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小黒一正教授の「半歩先を読む経済教室」

異次元緩和が限界、日銀が金融不安定化の懸念認める…地銀の8割が本業赤字

文=小黒一正/法政大学経済学部教授
異次元緩和が限界、日銀が金融不安定化の懸念認める…地銀の8割が本業赤字の画像1日本銀行(撮影=編集部)

 2%物価目標を達成するため、日銀は2013年4月から異次元緩和(量的・質的金融緩和)をスタートしたが、5年を超えても、いまだに達成する見込みは立たない。現在に至るまで、2014年10月に追加緩和、2016年1月にマイナス金利を導入する等、さまざまな対策を実行してきたが、異次元緩和の限界が明らかになる一方であった。

 このような状況の中、日銀は、金融政策の重心を「量」から「金利」に移す政策変更を行うため、2016年9月下旬、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」に舵を切り、現在に至っている。いま金融政策の重心は明らかに「金利」であり、日銀は、国債オペレーション等を通じて、短期金利をマイナス0.1%、長期金利(10年物国債の利回りに相当)を0%程度に制御する政策を実行している。

 問題はこの政策がいつまで継続できるかだ。大規模金融緩和の副作用や歪みがどこかに潜んでいないのか。筆者は少なくとも2つの副作用や歪みがあると考えている。

 第1は、財政規律の弛緩だ。通常、財政赤字の拡大や債務の累増で財政が悪化すれば、市場メカニズムで長期金利が上昇し、利払い費の増加を通じて、それは財政を直撃する。しかし、現在のところ、長期金利が上昇する気配はない。政府部門の債務残高(対GDP)は200%超も存在し、いまも増加を続けているにもかかわらず、見かけ上、日本財政は安定している。

 この理由は単純で、日銀の大規模金融緩和で長期金利の上昇圧力が抑制され、債務の利払い費が抑制できているからである。それは財政的に居心地がよい状況だが、政治的に財政規律を弛緩させ、財政再建や社会保障改革を遅らせてしまい、いつか長期金利が上昇し始めたときに顕在化する財政危機の「マグマ」を蓄積してしまう可能性がある。

金融機関の収益悪化

 第2は、超低金利の長期化で進む金融機関の収益悪化だ。たとえば、銀行の本業は預金を集め、資金を必要とする企業等に貸し出しをすることだが、その収益は貸出金利と預金金利の「利ざや」で決まる。預金金利は短期金利、貸出金利は長期金利(10年物国債の利回りに相当)に連動する傾向があるが、日銀の大規模金融緩和により、長期金利と短期金利の「利ざや」が縮小している。この結果として、貸出金利と預金金利の「利ざや」も大幅に縮小しており、銀行など金融機関の収益が悪化している。特に、体力の弱い地域銀行の収益が急速に悪化している。

小黒一正/法政大学教授

小黒一正/法政大学教授

法政大学経済学部教授。1974年生まれ。


京都大学理学部卒業、一橋大学大学院経済学研究科博士課程修了(経済学博士)。


1997年 大蔵省(現財務省)入省後、大臣官房文書課法令審査官補、関税局監視課総括補佐、財務省財務総合政策研究所主任研究官、一橋大学経済研究所准教授などを経て、2015年4月から現職。財務省財務総合政策研究所上席客員研究員、経済産業研究所コンサルティングフェロー。会計検査院特別調査職。日本財政学会理事、鹿島平和研究所理事、新時代戦略研究所理事、キャノングローバル戦略研究所主任研究員。専門は公共経済学。


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