アメリカでTikTokを禁止する流れが着実に進んでいる。アメリカ国内での利用者は1億7000万人にも上るといわれており、禁止法が施行されれば甚大な影響が出ることは避けられない。賛否両論が飛び交い、かつてはTikTokをアメリカから締め出そうとしていたドナルド・トランプ次期大統領が、今度は禁止に反対する立場に転じている。今やTikTokは政治的な影響も大きくなっており、日本でもこの問題は無視できない。ITジャーナリストの見解を交えて詳しく追ってみよう。
アメリカで今年4月、上院と下院で「外国の敵対者が管理するアプリケーションからアメリカ人を守る法」が可決され、ジョー・バイデン大統領も署名した。TikTokの親会社である中国バイトダンスに対して、270~360日以内にTikTokを売却するか、サービスを停止するように命じる内容で、「合衆国憲法に違反している」と反対する声が噴出。だが、TikTok側が法律の差し止めを求めた裁判でコロンビア特別区巡回区連邦控訴裁判所は12月6日、法律を支持する判決を下した。TikTokはアメリカ連邦最高裁判所に上告する方針だが、仮に上告審でも請求が却下された場合、アメリカ国内1億7000万人ともいわれるユーザーの言論の自由が制限されると懸念する声が出ている。
TikTokは禁止されるのか
そんななか、かつてはTikTokを禁止しようとしていたドナルド・トランプ次期大統領が、TikTok禁止に反対を唱えており、国内でも意見は大きく分かれている。今後、どうなる可能性があるのか、ITジャーナリストに話を聞いた。
「バイデン大統領がTikTok禁止法に署名しているため、あとは裁判所も合憲との判断を確定させれば、TikTok禁止は現実のものになるでしょう。1月19日までにTikTokは事業を売却しなければ、サービスは停止させられます。ユーザーは利用を続けることはできますが、アプリストアなどからアプリはなくなり、保守管理もされなくなるので、ユーザーは別のSNSに流れていくでしょう。技術的な問題などを考えると、TikTokに代わるアプリがすぐに生まれる可能性は低く、既存のFacebook、YouTube、スナップチャットといったSNSの利用頻度が高まるとみられています。
これに対して、トランプ次期大統領はFacebookやInstagramを保有するメタ社に利益を与えることになるとして、TikTok禁止に反対する立場です。実際に今年の選挙戦ではTikTokを利用し、若者の支持を得ることに成功しました。そのため、『仮にTikTokが禁止されても、トランプ氏がすぐに撤回するだろう』との見方もあります。ところが、最近、メタ社がトランプ氏との距離を縮めようとしているとの情報もあり、情勢は不透明です。このままTikTok禁止法が施行されれば、1月19日までにTikTokは事業を売却しなければなりませんが、トランプ氏が大統領に就任するのは1月20日ですから、就任前に法律を差し止めることは難しいとの指摘も多くあります。
一方で、トランプ氏が“敵国”である中国との関係を改善しようとの動きもあります。大統領就任式に習近平国家主席を招待したと報じられており、かなり異例の事態です。中国を重視するのであれば、TikTok禁止を止める方向に持っていくことも十分にあり得ます。いずれにしても、トランプ氏は政治の道具としてTikTokを利用する可能性が高く、現状としては見通しが立たないというのが正直なところです」
アメリカではTikTokが禁止されるか否か、微妙な情勢にあるというが、これらの報道を受けて日本国内では、「日本でも禁止してほしい」「権利侵害の宝庫になっているから規制する方向に向かってほしい」など、TikTokに厳しい声が多い。
ここ数年、YouTubeやInstagramなどの競合SNSも、TikTokと同じようなショート動画の展開に注力してきた。TikTokが禁止された際の受け皿となることを見越していたことも背景にあるのだろう。アメリカでTikTokが禁止された場合、日本でもアメリカで制作されたコンテンツを楽しんでいたユーザーは離れていく可能性もある。一方で、自分たちで動画を作成して投稿することがメインのユーザーには影響がないかもしれない。いずれにしても、ここから1カ月はTikTokに関して激動の期間となる。
(文=Business Journal編集部)