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高橋潤一郎「電機業界の深層から学ぶビジネス戦略」

【新型コロナ】海外工場の操業停止と輸出販売激減、報じられない壊滅的実態

文=高橋潤一郎/クリアリーフ総研代表取締役
【新型コロナ】海外工場の操業停止と輸出販売激減、報じられない壊滅的実態の画像1
新型ウイルス肺炎が世界で流行 発生地の中国(写真:Featurechina/アフロ)

 新型コロナウイルス(COVID-19)の影響が今後どこまで広がるか、どのくらい広がって収束するか、誰にも予測がつかない。不必要に怖れる必要はないが、今のところワクチンなど医療方法が確立されるまで有効な手段はないようだ。つまりこのウイルスへの対応策としては前近代的な「封じ込め」しか当面はないということになる。

 こうしたなかでは、経済活動への打撃は大きい。本稿執筆段階では国内での爆発的感染は抑えられているが、経済への影響はすでに深刻である。欧州、北米、アジアなどあらゆる地域で感染拡大が続き、企業活動が停止している国が少なくない。当然ながら日系企業の現地工場は影響を受けるし、輸出による販売は壊滅的な打撃を受ける。

 よりコストが安いところでつくり、ワールドワイドで販売するというのがビジネスの鉄則だったが、そのリスクが今回は改めてはっきりと認識された。コストの安い地域が封鎖され、欧米では人々が外出を規制されることで消費が減速している。海外生産と輸出販売に依存していた企業は存続も危ぶまれる事態となっている。

 電機業界の専門情報媒体であるクリアリーフ総研で報じた業界各社の現状から、そのいくつかをピックアップすることで、海外工場や輸出型企業の現在の状況を再認識し、新たな企業存続のスキームを考えてみたい。今はまだその余裕がないかもしれないが、人は喉元過ぎると熱さを忘れる。危機を認識している今こそ、新しいスキームを考える機会である。

自動車メーカーは欧州生産と中国販売で大打撃

【新型コロナ】海外工場の操業停止と輸出販売激減、報じられない壊滅的実態の画像2 トヨタ自動車は、新型コロナウイルスの影響で操業を停止していた中国工場が2月末までに再開を果たしたばかりだが、今度はコロナウイルス感染の中心地となった欧州で2工場の生産を停止させた。さらに北米工場も同様で、中国の次は欧米での生産休止を余儀なくされている。

 生産を停止させたのは、欧州ではフランスとポルトガルの工場。フランスでは小型車を、ポルトガルではスポーツ多目的車(SUV)を、それぞれ生産している。欧州での感染が拡大していることから、フランス工場は3月18日から、ポルトガル工場は3月16日から、それぞれ生産を停止している。北米地域も同様で、いったん停止した。

 トヨタは、広州、長春、天津、成都など4地域に複数の工場があり、春節休暇から操業が止まっていたが、広州、長春、天津は2月17日、18日からそれぞれ再開、遅れていた成都も2月末までには再開した。しかし中国が再開した矢先に、今度は欧米での工場閉鎖となったかたちである。

 一方、販売面でも、日系自動車メーカー各社の中国市場での販売落ち込み幅がかつてなく大きい。トヨタの2月の新車販売は前年同月比70.2%減の2万3,800台、ホンダは同85.1%減の1万1,288台で、ほかにもマツダが同79.0%減の2,430台、三菱自動車は同90.7%減の691台となるなど、日本メーカー各社はいずれも2月は前年同月比7~9割の下落にとどまったことになる。今後は欧州や米国でも販売急落が避けられないだろう。

電子部品メーカーではフィリピンに影響も

 電子部品メーカーへの影響も大きい。今回の件で中国でのリスクが再認識されたのはいうまでもないが、ポストチャイナとして注目されていたアジアの近隣諸国にも現在は感染が広がっており、足元では現地工場の閉鎖が始まっている。

 フィリピンにおいては、フィリピン政府がまず3月16日にルソン島全域での外出制限措置を発動、これにより公共交通機関の停止、物流の遅れ等が生じていた。さらにこの措置を受けて、ラグナ州カブヤオ市から3月19日以降は一切の人と物の移動を禁止する通達が出された。

 こうした措置により、ルソン島に進出する日系企業はすべて操業がストップしている。山一電機は、3月19日からフィリピン工場を一時生産停止させた。停止期間は流動的だが、4月中旬までとみられる。山一電機は、かつて量産拠点として中国深センに子会社を持ち、ICソケット、コネクタなどを生産していたが、2015年に中国自社生産からは撤退しており、その多くをフィリピンにシフトしていた経緯がある。チャイナリスクを勘案して中国からフィリピンにシフトしたが、今回は現地工場のライン停止を余儀なくされる。

 山一電機は、海外拠点としてはフィリピンのほかにもドイツと韓国に持つが、フィリピンは従業員600~700人を抱え、ドイツの300人弱、韓国の40人強と比較しても規模は一段と大きい。山一電機の連結従業員は1,800人程度のため、グループ全体の3~4割がフィリピンにいる計算となる。

 一方、日本セラミックも、ルソン島のスービック経済特別区に生産子会社があり、一時雇用のワーカーも含めるとおよそ2,000人の従業員を抱える。やはり現地の外出禁止令により、4月中旬までの操業停止となっている。ちなみに日本セラミックでは、対応して国内工場および中国工場などで代替生産を行うが、現実にはユーザーサイドからの受注もピーク時からは落ちており、供給が困難になるという状況にはなりにくいようだ。

 なお、中国は昆山と上海に工場があり、こちらも春節休暇が長引くかたちで一時期操業再開を見合わせていたが、いずれも2月中旬にはすでに復旧している。ほかにもマレーシアやシンガポールで出入国制限が始まり、日系現地工場の操業に影響が出始めている。

国内消費と国内生産回帰を考えるチャンス

 安倍晋三首相が今回の教訓を踏まえ「生産の国内回帰」ということを言い始めた。「より賃金が安いところに生産をシフトし続ける」という考え方は見直される時期に来ている。

 政府が買い上げて備蓄するというようなかたちで、高付加価値品だけでなく農産物を含めて生活必需品も国内で一定量を生産することはリスクの管理と雇用の確保にもつながる。農作物ではこうした考え方はすでにあるが、日常品全体に広げることを考えてもいいのではないか。

 電機製品が自由競争になるのは致し方ないが、海外生産シフトだけでなく、今後は国内での分散生産というスキームがさらに見直されるだろう。量産は確かにコスト削減につながるが、生産を分散させるリスクヘッジの重要性について改めて再認識した企業も少なくないはずだ。国内で一定量の生産を継続的に行うという選択肢も当然出てくるべきだろう。

 販売も同様である。海外販売も重要だが、豊かになることを求めて海外販売を進めるだけでなく、国内消費分を生産の基本とする覚悟も必要だろう。国内だけで販売していては右肩上がりを望みにくいかもしれないが、利益を追求して量産品の輸出販売に極端に依存することは危険である。アウトアウトに依存する空洞化リスクはこの機会にもう少し考え直されてもいい。

(文=高橋潤一郎/クリアリーフ総研代表取締役)

高橋潤一郎/クリアリーフ総研代表取締役

高橋潤一郎/クリアリーフ総研代表取締役

業界紙記者を経て2004年に電機業界の情報配信会社、クリアリーフ総研を創業。
雑誌などへの連載も。著書に『エレクトロニクス業界の動向とカラクリがよ~く
わかる本』(秀和システム)、『東芝』(出版文化社、共著)ほか
クリアリーフ総研

Twitter:@clearleafsoken

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