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受信料合憲判決でNHKは居丈高に…「見ない人からも強制徴収」への抵抗手段消失

文=深笛義也/ライター
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 民放は、そのあたりをきちんと峻別しています。たとえば2016年の参議院選挙のとき、自民党がつくったCMには、安倍さんがサミットで各国首脳たちとランチしている画像や、オバマ前米大統領と一緒に広島に行った画像が入っていたのですが、それは総理大臣としての仕事の場面なので、民放各局の考査担当者が『これは放送できない』としてその画像は外されたのです。総理大臣としての仕事と、党のトップとしての仕事というのは分けないとおかしくなるわけです。

 だけどNHKの『衆院選特集~』では、そうした峻別ができていなかった。選挙公示日の朝の安倍さんが首相公邸で官邸スタッフと打ち合わせをしている様子が映されたのです。話題は、北朝鮮のミサイル発射のときにどう防衛するかということで、防衛官僚と思われる人物が『パトリオットミサイルの配備など、ちゃんと対応しています』という説明をして、安倍さんが『これはどうなの?』などといろいろ聞いている映像です。これはまさに総理大臣としての業務です。これを投票の後、開票特番のなかで放送するのは問題ないですが、投票日前日に放送してしまうというのは、やはり報道の倫理からかなりズレているといわざるをえません。そういったいろいろな部分の不自然さが、このところ目立っています」(水島教授)

 また、服部名誉教授もこう警鐘を鳴らす。

「NHKの籾井勝人前会長が『政府が右と言うことを、左と言うわけにはいかない』と言ったことに象徴されます。今年の終戦記念日前後には、戦争を考えさせるドキュメンタリーなどを放送していましたが、全体としては自民党・安倍政権との距離を考えた場合に、民放のニュースと比べても、かなり距離が近い。NHKは受信料を徴収しているから、国会で決算の承認を得なくてはならず、さらには政権政党との関係で経営委員会のメンバーなどをきっぱりとしたかたちで選べないという問題が、いつも起きています」

公共放送としてのあるべき姿

 では、海外における公共放送は、どうなっているのだろうか。

「イギリスにはBBCがあり、視聴家庭から強制的にテレビ・ライセンス料を徴収しています。ただ、放送の内容について、立場によっては批判する人もいますが、すごく政権にべったりな報道をしているとか、あるいは反政府的な報道をしているということで批判を強く受けることはあまりありません。『イギリスのBBC』という感じではなくて、『世界のBBC』という共通理解をどこの国でもされていて、イギリスに関わる戦争取材などでも、イラク戦争のときでも、イギリス軍に従軍取材する記者のレポートも入りますが、攻撃される側のレポートも入るのでバランスが取れているのです。BBCの放送はフェアだし、国民の知る権利に応えるジャーナリズムだと理解されています。受信料の徴収を強制する一方で、ちゃんとそれに応えるような放送内容であろうと努力しています。

 ドイツでは、それぞれ州によって公共放送の局が違いますが、イギリス以上に視聴者が参加できる番組があります。パブリックアクセスといって、誰もが放送というものに関与するという考え方が非常に強い。障がい者団体がどうしても公共放送で放送したいことがあるときに、公共放送の枠を使って放送にアクセスできるような仕組みができているんです。どうしても放送というのは、送り手のほうから受け手のほうに一方的に流されやすいですが、受け手の側も参加できるということをどんどん考えていかなきゃいけない。それがある程度確保されてこそ、公共性のある放送といえる。

 日本のNHKはそういう状態にはなっていないでしょう。どうしてもNHKというと、最近柔らかくなったといっても、偉そうであったり押しつけ的だったりというイメージを一般の視聴者は持っている。『自分たちが参加できるんだ』『自分たちがつくれるんだ』『自分たちが意見を言ったら、聞いてもらえるんだ』という関係性が必要だと思います。そこが遮断されたままで、『払わない人からは強制的に取り立てます』と言われても違和感があるのではないでしょうか」(水島教授)

受信料という曖昧な存在

 放送法ができたのは、放送局がNHKしかなかった時代だ。しかし今、民法がありBS、ケーブルテレビ、インターネット放送がある。あるいはテレビ受像機であっても、DVDなどのビデオ再生機としてしか使っていないという人も多い。NHKでは得られない情報をほかから得ているという場合も多く、「知る権利」の確保のために受信料制度が必要だというのは、きわめて説得力の弱い論理だ。

「電気やガス、水道の使用料みたいに、何時間見たからいくら取るということだって、デジタルになっているわけだから、できないことではない。受信料制度はNHKを支えていくための制度ですが、『なぜ払うのか?』という社会的な合意があるわけではなく、『隣の家も払ってるから、うちも払う』というようになっている。そういうアバウトなかたちで、年間7000億円近い金を集めるというのは、すごいことですよ。

 NHKの受信料というものが、曖昧な存在のままで今まできた。最高裁の判決は、それをきちんと論理立てたということではなくて、すごく脆弱です。合憲だというのであれば、もっと根拠を示していかないといけない。今回の判決をもとにして、払う人が増えるということにはならないなと感じます。日本社会における“ゆるやかな縛り”が今回の判断にも出たのかなと思います」(服部名誉教授)

 NHK受信料制度への疑問を改めて強めてしまった、最高裁判決だったといえるのではないか。
(文=深笛義也/ライター)

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