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短期集中連載「平成30余年のテレビドラマ史」第8回

『北の国から』から『おっさんずラブ』まで…現代ドラマにおける“脚本家”の役割と情報量

構成=白井月子
『北の国から』から『おっさんずラブ』まで…現代ドラマにおける“脚本家”の役割と情報量の画像1「Getty Images」より

 5月1日、いよいよ新元号「令和」が施行され、「平成」時代が幕を閉じた。

 平成元年時の“月9”枠は『君の瞳に恋してる!』(主演・中山美穂)、NHK大河ドラマは『春日局』(主演・大原麗子)、NHK朝の連ドラは『純ちゃんの応援歌』(主演・山口智子)であった。一方、平成最後の月9は『ラジエーションハウス〜放射線科の診断レポート〜』(主演・窪田正孝)、大河は『いだてん~東京オリムピック噺~』(主演・中村勘九郎、阿部サダヲ)、朝ドラは『なつぞら』(主演・広瀬すず)である。

 この30年余の平成の御代、ドラマは時代を映し、またドラマが時代に影響を与えもし、数々の名ドラマ・迷ドラマが生まれた。この間、ドラマはどう変わり、そして何が変わらなかったのか、ニッポンのドラマに精通した2人の猛者が語り尽くす。

 ひとりは、テレビドラマ研究の専門家で、『ニッポンのテレビドラマ 21の名セリフ』(弘文堂)などの著作もある日本大学芸術学部放送学科教授の中町綾子氏。対するもうひとりは、本サイトにて「現役マネージャーが語る、芸能ニュース“裏のウラ”」を連載する某芸能プロマネージャーの芸能吉之助氏。

 芸能界の“オモテ”を知る女性研究者と、“ウラ”を知悉する現役マネ。この両者は、平成のドラマ史をどう見るのか? 平成31年から令和元年をまたぐゴールデンウィークの短期集中連載として、全10回を一挙お届けする。

 連載第8回目のテーマは、「脚本家」。倉本聰氏、山田太一氏、向田邦子氏など「シナリオライター御三家」が活躍していた昭和時代、プロデューサー主導でドラマが作られていた平成時代を経て、今また“脚本家でドラマを選ぶ時代”が来ている?

【対談者プロフィール】
中町綾子(なかまち・あやこ)
日本大学芸術学部放送学科教授。専門はテレビドラマ研究。文化庁芸術祭テレビドラマ部門審査委員、 国際ドラマフェスティバルinTokyo 東京ドラマアウォード副審査委員長、ギャラクシー賞テレビ部門選奨委員を務める。“全録”(全チャンネル録画)できるHDDレコーダーがなかった時代から、研究室に5台以上のレコーダーを設置してドラマを見まくり研究してきたというドラマ猛者。

芸能吉之助(げいのう・きちのすけ)
弱小芸能プロダクション“X”の代表を務める芸能マネージャー。芸能ニュースを芸能界のウラ側から解説するコラムを「ビジネスジャーナル」で連載中。ドラマを観るのも語るのも大好き。最近の推しドラマは『いだてん〜東京オリムピック噺〜』(NHK総合)。

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『北の国から』というフジテレビの“柱”

中町教授 第7回でフジテレビのチャレンジ枠のお話をしましたが、平成のテレビドラマ史において、「フジテレビヤングシナリオ大賞」の意義は大きかった。1980年代初め、「シナリオライター御三家」と呼ばれていた倉本聰さん脚本の『北の国から』(フジテレビ系、1981年〜、主演・田中邦衛)が放送され、シリーズ化される。『北の国から』は、フジテレビのドラマ史の中でも、ひとつの大きな柱になっていると思うんです。それ以前は、「フジテレビはいい脚本家をつかまえられない」といわれていたと聞きます。

 それで、「いい脚本家を育てなければ」と開始されたのが、1987年に創設された「フジテレビヤングシナリオ大賞」。この賞の第1回目で大賞を受賞したのが、この対談でも何度も登場している坂元裕二さん(代表作『東京ラブストーリー』『最高の離婚』など)で、第2回目が野島伸司さん(『101回目のプロポーズ』など)なんですよね。ほかにも、信本敬子さん(『白線流し』シリーズなど)、尾崎将也さん(『アットホーム・ダッド』など)、金子ありささん(『ナースのお仕事』シリーズなど)、安達奈緒子さん(『リッチマン、プアウーマン』など)、橋部敦子さん(『僕の生きる道』など)など、現在も第一線で活躍中の錚々たる脚本家がこの賞の受賞者です。

吉之助 受賞後すぐに現場に引き込んで、連続ドラマを任せることも多かったんですよね。それまでの「脚本家の先生からいただいた脚本をもとにドラマを作る」というやり方ではなく、プロデューサーが若い脚本家に対して方向付けや注文をしながら脚本を作る……という方向にシフトしていった。

中町教授 駆け出しの脚本家の中には、プロデューサーとのやり取りやリライトで苦しめられた人もいると思いますが、それでも、実際に多くの脚本家を輩出していて、現在も活躍されている方も多い。

吉之助 さっきお話ししたように、1990年代からの20年間はこのやり方が功を奏して、たくさんの名作が生まれた。けれどこの10年くらいで、うまく歯車が噛み合わなくなってきた感じがしますね。でも、新しい才能を発掘してその場を与えるという試みは今でもずっと続いている。最近フジは、高校生向けのコンテストをしていますよね。

中町教授 「ドラマ甲子園」ですね。大賞を受賞した脚本作品は、CSチャンネルのフジテレビTWOで放送されるという。

吉之助 高校生に監督をさせて、プロの役者やスタッフと一緒に、自分の脚本のドラマを撮らせるんです。夢があるし、完成したものもちゃんとしている。ああいうことができるから、やっぱりフジテレビはすごいなって思うんですよね。

ヒットするドラマの共通点は“情報量の多さ”

–一般的に言って、ドラマの脚本の作り方や演出の方法は、この30年間でどのように変化してきたのでしょうか?

中町教授 そうですね。最近のドラマは、放送時間に対する“情報量”がものすごく増えてきているので、そういった点でのアプローチは昔とは異なってきているかもしれません。1話の中に盛り込まれる情報量が昔に比べてすごく多くなったと感じています。それを手際よく処理して、登場人物を整理して、テンポよく見せて……ということができているドラマが、最近では「クオリティーが高いドラマ」というふうに評価されることが多いような気がします。

『相棒』(テレビ朝日系、2000年〜、主演・水谷豊)あたりがその先駆けかな。ヒットした『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系、2016年、主演・新垣結衣)、『アンナチュラル』(TBS系、2018年、主演・石原さとみ)、『おっさんずラブ』(テレビ朝日系、2018年、主演・田中圭)を見ても、情報量がすごく多いなと感じています。

吉之助 確かにそうですね。あと、小説やマンガのベストセラーを基にした原作モノがものすごく増えてきたので、オリジナル脚本を書くときとはまた違った技術が必要になっていると思います。

中町教授 原作との関係でいえば、その話が持つメッセージなりテーマなりがドラマの中で際立つようにするというのが、原作のある脚本を書く際の大きなポイントだと思います。原作としてストーリーの流れの中で読むのと、ドラマに仕立てたときのシーンの積み重ねの中で視聴するのとでは、メッセージの浮かび上がり方は全然違う。セリフをどのタイミングで登場人物に言わせるか、そこまでの時間をどう組み立てていくか、原作からの再構築が必要なんです。だからこそ、原作に書かれていない部分を足す必要もある。

 また、小説の場合は主人公の目線や心情で話が動いていくことが多いのですが、テレビドラマはそうはいかない。かつての昔のテレビドラマはそういったものもあったのですが、最近のドラマでうまくいっているドラマというのは、一人の目線だけでは話が動いてないんですよ。複数の人間を配置して、それぞれの人物を描くというのがとても大事な作業になってきてるんじゃないかな。

 だからこそ脚本を書く上での一番大きな作業は、ストーリーを作るというよりは、「舞台設定」と「人物」を作るというところなのではないかと思います。

吉之助 ストーリーがガチガチに固まっているより、そのほうが面白いドラマができる場合もありますよね。よくマンガ家の方が「キャラクターが勝手に動き出す」みたいなことを言いますが、脚本家の北川悦吏子さんも『半分、青い。』(NHK総合、2018年、主演・永野芽郁)のときに同じようなことをツイッターで呟いていました。まあ、中にはプロデューサーが「最後はこういう結末だから、ちゃんとそうなるようにして」といってカッチリ作るタイプのドラマもあるので、人それぞれだとは思いますが。

時代と共に変わる“演出”の作法

吉之助 あと当然ですが、「演出」の力も重要ですよね。“人物を描く”ときにも、脚本に書かれていなくても、たとえば目線ひとつで登場人物の心情がわかったり、ちょっとした仕草でその人物の人となりがわかったり。

中町教授 うんうん。構図とかカット割りのたくみな演出家はいて、『アンナチュラル』や『重版出来!』(TBS系、2016年、主演・黒木華)を手がけた塚原あゆ子さんなんて、まさにそうですよね。

吉之助 『Nのために』(TBS系、2014年、主演・榮倉奈々)も塚原さんでしたよね。塚原さんはここ数年で、グッと出てきた印象があります。

中町教授 複数の人物をどう配置し、人間関係をどう描くのかというのが、今のドラマにおいてすごく求められていること。で、脚本だけでなく、演出の仕方もここ最近で結構変わってきているように思います。ひとつのシーンにわりと大人数がいたり、カットを重ねて次々と多くの人物が出てきたりというシーンで、その情報処理をして、「そのシーンで何を見せるのか」「ひとつの場での人間関係をどう映像の構図として切り取るか」などがすごく重要。

 脚本家も演出家も、とにかく今は情報量を多く盛り込む、それからキャラクターをしっかりと書き分けて伝えるというところが求められているなという印象があります。最近の脚本家でいうと、野木亜紀子さんや森下佳子さん(『JIN-仁-』『義母と娘のブルース』など)、安達奈緒子さんの脚本作品は、そのあたり見ごたえがありますよね。
(構成=白井月子)

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