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24時間寝かせず給料0円、会社で共同生活…社員が自殺した広告会社で何が起こっていたのか

文=深笛義也/ライター
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 賃金が得られなくなった3人は家賃が払えなくなり、清水氏からの提案で、会社の事務所に住むようになった。最初は130平方メートルの部屋だったが、30平方メートルほどの部屋に移動になった。その移転の際に3人は、「私物はキャリーバック1つにしろ」と清水氏から言われた。

 椅子をデスクの下に入れてやっと3人が寝られるという狭さで、フローリングの床にタオルケット2枚を敷いて寝るという状態だった。「床に寝ている人が長生きしているから、おまえらちょうどいいじゃないか。それで借金を返していけばいいじゃないか」などと清水氏は言い放った。

 事務所には風呂もシャワーもなく、洗面台で体を洗うしかなかった。事務所に置かれた固定電話に、清水氏が深夜でも早朝でも電話を掛けてくるので、心安まることはない。事務所への居住に関して清水氏は家賃を請求したので、3人の債務は膨らむばかりであった。

 2015年10頃から、会社支給の携帯電話のGPS機能で、清水氏は3人の行動を確認するようになった。そして、「なんでそこにいるんだ」「コンビニに入っているんじゃない」「早く帰ってこい」などと電話をかけてきた。

 賃金もないので食事もままならなかったが、清水氏の提案は「金がなくて食べられないなら、試食コーナーを回ってこい」というものだった。3人はクライアントに奢ってもらったり、携帯電話のクーポン券で得たものを食べて空腹をしのいだ。

食事は1日1食の大豆カレー

 女性従業員は2017年4月頃から、会社の運営するサイトやYouTubeで、自分の母親が「毒親」であると語るようになった。そこには「この文章は親という名の暴力、毒になる親、日本一醜い親への手紙などの本を読んで自分の親が毒親だったと気づき、親と決別するために書いた文章です」などとあり、清水氏から読まされる本などによって、そのように思い込むように仕向けられた節がある。実際にはそれ以前、家族旅行に出かけたり、家族間のLINEも毎日100通のやり取りがあるなど関係は良好であった。

 2017年7月、「態度も売り上げやサービスの提供結果がこれまでとかわっていない」「寝ないで仕事をしろ」と清水は言い、5分おきに「起きてます」とのLINEを送るよう命じられた。それが冒頭に掲げたものである。3人は業務中にうたた寝したり、アポイントの合間に寝るなど、つかの間の睡眠を取るしかなかった。

 2017年12月、大量に購入した乾燥大豆を事務所に備え付け、1日1食だけ食べるように清水氏は指示した。一食200グラムに、当初はレトルトのカレールーをかけて食べていたが、やがてカレールーはなくなった。

 清水氏はこの頃3人を、「最低の人間」「ゴミ」「くそ」「じじいばばあ」「アホ」「頭おかしい」などと呼んでいた。また以下のように罵倒した。

「口先だけで、ほんとうにやろうとしていない」
「現状維持したいだけで、俺にぶら下がって、お金をもらい続けようとしている」
「殺したいぐらいムカついているが、殺すと問題があるので、交通事故に遭って死んでほしい」
「誰かのところに行ってもそこでまた迷惑をかけるだけで、生きていても死んでも迷惑」
「転職したらどれだけ収入をもらえると思う。そんなにもらえるわけないだろう。ここにいるしかない」
「売り上げずに借金して、寄生虫みたいなやつらに、めぐんでやるだけでもありがたいと思え」
「つけばかりで高いご飯食べているお前らは、1日1食大豆カレーくらいが丁度いい」
「普通だったら家もないんだから」

 言葉だけでなく、ペットボトルに入った水をかけたり、コップやシガースタンドを投げつけることもあった。水は全身にかかる場合もあり、投げつけたものが体に当たることもあった。

 自死することになった女性には、2017年11月、清水氏は以下のように言っている。

「あなたは生きる価値がない人間です。生きていても迷惑をかけるだけで、かといって借金残して死んでも迷惑です。つまり生きていても死んでも迷惑です」

自死

 本年1月には、「態度も結果も変わらない人に事務所を貸す意味はない」と清水氏からの追い出しをくらい、3人は3日間夜も外で過ごすことを余儀なくされた。3人が辞職の意思を示すと、「事務所を使ってよいし、寝るなとは言わない」と清水氏はいったんは態度を軟化させた。3人が勤務を続けるようになると、「その程度の覚悟しかなく、寝る場所がないと辞めますと言えてしまう情けない奴ら」などと言い、2月には再び事務所から追い出すことがあった。

 いつものように、本年2月24日午後11時から深夜零時ごろにかけて、「金を払え」「考え方と態度を変えろ」「それができずにただ寄生を続けているのはくそだ」などとFacebookのメッセージやLINEで清水氏は罵倒をくり返していたが、それに対し「私は死んだほうがましですか?」と女性従業員が応答した。

 日付が変わった25日午前1時頃、事務所に現れた清水氏は、女性が使用していたパソコンを殴ったり蹴ったりして壊した上、「死んだ方がましという発言で(自分は)傷ついた」「どうやって責任を取るんだ」「ここから飛びおりるのか」などと迫り、女性は「はい」と答えた。

 その場にいた大下氏ら男性2人は、「死んでも借金が残るから意味がないから死んではだめだ」などと女性をいさめようとした。それに追い打ちをかけるように清水氏は、「(死んだら)ゴミが増えるだけだ」「そんなにやりたいなら借金を全部返してからやれ。俺への借金を返しきり、ビ・ハイアから離れ、何も俺とは関係ないところでやれ」と言った。

 女性は、両親と妹に「絶縁状」を書くように命じられ、朝、「文章作成しました。これで問題なければ送信します」と清水氏にメールしている。実際には「絶縁状」は家族に送信されなかった。

 同日午後3時1分、女性は清水氏と自分の父親に対して、「遺書」というタイトルのメールを送った。そこには「この後私は死にます」と書かれていた。
 
 清水氏からメールの転送を受けて、大下氏ら男性2人は女性の行方を探した。事務所の入ったビルの14階で、女性の鞄が見つかった。同ビルの2階部分に、女性は横たわり頭からは血が広がっていた。3時30分頃、14階の非常階段から身を投げ出して、自死したものだった。

ビ・ハイアのHPに掲載された主張

 以上が原告らが提示した事実経過だが、これらが本当なら、清水氏が従業員に背負わせた債務は、違法なものであり無効である。今回の提訴は、未払い賃金やパワハラによる損害賠償請求として、ビ・ハイア社と代表取締役社長である清水氏に約8864万円を求めるものである。さらに、亡くなった女性の遺族は逸失利益や死亡慰謝料など、約1億8437万円を求めている。

 提訴の翌日の10月18日、ビ・ハイアのホームページに「弊社に関する提訴およびその報道について」というタイトルの清水氏のメッセージが載った。そこには以下のような記述があり、清水氏の言動と女性の自死は無関係だと主張している。

「御本人が書いた文面が清水はじめ親御様に届きました。そこには、同氏の決断が個人的な原因および理由によるものであり、弊社の業務とは無関係であることが明記されていました」

 遺書には家族に対するネガティブな思いも書かれていたが、これは大変に痛ましいことだ。彼女は清水氏から与えられた思い込みを抱えたまま自死に至ってしまったのだ。しかし、遺書には背負わされた債務のことが明記されている。おそらく彼女にはそれが違法で無効なものだという認識がなかったのだろう。「多大な迷惑」と自分を責める文言で書かれている。彼女の死のその日に、清水氏は死を迫る発言を行っているのだ。それでなぜ無関係だといえるのだろうか。

 原告らの主張を見る限り、そんな思いが去来するが、当の清水氏はどのような認識なのだろうか。10月18日、ビ・ハイアに電話をした上で、メールで質問を清水氏に送ったが、何日経っても回答はなかった。10月22日、確認のため、ビ・ハイアに電話したところ「ただいま、電話の受付を一時停止しております」というアナウンスが流れるのみであった。

 10月23日、ビ・ハイアのホームページに「弊社報道記事に関する抗議と取り消しの要求を朝日新聞社に送りました」というタイトルの清水氏のメッセージが載った。原告の主張は虚偽だとして、「(朝日新聞の記者は)弊社側の言い分を取材することを怠り、そのまま記事を出版しました」と書かれている。11月1日にも、ウェブサイト「ハフィントン・ポスト」の記事に対する同様の主張が、清水氏のメッセージとして同ホームページに載った。

 この間、筆者は清水氏へのコンタクトを求めようとしたが、メールへの回答も来ず、ビ・ハイアの電話受付は一時停止したままである。

 11月2日、筆者はビ・ハイアを訪ねていくことにした。ビ・ハイアの運営するラクジョブのホームページに同社所在地が記されている。南青山にあるビルに着いて、階案内を見ると、スタジオが入っていった。スタッフに聞くと、ビ・ハイアともラクジョブとも無関係だとのこと。それまでの取材内容と照らし合わせると、同ビルには以前、ビ・ハイアの事務所が入っていたことがある。転居したにもかかわらず、元の所在地をホームページに記しているということなのか。

 調べてみたところ、女性従業員が自死したマンションに、複数の会社が1室をシェアするかたちで清水氏が管轄する会社が入っていることがわかった。だが、その部屋のインターフォンを何度押しても、なんの応答もなかった。

 会社ごと雲隠れしているような状態だが、いったいどうやって清水氏の主張を聞いたらいいのだろうか。
(文=深笛義也/ライター)

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