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片山修「ずだぶくろ経営論」

パナソニック津賀社長が告白…7千億円赤字からV字復活、聖域なき構造改革の全真相

文=片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家
パナソニック津賀社長が告白…7千億円赤字からV字復活、聖域なき構造改革の全真相の画像1パナソニック・津賀一宏社長

 パナソニックは今年、創業100周年を迎えた。同社は、高度成長期に家電王国としてのしあがった、日本を代表する企業の一つだ。しかし、91年のバブル崩壊と同時に長い停滞期に入り、「変われない日本企業の象徴」といわれるようになった。

 そのパナソニックが今、変わろうとしている。2012年に社長に就任した津賀一宏氏は、本社の縮小、カンパニー制導入、事業部制復活などの構造改革、またガバナンス改革に取り組んだ。大量生産大量販売のビジネスモデルと決別し、前面に出していた家電事業のB2C(対消費者)ビジネスから、車載や住宅事業を中心とするB2B(対法人)ビジネスへと大きく舵を切った。さらに、パナソニックの企業文化さえ、根底から変革しようとしている。

 私は10月20日、津賀の行った一連の改革をまとめた、『パナソニック、「イノベーション量産」企業に進化する』(PHP研究所)を上梓した。取材から、パナソニックの変革と再建のストーリー、そして1990年代以降の失墜の理由が見えてきた。

 今回から数回にわたり、津賀氏が主導したパナソニック改革に参加した主要プレーヤーのインタビューから浮かび上がってきた「知られざるパナソニック」の“深層”をお伝えしたい。

日本の家電産業はなぜ衰退したか

パナソニック津賀社長が告白…7千億円赤字からV字復活、聖域なき構造改革の全真相の画像2『パナソニック、「イノベーション量産」企業に進化する』(片山修/PHP研究所)

 1980年代まで隆盛を誇った日本の家電産業は、バブル崩壊を機に大きく躓き、「失われた30年」を地でいくことになった。2007年度に過去最高益を更新するも、リーマンショック後に再び大きく躓く。11年度、7722億円という過去最悪の巨額赤字を計上した。その直後、12年6月に社長に就任したのが、津賀一宏氏だ。パナソニックの失速の原因を、どう見ているのか。

片山 率直に、なぜ日本の家電は世界で生き残れなくなっていったのだと思いますか。

津賀 理由は、割に単純だと思っています。日本の家電メーカーは、技術やモノづくり力は優れていた。家電を構成する基幹部品も優れていた。一方で、日本のマーケットが良すぎたために、すべて日本発想になってしまっていたんです。

片山 具体的には、どういうことですか。

津賀 白物家電でいえば、日本の白物の市場は値段が高く、海外は安かった。当然、みんな国内市場を攻めた。結果、国内は強くなったけれど、海外は儲からない状態になった。そうなると、日本にばかりフォーカスして、海外市場を本気で攻めなくなってしまう。

 一方、黒物家電は、とくにデジタルテレビはグローバル市場であり、大きな成長の可能性がありました。ところが、われわれは一つ、大きなミスをした。「日本の消費者に向けていいテレビをつくれば、世界の消費者に向けて売れる」と考えてしまったんですね。

 これは結果として大間違いで、そこを韓国メーカーに突かれた。日本のテレビは間違いなく画質ナンバーワンで、韓国のテレビよりずっとよかった。しかし、画質でテレビを選ばない国はたくさんあるということを、われわれはわかっていなかった。

片山 経営についてはいかがですか。就任した12年度は、当初500億円の黒字予想が、一転、中間決算時の見通しで7000億円を超える大赤字と無配を発表しました。何が問題だったのでしょうか。

津賀 社長に就任して一番びっくりしたのは、これだけ大きな会社で業績が危機的であるにもかかわらず、全体がいったいどうなっているのか、状況がまったく見えなかったことです。とくに業績については、11年度で赤字は出し切って、次はⅤ字回復と、前任の大坪も思っていたと思います。ところがフタを開けてみると、12年度も7000億円を超える大赤字。それも、上期の決算が近づいてみて初めてわかった。はっきりいいまして、何がどうなっているのかさっぱりわからなかった。

片山 そこで、会社の中を見えやすくするために、構造改革をされたわけですね。

津賀 そうですね。従来、社長は守られる存在で、いわば忖度が働いていました。経営をやる身からすれば、非常に迷惑だったんです。就任4カ月後の10月には、門真市の本社機能を約7000人から150人にまで縮小しました。人数を減らして、経営企画、経理、財務、人事など、みな同じところで机を並べ、一緒に会議をし、情報を共有しました。これをやらないと、縦割組織で分野ごとに社長に報告されても、時間がかかって仕方がないんですね。

 さらに、当時の9ドメイン・1マーケット部門を現在の4カンパニーに分け、80以上あったビジネスユニットを、最終的に37まで半減して、事業部制を復活させました。本社を小さくし、縦割りをやめて見えやすくする。それから、常務会をやめて、事業側の責任者と本社側の人間が、現状をスピーディに共有するための「グループ戦略会議」を設けました。

片山 しかし、巨艦パナソニックが社長にも「見えなかった」というのは、考えてみるとそら恐ろしい話です。

津賀 本当にそうなんです。エラいときに社長にしてもらったと思いましたよね、今思い出したら、笑い話ですけれど。

片山 現状の課題は何ですか。

津賀 一つは、パナソニックの会社の新しい風土をどういう形でつくっていくのか。もう一つは、われわれは「何の会社か」という問いに対し、その答えを自問自答し、あるいはお客さまと一緒につくっていくことです。

 そのためにやらなければならないのは、社内スローガン「クロスバリューイノベーション」です。社内外の強みを掛け合わせ、お客さまへの新しいお役立ちをつくり出していくこと。これをみんなでやれる風土になれば、こんな強い会社はないと思います。
(文=片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家)

片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家

片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家

愛知県名古屋市生まれ。2001年~2011年までの10年間、学習院女子大学客員教授を務める。企業経営論の日本の第一人者。主要月刊誌『中央公論』『文藝春秋』『Voice』『潮』などのほか、『週刊エコノミスト』『SAPIO』『THE21』など多数の雑誌に論文を執筆。経済、経営、政治など幅広いテーマを手掛ける。『ソニーの法則』(小学館文庫)20万部、『トヨタの方式』(同)は8万部のベストセラー。著書は60冊を超える。中国語、韓国語への翻訳書多数。

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