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小谷寿美子「薬に殺されないために」

なぜ「ステロイド皮膚薬=危険」という誤認識が広まった?塗り薬、量をケチると逆効果

文=小谷寿美子/薬剤師
なぜ「ステロイド皮膚薬=危険」という誤認識が広まった?塗り薬、量をケチると逆効果の画像1
「gettyimages」より

「これ、ステロイドが入っていますか?」

 薬剤師として薬局で勤務していると、患者さんから、このような質問をよく受けます。薬剤師としては、ステロイドが入っているかどうかをただ答えるだけでは不十分です。このような質問をする人は「ステロイド=危険」という思い込みを持っているため、入っているなら使いたくないと考えています。

 では、なぜ「ステロイド=危険」と思ってしまうのでしょうか。ことの発端は1970年代まで遡ります。

内服薬と塗り薬を混同

 あるニュース番組の特集でステロイドについて取り上げられていました。重度のアトピー患者さんの痛々しい映像とともに、ステロイドを塗っても治らないのは薬の副作用という証言が流されました。あの痛々しい訴えは私たち薬剤師にとって大変ショッキングなもので、一時的には患部がきれいになっても長いこと服用していると副作用で症状が悪化するという印象を一般の人々が受けるのは当然のことです。

 しかし、医療においては、一部の患者さんの証言だけで「薬の副作用」と決めることはなく、この段階では「悪い症状が起こる人がいる」と記録します。数が少ない場合はただの「個人的感想」なので、統計的な傾向はつかめないのです。ある程度大きな人数になって初めて、「副作用」だと認められます。

 実はニュース番組の特集には誤解があり、内服薬と塗り薬を混同してしまっていました。ステロイド薬とは、ステロイドホルモンである「コルチゾール」が持つ炎症を抑える効果を強めて、他の作用を弱めたものをいいます。薬としては炎症を抑える効果が必要なので、それ以外のコルチゾールが持つ効果は不要ですが、完全になくすことはできないので、薬として体内に入ると他の作用、つまり副作用が出るのです。

 これは内服薬のステロイド薬で起こることであり、塗り薬ではほとんど起きません。極めて強いステロイド薬を使う場合のみ、皮膚からの吸収を考えればいいというレベルです。

塗っても治らないのはなぜ?

 皮膚の塗り薬を「塗る」というのは、案外面倒な作業です。まず、軟膏は伸びが悪いですが、皮膚への貯留性を高める効果と皮膚を保護する効果を維持するため、わざと伸びが悪くなっています。大人は体の表面積が大きく、子供もじっとしていないため患部にピンポイントで塗るには労力がかかります。全身塗るだけでも一仕事なのです。

 飲み薬と違い、量を自己調節できてしまうのも塗り薬の欠点です。病院に何度も行くのは面倒なため、できるだけ塗る量をケチってしまいます。私が乳児湿疹の子供に薬を塗っていると、夫が「そんなに塗ったらすぐなくなっちゃうでしょ! 病院に連れていくのは大変なんだからやめてよ!」と怒られます。そのくらい薬の量については、専門家と一般の人の認識が大きく違うのです。

 実は塗る量をケチることで、いくら塗っても治らないという状態をつくってしまいます。指で皮膚をこすると摩擦が起こりますが、薬が適量あればそれ自体がクッションになり、摩擦を抑えることができます。一方、薬をケチるとクッションが減るので摩擦が増えます。この摩擦により皮膚表面のバリアをはがし取ってしまうのです。ただでさえボロボロのバリアなのに、さらにはがし取ってどうするのでしょうか? 治るものも治りません。塗れば塗るほどたくさん皮膚をこするのですから、悪くなるのは当然のことです。

ケチらず使い続けるのが王道

 ステロイド薬を長期間使っていて大丈夫なのかと不安も感じるかもしれませんが、有名なアトピー薬である「アンテベート軟膏」(ベタメタゾン酪酸エステルプロピオン酸エステル)で長期試験が行われています。1日平均4.4g(5gチューブ1本弱)を74日間連続で塗り続けたところ、全身性の副作用より治療効果が大きいという結果になりました。同薬を1日5gまたは10g背中に塗った上に14時間ラップで巻いて血中濃度を測定したところ、2ng/mLでした。ラップで巻くと皮膚への浸透性が高まります。ちなみに飲み薬のベタメタゾンである「リンデロン錠」を1日2錠飲んだときの血中濃度は345 ng/mLです。通常1日1本を使い切りラップで巻くという使い方はしないので、全身にはほとんど回らないというのがわかります。

 では、塗り薬の適量とはどれくらいなのでしょうか。人差し指の第一関節までの長さ分の薬を出すと、両手の手のひら分の面積を塗ることができます。そこから類推して1回の量を決めます。塗った表面がテカテカつやつやでティッシュをのせても落ちない状態ならば、正しい量とされています。

 保湿剤を塗るのも大切です。これもケチってはいけません。有名薬である「ヒルドイドソフト軟膏」は表面が白くなるまで塗ります。保湿剤を正しく使うことにより、皮膚の乾燥を防ぎ、外からの刺激から守ることができます。外から受ける刺激より防御の力が大きいという状態をつくってしまえば、ステロイド薬による治療が効果的にできるようになります。

(文=小谷寿美子/薬剤師)

小谷寿美子/薬剤師、NRサプリメントアドバイザー

小谷寿美子/薬剤師、NRサプリメントアドバイザー

薬剤師。NRサプリメントアドバイザー。薬局界のセカンドオピニオン。明治薬科大学を505人いる学生のなか5位で卒業。薬剤師国家試験を240点中224点という高得点で合格した。
市販薬も調剤も取り扱う、地域密着型の薬局チェーンに入社。社歴は10年以上。
入社1年目にして、市販薬販売コンクールで1位。管理薬剤師として配属された店舗では半年で売り上げを2倍に上げた実績がある。

市販薬、調剤のみならずサプリメントにも詳しい。薬やサプリメントの効かない飲み方、あぶない自己判断に日々、心を痛め、正しい薬の飲み方、飲み合わせを啓蒙中。

Twitter:@kotanisumiko

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