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藤和彦「日本と世界の先を読む」

原油、世界的な供給不足・価格高騰に警戒…中東、新型コロナ拡大で巨大原油基地封鎖も

文=藤和彦/経済産業研究所上席研究員
原油、世界的な供給不足・価格高騰に警戒…中東、新型コロナ拡大で巨大原油基地封鎖もの画像1
「gettyimages」より

 新型コロナウイルスの感染拡大による需要の大幅減とサウジアラビアの増産により、米WTI原油価格は1998年以来の1バレル=10ドル割れが予想され始めている。世界の原油貯蔵庫が今後数週間のうちに足りなくなってしまうという観測が高まっていることから、大半の産油国がこぞって処分売りする状況となっているからである(3月27日付ロイター)。

 この状態にもっとも危機感を持っているのは、世界第1位の原油生産国となった米国である。米国は27日、2兆ドル規模の景気対策法を成立させるとともに、サウジアラビアに対し、ロシアと繰り広げている原油の価格競争を方針転換するよう圧力をかけ始めた。しかし、サウジアラビアのエネルギー省は「原油減産をめぐりロシアと協議をしていない」との声明を発表した。米国から直接の働きかけを受けていないロシアが、サウジアラビアとの協議再開に前向きな姿勢を示したのにもかかわらずに、である。

 最重要同盟国である米国からの要求を袖にしてまで、サウジアラビアが価格競争路線を変えないのは、「世界の原油需要が今後10年強でピークを迎えるため、今のうちに世界の原油市場でより大きなシェアを確保することが合理的である」とする基本方針があるとの説が有力である(3月26日付フィナンシャルタイムズ)。

  世界の産油国を敵に回す覚悟で路線変更を実施したサウジアラビアだが、新戦略は今のところ功を奏していない。世界の原油需要が低迷を続けていることから、日量1000万バレルにまで拡大する予定の原油輸出量が、日量700万バレル前後とほとんど変わっていないのである(3月24日付ロイター)。

 サウジアラビアは原油生産量についても日量1300万バレルと過去最高水準に引き上げようとしているが、昨年9月の石油施設への大規模攻撃という悪夢を思い出させるような事案が発生している。

中東地域の地政学リスクが火種

 28日夜、イエメンの反政府武装組織フーシが、サウジアラビアの首都リヤドと南部の都市ジャザーンの石油関連施設に向けて弾道ミサイルを発射したのである。サウジアラビアが主導するアラブ連合軍によれば、これら2発のミサイルは米軍から供給されたパトリオットミサイルで迎撃したとのことであるが、フーシは29日に「さらなるミサイル攻撃を実施する」と警告している。

  イエメン情勢は最近フーシの優勢に傾きつつあり、フーシは3月上旬までにサウジアラビアと国境を接する北部ジャウフ州の多くを支配している(3月26日付日本経済新聞)。劣勢を挽回するため、アラブ連合軍は空爆の回数を増やしているが、これに対してフーシは再びドローンやミサイル攻撃を激化させているのである。

 筆者は3月16日付コラムですでに「フーシによるサウジアラビアの石油施設攻撃の再来」に触れているが、サウジアラビアの地政学リスクはフーシの攻撃に止まらない。アラブ連合軍がイエメン内戦に介入してから5年が経過したが、泥沼となった内戦で数万人が死亡し、コレラ流行など深刻な人道危機が生じている。

  イエメンでは新型コロナウイルスの感染は報告されていないが、国連は23日、「紛争をやめ、生命を守るための本当の戦いに注力すべきだ」と危機感を露わにしている。新型コロナウイルスの感染拡大を食い止めるための手洗いは、今や日常的な光景となっているが、内戦で荒廃し清潔な水が非常に乏しいイエメンでは数百万の人々にとっては手が届かない行為となっている(3月26日付AFP)。

 イエメンで新型コロナウイルスの感染が拡大すれば、サウジアラビアに波及するのは時間の問題とみられている。サウジアラビアでは2012年にMERS(中東呼吸器症候群)が発生し、多くの犠牲者が出たが、当時のWHOは同国の公衆衛生レベルの低さを問題視していた。同国政府は8日、大油田地帯を擁する東部のカティーフ地域を封鎖した。現在まで原油生産に支障が出ていないとされているが、イラクでは3月中旬に新型コロナウイルスの影響で日量約10万バレルの油田が生産停止に追い込まれている。サウジアラビアでもこのような事態が今後起きる可能性もある。

 サウジアラビアで新型コロナウイルスが蔓延し、隣接するアラブ首長国連邦(UAE)やカタールなどでの原油生産にも悪影響が及べば、世界の大原油供給基地(日量2000万バレル以上)が新型コロナウイルスにより封鎖されるかもしれないのである。このように、新型コロナウイルスの感染拡大は、世界の原油供給も激減させるリスクがあるのである。

 リーマンショック後の2011年、リビアの政変による供給の大幅減を材料に大量のマネーが原油市場に殺到し、原油価格は1バレル=100ドル超えとなった。新型コロナウイルス不況下でも世界の中央銀行が再びマネーを大量に放出していることから、中東地域の地政学リスクが火種となって、「不景気の下での原油高」というワーストシナリオが生じてしまう懸念も生じている。

(文=藤和彦/経済産業研究所上席研究員)

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

1984年 通商産業省入省
1991年 ドイツ留学(JETRO研修生)
1996年 警察庁へ出向(岩手県警警務部長)
1998年 石油公団へ出向(備蓄計画課長、総務課長)
2003年 内閣官房へ出向(内閣情報調査室内閣参事官、内閣情報分析官)
2011年 公益財団法人世界平和研究所へ出向(主任研究員)
2016年 経済産業研究所上席研究員
2021年 現職
独立行政法人 経済産業研究所

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