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スズキ、トヨタ傘下入りが現実味…中国の所得水準上昇に伴い販売不振→全面撤退

文=編集部
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スズキ、トヨタ傘下入りが現実味…中国の所得水準上昇に伴い販売不振→全面撤退の画像1スズキ本社(「Wikipedia」より)

 スズキは9月4日、中国自動車大手の重慶長安汽車との合弁事業を解消することで合意したと発表した。スズキが保有する合弁会社、重慶長安鈴木汽車(長安スズキ)の全持ち分(50%)を重慶長安に売却し、中国市場から撤退する。持ち株の売却手続きは年内をメドに完了する。

 正式発表の前に重慶長安との合弁事業解消で基本合意したと報じられたことから、8月7日に7680円の年初来高値をつけていた株価は、9月4日に一時、7201円まで下落した。

 中国での自動車生産から全面撤退することに対する自動車アナリストの見方は分かれる。中国市場も長期的には日本のようにニーズが多様化し、小型車が伸びる成熟市場になるとみられる。そのため、現状が厳しいからといって、世界最大の市場へのアクセスを放棄していいのかと、首を傾げる向きがある。その一方で、中国での販売は低迷しており、必ずしも悪材料とはならないとの声も少なくない。

 スズキの中国からの全面撤退は、自動車アナリストたちの間では既定路線と受け止められていた。

 6月15日、スズキは中国の持ち分法適用会社、江西昌河鈴木汽車(昌河スズキ)の持ち分46%を、江西昌河汽車にすべて譲渡した。スズキブランドの小型車「ワゴンRワイド」などを生産してきたが、消費者の関心が大型車に移ったことから販売が伸び悩んでいた。

 昌河スズキは1995年に生産を開始。最盛期に10万台規模だった生産台数は、2018年3月期には前期比3割減の1万7000台に減少。経営悪化を受けて合弁を解消した。

 この時点でスズキにはもう1社、合弁パートナーが存在した。それが重慶長安だ。だが6月19日、「重慶長安との提携も解消する協議に入った」とNHKが報じた。スズキは「協議の事実はない」(広報部)と否定したが、スズキの中国からの全面撤退は時間の問題とみられていた。

 スズキは1993年に長安スズキを設立し、以来、小型車を生産・販売してきた。「アルト」の派生車(中国名、奥拓)は人気を博し、地方都市でタクシーとして使われた時期が長かった。中国の自動車産業勃興期に小型車を広める役割を担ったのが長安スズキだった。だが、90年代後半以降、トヨタ自動車や本田技研工業(ホンダ)などが中国市場に進出。所得水準の上昇に伴い、セダンや多目的スポーツ車(SUV)など大型車の人気が高まった。

 スズキの18年3月期の中国での販売台数は、前期比28.8%減の10.5万台にとどまった。15年3月期の25万台と比べると半分以下である。

 さらに、中国政府が19年から導入する「NEV(新エネルギー車)規制」が追い打ちをかけた。一定比率でEV(電気自動車)やPHV(プラグインハイブリッド車)などの生産・販売を義務付ける。NEVで大きく出遅れている長安スズキには、強い逆風となった。

 当面、重慶長安はスズキからライセンスの供与や部品の供給を受け、スズキブランドの車の生産を続けるとしているが、事実上の生産停止である。

スズキはトヨタの傘下に入る?

 スズキは12年に、販売不振が続く米国の四輪車市場から撤退した。中国市場からの全面撤退で、世界の2大自動車市場で足場を失うことになる。そんなスズキが打開策として見据えているのが、トヨタとの連携強化と、インド市場だ。

 スズキとトヨタは17年11月、インド市場に20年頃にEVを投入するための協力関係を構築することで合意した。「インド政府が掲げるメイク・イン・インディアをEVの分野においても実現する」と、発表文に書き込んだ。

 14年5月に就任したモディ首相は、メイク・イン・インディア政策を打ち出した。外国資本を誘致して、インドをモノづくりの拠点とすることを目指している。

 インド政府は17年3月、「30年までに、インドで販売するクルマをすべてEVにする」と発表し、多くのメーカーを慌てさせた。

 同年12月に公表したインド自動車工業会の報告書では、「30年の新車販売に占めるEV比率は40%程度」と予測している。それを受けて、インド政府は30年までに販売する新車のすべてをEVにする方針を撤回した。

 EVの普及のために、インド政府は民族系メーカーを育成することにした。17年9月、政府のEVの公用車1万台の調達先に民族系のタタ・モーターズを選んだ。

 スズキはインド政府の国民車プロジェクトに参画し、インドで四輪車の現地生産を1983年から始めた。それから35年。今もインド政府の新車販売の約半分のシェアを握り、18年3月期には前期比14.5%増の165.4万台を販売した。これは中国(10.5万台)の約16倍、日本(66.8万台)の約2.5倍だ。スズキの世界販売台数(322.4万台)の51%を占める。文字通り、インド市場がスズキの屋台骨となっている。

 17年に新車販売台数400万台を突破したインド市場は、いずれ日本を抜いて世界3位の市場になるのが確実。そこで、スズキはインドに勝負を賭ける。

 スズキは18年6月28日、静岡県浜松市内のホテルで定時株主総会を開いた。鈴木俊宏社長は、こう言い切った。

「インドの乗用車市場は2030年に1000万台になる。スズキが現在のシェア50%を維持すれば、500万台の規模となるということだ。そのほかの市場でも200万台売ると考えればスズキが世界で販売する車は700万台になる。理論値であるが、現在の(実績)から倍増する、まったくの未知の領域だ。今後の成長に向けて、スズキはチャレンジしていく」

 さらに、インドでは500万台のうち150万台をEVにすると意欲的だ。インド市場に未来を賭けた挑戦を宣言した格好だが、スズキが単独でグローバル企業になれるわけではない。フォルクスワーゲンとの提携解消の際に買い戻した自社株を10.0%保有している。

 トヨタとの業務提携が、自社株を活用した資本提携に発展して、トヨタの傘下入りするというシナリオが現実のものとなってきた。

 スズキはインドを起点に、インド対岸のアフリカや中近東など、手つかずの未開市場にも着目している。
(文=編集部)

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