トヨタ自動車とソフトバンクグループは10月4日、モビリティサービス事業で戦略的提携をすることで合意したと発表した。保守的な気質の強いトヨタと、積極的なM&A戦略によって事業を拡大してきたソフトバンクのタッグは異色の組み合わせだ。ソフトバンクを含むIT大手に自動車業界の主導権を奪われるとの危機感を持つトヨタの焦りと、日本でのトヨタの政治力やブランドを利用しようと考えたソフトバンクの思惑によって実現した同床異夢の提携を、早くも危ぶむ声が出ている。
トヨタとソフトバンクは、モビリティサービスの合弁会社「モネ テクノロジーズ」を設立することで合意した。新会社は過疎地などで需要に応じて送迎や宅配、カーシェアなどのサービスを提供するためのプラットフォームを、自治体や企業向けに供給するほか、自社でも手がけていく。資本金は当初20億円で、将来的に100億円にまで引き上げる計画で、ソフトバンクが50.25%、トヨタが49.75%出資する。トヨタの合弁事業で相手が過半を出資するケースは珍しく、それだけトヨタがソフトバンクとの提携に乗り気だった証左。実際、今回の提携ではトヨタ側からソフトバンクに協業を申し入れた。
トヨタが異業種であるソフトバンクとの提携を望んだ背景には、自動車産業のメガトレンドとなっている自動運転や電動車両、コネクテッドカー、シェアリングサービスによる業界の大変革がある。将来的に完全自動運転車が実現してライドシェアが普及すれば、移動する手段としてクルマを保有する必要がなくなる。
消費者の意識が「モノ」から「コト」に変化しているのに伴ってIT大手が自動運転やライドシェアサービスで存在感を高めており、自動車を大量生産することが力の源泉だった時代と、競争の軸が明らかに変わってきている。クルマを使ったサービス領域に強い異業種が自動車業界で主導権を握れば、トヨタといえどもライドシェア専用自動運転車の調達先の1社に成り下がるリスクがある。
IT大手の自動車業界への侵食に強い危機感を持つトヨタは、「クルマをつくる会社からモビリティに関するあらゆるサービスを提供するモビリティカンパニーにモデルチェンジする」(豊田章男社長)ことを表明。ライドシェア大手の米ウーバー・テクノロジーズとの提携強化や、東南アジアのライドシェア大手グラブへの出資などを行ってきた。
しかし、トヨタがモビリティサービス事業を確立するため、異業種との協業を進めれば進めるほど、その背後に巨大な影を感じるようになった。それが、孫正義会長率いるソフトバンクだ。