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日本郵便、宅配ロボットの完成を急ぐ理由…かんぽ不正で下落した収益補填が狙いか

文=武松佑季
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置き配の実証実験をする「Amoeba GO-1」

 帰宅して郵便受けを見てみると、中には不在連絡票。ちょっとした罪悪感。自ら配達時間を指定していた場合であれば、なおさらだ。

 現在、物流における都市部の再配達率は16.6%にも及び、試算によると9万人の配達員に相当する労力が無駄になっている。この物流業界の“ラストワンマイル問題”は物流各社を悩ませている。

 再配達を削減するために各社さまざまなアイディアを出してはいるが、オートロック付きマンションに対応できなかったり、宅配ボックスがあったとしても満杯だと配達を完了できないといった問題が大きく立ちはだかる。この問題を将来的に解決すべく、ソフトロボットと計算システムの開発を行うアメーバエナジーは日本郵便と提携し、1月30日に自立走行型ソフトロボット「Amoeba GO-1」(アメーバゴーワン)による集合住宅への無人複数置き配の実証実験を実施した。

世界初、階段昇降ができるソフトロボットによる置き配実験

 ソフトロボットとは、従来のロボットのように金属などの硬い素材を使わず、柔らかい素材でしなやかな動きや安全性などを実現する、近年注目のロボット工学。今回の実験に用いられたアメーバゴーワンは、集合住宅のエントランスで配達員から荷物を受け取ると(オートロックを内側から自身で開錠)、階段を上って個別の玄関前に荷物を置くことを可能にした。自律動作で階段を昇降できるソフトロボットは世界初という。

 実証実験は県立高校の跡地、神奈川県プレ実証フィールドで行われた。昇降口をエントランス、下駄箱の段差や校舎の階段を集合住宅の障害物に見立てての実験。多くのメディアが注目するなか、配達員から荷物を受け取ると、時速1kmで走行してゆっくり階段を上り、荷物を配達先と想定した教室の扉前まで置くことに成功した。

 走行を制御するセルベルトによって狭い範囲での旋回やいろいろな形の階段に対応し(段差18cm、傾斜35度まで昇降可能)、人と接触しても危険性が少ない設計になっている。まだ試行段階ということで、移動は若干危なっかしくもあり、システム上の問題でドアに沿った位置に荷物を置くのが難しいなどの課題はあるものの、動き自体は非常にスムーズ。将来の物流シーンに希望を投げかける実験結果になったといっていいだろう。

かんぽ生命の不祥事により郵便物流事業の拡大が急務?

 ヤマト運輸ディー・エヌ・エー(DeNA)と提携してオンデマンド配送サービス「ロボネコヤマト」の実験を行うなど、物流業者のラストワンマイル競争は激化している。アメーバゴーワンの開発に協力する日本郵便も、これまでも配送による人員コスト削減のため、ドローンによる郵便局間の荷物配送の実施や、車輪型の配送ロボットを使った無人配送の実証実験などを積極的に行っている。この背景について日本郵便オペレーション改革部部長の五味儀裕氏は「郵便物も請け負うことが多く、地方や山間部への配達に対応する必要性から、ロボットを用いての効率化を図りたいという事情もある」と説明する。

 また、日本郵便と同じ日本郵政グループのかんぽ生命保険が昨年6月に不適切契約問題による不祥事を起こしたことは記憶に新しい。法令や社内ルールに違反する疑いのある契約は1月31日現在、20万件を超えており、さらに増える可能性もある。この影響もあり、昨年11月に日本郵政が発表した2019年9月中間連結決算では経常収益が前年同期比で4.8%減。かんぽ生命は昨年7月に営業停止に追い込まれ、現在も再開のめどが立っておらず、同グループは窮地に陥っている。

 日本郵便の関係者は、「かんぽ生命は当面、収益を期待できない。その減収分を補填するためには、郵便事業で稼がなければならない」と明かす。ロボットを積極的に活用することで再配達のコストを削減し、業績を安定させたいとの狙いがあるようだ。これについて五味氏は、こう話すにとどめた。

「今まで業績面で、ゆうちょ銀行やかんぽ生命など金融関係事業にグループが頼っていた面があり、郵便物が減るなかで郵便物流が収益面で苦しい状況があった。ただここ2、3年はEC市場が活性化している影響で同事業も好調に推移している。グループとして苦しい環境だからこそ、郵便物流事業できちんと利益につなげることの重要性は高まっている」(五味氏)

 今回、実験に使われたアメーバゴーワンを本格導入するとなると、法規制なども含めて越えなくてはいけないハードルはまだ多くあり、実装するためには早くてもあと5年前後は必要だという。いずれにしても、不在者への再配達問題にいち早く対応できた物流業者が業界で優位に立つことになるのは間違いなさそうだ。
(文=武松佑季)

武松佑季/フリーライター

武松佑季/フリーライター

1985年、神奈川県秦野市生まれ。編集プロダクションを経てフリーランスに。インタビュー記事を中心に各メディアに寄稿。東京ヤクルトファン。サウナー見習い。

Twitter:@yk_takexxx

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