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江川紹子の「事件ウオッチ」第125回

性犯罪で無罪判決が続いたのはなぜかーー江川紹子が考える、被害者救済のために本当に必要なこと

文=江川紹子/ジャーナリスト
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性犯罪で無罪判決が続いたのはなぜかーー江川紹子が考える、被害者救済のために本当に必要なことの画像1※画像はイメージ。(C)fotolia

 先月中旬から下旬にかけ、性犯罪で起訴された被告人に対する裁判所の無罪判決が続いた。ネット上では、報道を見て憤慨する人たちの声が飛び交った。「日本は性犯罪天国」「日本の司法は死んでる」などと嘆く声も少なくない。ツイッターに「強姦天国」と書いて判決批判をした弁護士もいる。一方、報道だけで判断することを諫める弁護士も多い。この問題を、どう考えたらいいのだろうか。

事件概要と新聞報道

 最近報じられた、無罪判決には以下のようなものがある。

A 3月12日 福岡地裁久留米支部

 飲食店で行われたサークルの飲み会に初めて参加した女性が、テキーラを一気飲みさせられるなどして泥酔。店内のソファで眠り込んでいるところを、男性(44)が性行為に及び、準強姦罪に問われた。判決は、女性が抵抗できない状態だったことは認めたが、女性が許容していると被告人が誤信してしまう状況にあった、と判断した。検察側が控訴した。

B 3月19日 静岡地裁浜松支部 裁判員裁判

 メキシコ人男性(44)が女性(25)に対する強制性行致傷罪に問われた。女性が「頭が真っ白になった」ために抵抗できなかったことから、「被告人が、自身の暴行が反抗を著しく困難にする程度のものだと認識していたと認めるには合理的な疑いが残る」として「故意」を認めなかった。検察側は控訴せず、無罪が確定。

C 3月26日 名古屋地裁岡崎支部

 長女(19)に以前から性的虐待をしていた父親が、2017年8月と9月の2回の性交について、準強制性交等罪に問われた。判決は、長女について「抵抗する意志や意欲を奪われた状態」であり、「性交は意に反するものだった」とは認めた。しかし、「被害者の人格を完全に支配し、強い従属関係にあったとまでは認めがたい」とし、「(長女が)抗拒不能の状態にまで至っていたと断定するには、なお合理的な疑いが残る」と判断した。

D 3月28日 静岡地裁

 12歳の長女に対する強姦などで起訴された男性について、裁判所は「唯一の直接証拠である被害者の証言は信用できない」と判断した。検察側は、長女が約2年間にわたり、週3回の頻度で性行為を強要されていたと主張したが、長女の証言が変遷しているうえ、狭い家に7人暮らしなのに「誰1人気づかなかったというのはあまりに不自然、不合理」などと退けた。男性は携帯に児童ポルノ動画を所持した罪では罰金10万円の有罪となった。

 以上の事件概要は、複数の新聞報道を基にまとめた。

 ただ、こうした事件の判決記事は、概して短い。そのうえ被害者に対する配慮がなされることもあり、裁判所の判断のすべてを盛り込むのは難しい、ということを前提に読む必要がある。

 たとえば、A事件の判決報道は、毎日新聞と読売新聞の西部本社版に掲載されたが、いずれも400字前後の短い記事だった。毎日の記事はネットにも掲載されたため、多くの人の目に触れることとなった。

 記事を読んで、被告人が被害者に酒を飲ませたうえで性行為に及んだと勘違いした人も少なくない。「女性が許容している」と誤信した理由も、「女性が目を開けたり、何度か声を出したりした」(毎日)、「言葉を発することができる状態で、女性の証言などからも明確な拒絶の意思を示していなかったことが認められる」(読売)としか書かれていなかった。間違いではないが、非常にわかりにくかった。

 その後、ネット上で多くの人がこの事件に反応しているのを見て、毎日新聞が詳しい続報を出した。3月31日付同紙は、判決が男性の「故意」を認定しなかった理由について、判決要旨を引いて、次のように説明している。

<「サークルのイベントではわいせつな行為が度々行われていたことが認められ、男性は安易に性的な行動に及ぶことができると考えていた」「女性から明確な拒絶の意思は示されていなかった」ことから、「女性が許容していると誤信してしまうような状況にあった」>

 さらに、本件性交を少なくとも4人以上が目撃していた、という説明もあった。酔いつぶれた女性に、飲食店内で性交しても誰も止めないことからも、このイベントが異常なまでに性的に放縦だったことがうかがえる。

 被告人はその常連だったのだろう。だから、酔いつぶれた女性を見て、気軽に性的関係を許すと誤解した可能性がある、と裁判所は判断したのではないか。

 一方、被害女性はこの飲み会に参加したのは初めてだった。事件の翌日夜にはサークルのLINEグループから退会しているところを見れば、みだらな集まりとは知らずに参加し、被害に遭ったと思われる。

 こうした事情は、説明が十分なされないと、女性をさらに傷つけることになりかねないため、当初の短い記事には盛り込まなかったのだろう。

 それ以外の事件にも、判決を報じる短い記事には書かれていないさまざまな「状況」があろう。個々の判決を論じるなら、まずは知ったうえで行いたいと思う。

 ただ、残念なことに、日本の裁判所は判決をオープンにすることに極めて消極的だ。最高裁のホームページに掲載されている判決は、ごく一部の事件に限られている。しかも、性犯罪がからむと、殺人事件であっても公開しない。判決が確定した後の裁判記録は、検察庁で保管される。確定記録は何人も閲覧できる原則はあるものの、法律によって閲覧制限事由がいくつもつけられており、性犯罪でなくても、判決さえ閲覧を拒まれることもある。

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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