客を動員(主催試合72試合)しており、5位と苦戦した昨年も、前年比7.4%増とリーグトップの動員伸び率を誇った。

 今年、個人的に驚いた場面がある。8月の平日、ふらりと球場に赴くと、チケット売り場に立てられた看板には「本日完売」の文字。平日、しかも優勝どころかAクラス争いも夢と消えたこの時期なのに、である

 その理由は、この日「生ビール半額ナイター」が開催されていたからだった。その名の通り、売り子さんたちが売っている生ビール750円が半額以下の350円で飲めるという内容で、このイベント自体は2013年から年間数試行っている。開催日は基本平日だが、これまでチケットは4度も完売した。イベントがしっかりとファンの間で定着したがゆえだろう。球団のイベントを企画、運用する東京ヤクルト球団営業部営業企画グループ課長の伊藤直也氏は話す。

「今年は1試合平均して『生ビール半額ナイター』では、5000人の増客がありました。多い時は7000~8000人増にも。ビールを半額にするイベントをやったのはうちが初めてではありませんが、この数字を見ると他球団さんは非常に驚く。サラリーマンやOLが仕事帰りに来やすい神宮球場の立地から考えて、家族、友達、同僚たちと野球観戦を楽しみたい方々がお得な半額ビールをきっかけに来場されるケースが多いからなんだろうと思います」

 神宮球場は球場周辺を含めて野球の雰囲気を楽しめるボールパークではないし、ましてや神宮球場は明治神宮の所有物で学生野球との併用球場でもある。広告にさける費用は多くなく、東京という地方出身者の集まる土地柄なので、広島東洋カープや北海道日本ハムファイターズなどのように地域に密着させるのは簡単ではない。

 だからこそ、会社帰りの観客に一杯飲んで帰ってもらう“神宮呑み”を提案したいと伊藤氏。その一環として、「生ビール半額ナイター」がある。そしてそれとは別に、今年は球場内外で全国の有名からあげ店舗が出店する「神宮からあげ祭」を開催した。

「こちらも3000~4000人もの増客がありました。やっぱり神宮の強みのひとつはここなんだなと再確認しました」(同)

球場の光景もSNSで拡散する若者たち

 もうひとつ、神宮に訪れる東京ヤクルトファン恒例となっているイベントがある。それが毎年夏の期間(7月下旬~8月下旬)の東京ヤクルト主催試合で5回裏終了時に300発の花火が打ち上がる「神宮花火ナイター」だ。

「神宮球場は都内にあるので、球場で花火を上げると球場から少し離れたところでも『これどこの花火?』『神宮のヤクルト戦で上げてるみたいよ』といった会話が周囲の方々から生まれるらしいんです。都内の、しかも山手線の内側で花火が上がることはあまり多くないので、意図したわけではないですが野球に関心がない人へのPRにつながっていますね」(同)

 野球を見ながら仰ぎ見られる夜空の打ち上げ花火は、野球ファンでなくとも格別なのである。さらにナイターの場合、試合開始直後にレフトスタンドの向こう側に沈んでいく美しい夕日を眺めることもできる。どちらも神宮球場ならではの光景だ。世はSNS時代。こういった体験や画像をインターネット上に投稿する若者の存在も、新規の観客が神宮に足を運ぶきっかけになっている。

「物質的でないメンタルの部分での娯楽要素も大切にしていきたいです」(同)

 現代はモノを購入するよりも、何か体験することに消費の意識が向いている時代。球団としてもそこを狙いたいのだ。

実績をあげて明治神宮も企画に前向きに

 もちろん、球団としての取り組みはそれだけではない。「仕組みづくり」「販促活動」「ファンベースの拡大」という集客に必要な3つの要素を企画立案の軸に、これまでもチケット発券、購入システムを大幅に変更したり、人気マスコットのつば九郎を全面に押し出したイベントの開催、東京都内の小学生に無料で観戦してもらう活動も長年続けており、今年は年間で小学生とその保護者あわせて3万人を神宮球場へ招待するなど、球団の仕掛けは多い。

 その苦労もあって、東京ヤクルトの今年度ファンクラブ有料会員数は2013年度の約3倍にジャンプアップ。それが集客にも反映しているかたちだ。

 観客増員の恩恵は興行収入だけでなく、球団の企画の実現性も高めている。繰り返しになるが神宮球場は東京ヤクルトの持ち物ではなく、明治神宮の所有物だ。球団だけで勝手なことはできない。だが客が入ればもちろん所有者もうれしい。だから、これまでやりたくても許可が出づらかったようなイベントも、集客が上がるならと、所有者側が首を縦に振ってくれるケースも増えているはずだ。

「結果的に球場の売上に貢献できれば、お互いウィンウィンの関係でいられます。なので、近年は球場さんも我々の提案した企画を前向きに検討してくれるようになったというのはあるかもしれませんね」(同)

 東京ヤクルトの営業企画グループは、今まさに来シーズンの準備に向けて佳境を迎えている。来シーズンに実施されるイベントや、来シーズンの観戦ルールやシステムづくりは、11月いっぱいでおおよそ固まるからだ。2018年はどんな企画でファンを楽しませるのか、また、その立地を生かしてどれだけ野球に興味のない人を神宮に引きつけるのか。来年も注目だ。
(取材・文=武松佑季)

武松佑季/フリーライター

武松佑季/フリーライター

1985年、神奈川県秦野市生まれ。編集プロダクションを経てフリーランスに。インタビュー記事を中心に各メディアに寄稿。東京ヤクルトファン。サウナー見習い。

Twitter:@yk_takexxx

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