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枝久保達也「考える鉄道」

虎ノ門ヒルズ駅設置、東京メトロを悩ませた「駅ナンバリング」問題…そもそも、なぜ数字必要

文=枝久保達也/鉄道ライター
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東京メトロのHPより

 東京メトロは11月11日、日比谷線の霞ケ関~神谷町間に整備中の「虎ノ門ヒルズ駅」の開業日が来年6月6日に決定したと発表した。同駅はその名の通り虎ノ門ヒルズ直結の玄関口となるだけでなく、約400mの連絡通路を介して銀座線虎ノ門駅と乗換駅になる。また、隣接するバスターミナルで新橋、勝どき、晴海を経由してりんかい線東京テレポート駅まで直結する「東京BRT」が発着する予定であり、港区の新たな交通拠点となることが期待されている。

 日比谷線に新駅が設置されるのは初めてのこと。東京メトロとしても2008年に開通した副都心線の各駅を除けば、営団地下鉄時代の2000年に開業した妙典駅以来20年ぶりの新駅となる。

 ところが東京メトロは今回の新駅開業で、20年前には存在しなかった「あるもの」に苦しめられることになった。それが、各駅にアルファベットと数字を割り振って案内に使用する「駅ナンバリング」だ。

 日比谷線の駅ナンバリングは中目黒駅の「H01」から始まり、恵比寿駅は「H02」、広尾駅は「H03」、六本木駅は「H04」と数字が1ずつ増えていく。続いて神谷町駅が「H05」、霞ケ関駅が「H06」と来て、北千住駅の「H21」まで連番になっているため、虎ノ門ヒルズ駅に割り振られる数字がないのである。

 対応策がないわけではない。例えば、続きの「H22」を新駅に充てる方法だ。不格好だが表示上の影響は一番少ない。あるいは、「H05.5」や「H05-1」など小数や枝番号で区別する方法もあるが、既存の駅ナンバリングと異なる表記になるので、利用者にとってわかりにくく、デザインや案内上の不都合が生じる恐れもある(ちなみに国内で唯一、枝番号「K08-1」が割り振られた事例として、2008年に開業したJR四国「小村神社前駅」がある)。

 将来的に新駅を設置する計画が存在している場合、駅ナンバリングの番号を飛ばして「空き番」を確保しておく事例もあるが、そうした準備をしていなかった場合、抜本的な解決策は番号の振りなおししかない。結局、東京メトロも、霞ケ関駅から北千住駅までの駅ナンバリングの数字を1ずらし、改めて「H06」を虎ノ門ヒルズ駅に割り当てると発表した。

 こうした番号の振りなおしは過去にも例がある。例えば東武鉄道は2017年7月、東武日光線の小佐越駅~鬼怒川温泉駅間に「東武ワールドスクウェア駅」を開業したが、この時、鬼怒川温泉以北の駅ナンバリングを変更している。京都の京福電気鉄道嵐山線も2016年4月、新駅開業に合わせて駅ナンバリングを振りなおした。

 既存の案内サインや路線図をすべて変更するのは非常に手間がかかるし、すでに発行済みの冊子や書籍にも影響が出る。駅ナンバリングで駅を把握していた人たちからすれば大ブーイングかと思いきや、特に「困った」という声は聞こえてこないようだ。

欧米では導入例がほとんどない

 では駅ナンバリングとは、誰のために、なんのためにあるのか疑問に思うかもしれないが、これは端的にいってしまえば、日本語の駅名を覚えにくい外国人旅行者向けに策定した案内なのである。つまり、日本に来て路線図と案内看板を照らし合わせながら使うもので、数字を覚えておくようなものではないから、次回来日した時に番号が変わっていても、大きな影響はないのである。

 駅ナンバリングの歴史は、短いようで案外長い。東京圏で最初に駅ナンバリングを導入したのは、2002年のサッカーワールドカップ日韓大会開催時、横浜国際総合競技場(現日産スタジアム)を沿線に持つ横浜市営地下鉄であった。2004年には東京メトロ都営地下鉄が全路線全駅に駅ナンバリングを導入。地下鉄ではすでに15年以上の歴史がある取り組みだ。

 2010年には、空港アクセス輸送を担う京急電鉄と京成電鉄が駅ナンバリングを導入すると、訪日外国人旅客が急増しはじめた2012年から13年にかけて、東武鉄道、西武鉄道、東急電鉄、小田急電鉄、京王電鉄が一斉に導入。2016年にはJR東日本も続き、現在では東京圏のほとんどの鉄道が設定する、定番の案内方法となった。

 実はこの駅ナンバリング、東京のほかにもソウル、台北、北京など東アジアの主要な地下鉄(都市鉄道)では広く普及しているが、欧米では導入例がほとんどないという。おそらく、欧米ではアルファベットが共通の文字として存在しているのに対して、アジアでは国ごとに様々な種類の文字が使われており、外国人(非西洋系であっても!)にとって可読性が低いことが影響しているのだろう。いずれの路線もローマ字表記を併記しているが、他言語の発音は覚えにくいことから、駅名を数字やアルファベットに置き換えて記号的に案内しているのである。

 ちなみに香港の鉄道は、東アジアの大都市では例外的に、駅ナンバリングを導入していない。もしかするとここにも、香港が長くイギリスの統治下にあったという歴史的・文化的な背景があるのかもしれない。

(文=枝久保達也/鉄道ライター)

枝久保達也/鉄道ライター

枝久保達也/鉄道ライター

1982年、埼玉県生まれ。東京地下鉄(東京メトロ)で広報、マーケティング・リサーチ業務などを担当し、2017年に退職。鉄道ジャーナリストとして執筆活動とメディア対応を行う傍ら、都市交通史研究家として首都圏を中心とした鉄道史を研究する。著書『戦時下の地下鉄 新橋駅幻のホームと帝都高速度交通営団』(2021年 青弓社)で第47回交通図書賞歴史部門受賞。

Twitter:@semakixxx

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