ソニーのゲーム事業が好調だ。牽引するのは「PlayStation4 (PS4)」、さらに月額制の有料オンラインサービス「PlayStation Plus(PS Plus)」で、同サービスは今やゲーム事業の売り上げの6割を占めるという。サブスクリプション型のビジネスモデルを確立したソニーの戦略や成功の背景などについて、ゲーム事情に詳しいコラムニストのジャンクハンター吉田氏に聞いた。
会員制サービスの有料版に3600万人
定額制でさまざまなサービスが利用可能な、いわゆるサブスクリプションは多くの分野で取り入れられている。その理由は、企業側は売り切り型より確実かつ継続的な収益が見込め、ユーザーにとっても毎月少額でサービスが使い放題になるため、両者の利害が一致している点にある。
ゲーム業界もその例に漏れないが、なかでもソニーのサブスクサービスの成長が目覚ましい。2018年度、ソニーのゲーム事業部門は3100億円の営業利益を達成した。好調を牽引するのはPS4で、世界累計販売台数は1億の大台を突破。ただ、PS4の販売台数は16年度の2000万台をピークに縮小を続けている。
そんな状況で稼ぎ頭となっているのは、ソフトのダウンロードやネット対戦機能などのサービスを提供する会員制のネットワークサービス「PlayStation Network(PSN)」だ。
06年にサービスを開始したPSNは、19年3月時点の利用者数が9400万人にのぼる。登録自体は無料だが、月額850円(19年8月から。それ以前は514円)でオンライン対戦やチャット機能が楽しめる有料サービスのPS Plusが3600万人の会員を獲得しており、単純計算で年間3672億円の売り上げが見込まれるほどだ。
PSNには、PS Plus以外にも、選んだタイトルが遊び放題になる「PlayStation Now」をはじめ、音楽、ビデオ、テレビ配信などのさまざまな継続課金サービスが用意されている。世界最大のゲームのサブスクサービスと言っても過言ではないだろう。
ソニーのサブスクが好調な理由
では、なぜソニーのサブスクサービスはこれほどの会員数を獲得できたのか。吉田氏は次のように指摘する。
「PS Plusに入らないとオンライン対戦が楽しめないことが、もっとも大きな要因でしょう。また、人気タイトルを追加料金なし、回数や時間の制限もなく遊べる『フリープレイ』サービスは、毎月タダでソフトがもらえるようなもの。会員ならゲームのアイテムが割安で買えることなどもあり、ユーザーにとっては会員にならない理由がないのです」(吉田氏)
まさに、ユーザー心理をうまく突いた戦略が奏功したといえそうだ。また、ディスクレスの普及も大きいという。
「ゲームソフトを現物のディスクで所有したいと思っているのは、もはや一部のマニアだけです。ダウンロード版のほうが入手が簡単ですし、手っ取り早い。ゲーム関係がすべてネットで完結しているユーザーは、いわゆる“課金”に対するハードルも低いため、サブスクサービスにもお金を出すのでしょう」(同)
かつては友達同士でディスクを貸し借りをするのもゲームの楽しみのひとつだったが、もはやそんな時代でない。ゲーム友達がネット上にしか存在しないという人も多く、サブスクをはじめとしたオンラインサービスがゲーム業界で普及するのは、ある意味で必然といえる。現在のような状況を見越してか、10年以上前からPSNを開始していたソニーには先見の明があったということだろう。
ソニーは2020年末に「PS5」を発売
18年の世界のゲームコンテンツ市場は前年比2割増の13兆1774億円と推定されており、年々増加が見込まれている。パッケージ商品の売り上げが落ち込むなかで、デジタル配信が急速に伸びてきているのだ。これからのゲーム業界について、吉田氏はこう予測する。
「すでにディスクレスが進み、サブスクのプラットフォームが主流になっているため、ソニーの今後のライバルは任天堂などのゲーム会社ではなく、アップルやグーグルなどのプラットフォーマーになっていくでしょう」(同)
IT業界の巨人であるグーグルがクラウドゲームへの参入を表明し、9000万の月間アクティブユーザー数を誇るゲーム配信プラットフォーム「Steam」が台頭するなど、激動の様相を呈しているゲーム業界。言うまでもなく、既存の事業者はビジネスモデルの転換を余儀なくされるだろう。
「ソニーに関して言うと、20年末にPS5が発売される頃には、ソフトはほぼ配信のみになると思います。映像業界も同じですが、パッケージ商品はマニア向けにして特典をつけて高く売るしかない。でも、そうした特典を求めるのは中高年のおっさんだけです。ゲームは近い将来、ディスクがなくなり、新規参入も増え、このようなサブスクサービスがメインとなるでしょう」(同)
クラウドゲームの国内市場規模は、22年には現在の10倍にあたる100億円を突破すると見込まれている。ゲーム事業の好調を謳歌するソニーでさえも、今後は据え置きゲーム機ありきのビジネスモデルを転換するなどの必要性に迫られるだろう。そのとき、本当の勝者となるのはどの企業なのだろうか。