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クックパッドの凋落、利用者1千万人減で赤字転落…人気のクラシルと真逆の方向

文=A4studio
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クックパッド HP」より

 料理検索サイトの大手「クックパッド」が今、苦境に立たされている。ユーザー数の多いサービスという印象が強いクックパッドだが、今年の2月7日に発表した2019年12月期の連結決算では、なんと9億6800万円の最終赤字を計上している。最終利益4億700万円という前年の黒字決算から、上場以来初の赤字決算となってしまった。

 また、月間の利用者数平均も、2016年に比べると約1000万人近く減少してしまっているようだ。今回は、こうしたクックパッド低迷の原因を、ITビジネスや最新テクノロジーに関する本を多数手がけてきた編集者の久保田大海氏に聞いた。

革新的“だった”クックパッドのシステム

 レシピ検索の老舗であるクックパッド。創業当初はまさに画期的なシステムを誇っていたと久保田氏は解説する。

「1998年から始まったクックパッドは、インターネット黎明期に登場した革新的サイトだったと思います。その理由に、ネット史の大きな変革であったポータルサイトから検索エンジンへの転換があります。日本における巨大ポータルサイトの代表的な存在としてヤフーがありますが、さまざまな情報を一つのサイトから探っていけることでユーザーからの人気を得ました。

 一方で、検索エンジンの代表はグーグルなどですが、ユーザーが知りたいキーワードを検索ボックスに入力して欲しい情報にたどり着く仕組みです。クックパッドはユーザーの人気がポータルサイトサイトから検索エンジンに大きく移るなかで、レシピ名や材料名などのキーワードを入力すると、検索エンジンのトップに表示されるように工夫しました。つまり、わざわざクックパッドのサイトに行ってリンクをたどらなくても、すぐに求める情報にアクセスできたのです」(久保田氏)

 クックパッドが採用している「CGM(コンシューマー・ジェネレーテッド・メディア)」という仕組みがその人気を支えていたという。

「これは、ユーザーが投稿したもので形成していくメディアのことで、掲載するレシピをユーザーに委ねていたことが革新的でした。これにより、蓄積するまでに時間はかかるものの、運営側が大きな労力を払わずに莫大な量のレシピを提供できました。当時の検索エンジンのアルゴリズムが“コンテンツの情報量が多いサイトを検索上位に来させる”というものだったので、結果的に多くのユーザーの目につくところになりました。初期のクックパッドを支えたのはこうした“検索による流入”が屋台骨だったといえるでしょう。これは、PCで検索する人が多かった当時の時代背景も大きく関係していたと思いますね」(久保田氏)

SNSと動画系メディア台頭の波に乗り損ねた

 そんな人気が陰ってきたのは、どういう背景からなのだろうか。

「それはSNSの存在が非常に大きいでしょう。SNSで爆発的に人気になった“レシピ動画”の潮流に、クックパッドは乗り遅れたのです。現在、クックパッドを追い抜いたクラシルやDELISH KITCHENといったサイトは、訴求力の高い動画を武器にしてSNSに乗り込み、密接にSNSと連携した展開を推し進めています。そもそも動画というもの自体が料理レシピと相性が良いんです。文字と写真だけで調理工程を追うより、動画で見たほうがわかりやすいですからね。

 ただ、クックパッドも指をくわえて見ていたわけではなく、2017年頃から動画レシピを打ち出し始め、2018年にはレシピ動画アプリを制作する子会社cookpadTVを立ち上げています。翌年の4月には競合アプリとの差別化を図り、Live配信にフォーカスした cookpadLiveもリニューアルしました。ですが、正直なところ、時すでに遅しだったのです。大量のCMを打っていたクラシルやDELISH KITCHENのシェアを奪うには至らなかったのが、現在の凋落の原因でしょう」(久保田氏)

 また、こうした動画系メディアが瞬く間にユーザーの間に広まったのには、“料理に対する意識が変化してきた”ことも大きいと久保田氏は語る。

「クラシルやDELISH KITCHENの料理は、基本的にプロのスタッフがつくっています。これはつまり、高品質なレシピが一発で手に入るということ。クックパッドの屋台骨だった“膨大なレシピからお気に入りのものを選ぶ”というスタイルと正反対です。そして、クラシルやDELISH KITCHENが支持を得ているというのは、ユーザーが“自ら検索する”のではなく、最適なものを“オススメされる”ことを望み始めている変化の顕れでしょう。

 共働き世帯が増加するなどの影響で、料理に対する姿勢が“能動的”から“受動的”なスタイルに移り変わってきたのかもしれませんね。SNSで時間を消費するユーザーが増えるなかで、クックパッドが構築していたスタイルは、時代の波に乗り遅れてしまったのではないでしょうか。さらに言うなら、高評価のレシピに早くたどり着ける機能を、課金して得られるプレミア機能に組み込んでしまっていることも、こうした流れにクックパッドが逆行してしまっている顕著な例になってしまいました。かつてはドル箱だった稼ぎ頭も、今となっては、ユーザーが求めていることから離れてしまいました」(久保田氏)

 ユーザーの求めるところと企業の舵取りのズレという面で、クックパッド経営者の変化も一部には影響しているという。

「2012年に創始者でもある佐野陽光氏から社長の座を譲り受けた穐田誉輝氏は、料理のみならずウエディングや育児といった事業にも乗り出し、利益を大きく向上させました。しかし2016年には、穐田氏を解任するかたちで佐野氏が社長に就任。彼の理想とする料理に焦点を絞った経営に軌道修正したんです。佐野氏は“料理が文化の一部として深く浸透していくことが企業価値”という立派な視点で運営を進めているのですが、共働き世帯が増えて時短を好むユーザーの求めるところと合致しているか、と問われると、そうとはいえない状況でしょう」(久保田氏)

 クックパッドは地域の生産者から食材を直接買い付け、利用者が指定した宅配ボックスで受け取れるアプリ「クックパッドマート」なども推し進めているが、これも大きな収益を見込める事業とはいいがたいかもしれない。

広がるスーパーアプリ化に対応できるか?

 久保田氏は、新たに来る潮流をどう捉えられるかが肝要だという。

「実は昨年から中国のWeChat、インドネシアのGO-JEK、シンガポールのGrabなど、ひとつのアプリでなんでもできる“スーパーアプリ”が台頭してきています。こうしたアプリは“使われる頻度・毎日使われるアプリ”を最重要視し、普段はあまり利用する人が少ないサービスも、ひとつのアプリ内で利用させることで、アクセス数を向上させられるメリットがあるんです。

 これはまさに、クックパッドがSNSの登場により動画系料理アプリに追い抜かれた変革のタイミングの再来、といえるでしょう。今こそクックパッドは“料理にこだわり続けるメリット”がどこまであるのか、ということを熟慮すべきなのではないでしょうか。仮にこだわるなら“つくる”ではなく“食べる”に視野を広げてフードデリバリーに進出するなど、やれることは多いと思うんです。今、クラシルを運営するdelyをヤフーが買収したことを考えると、ヤフーがスーパーアプリ的に料理の分野に本格参入してくる可能性は大です。クックパッドはまさに岐路に立たされているといえますね」(久保田氏)

 後発レシピサイトの利点を取り入れ変化してきたクックパッド。しかし、ユーザーの取り込みという点では、すでに大きく引き離されてしまっている感が強い。ここから盛り返すには、他社に先行する新たな会心の一手を打ち出すほかないのかもしれない。

(文=A4studio)

A4studio

A4studio

エーヨンスタジオ/WEB媒体(ニュースサイト)、雑誌媒体(週刊誌)を中心に、時事系、サブカル系、ビジネス系などのトピックの企画・編集・執筆を行う編集プロダクション。
株式会社A4studio

Twitter:@a4studio_tokyo

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