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江川紹子の「事件ウオッチ」第154回

話をすりかえる首相、追及しない記者…「無意味な『記者会見』の改善を」江川紹子の提言

文=江川紹子/ジャーナリスト
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“不要不急”の質疑に時間を食った6月18日に安倍首相会見(画像は首相官邸より)

 これでは、記者会見は意味を成さないのではないか。

 それというのは、6月18日に安倍晋三首相が開いた国会閉会後の会見である。東京地検が河井克行前法相と妻の案里参院議員を逮捕した、との速報が流れて約3時間後の首相会見だ。にもかかわらず、記者たちはこの問題について、問いただそうとしないのに驚いた。

河井夫妻逮捕に関する安倍首相の責任

 安倍首相の記者会見は、毎回はじめに、20分以上に及ぶ首相のスピーチがあり、それが終わってようやく質疑応答となる。この日の会見も、同様の段取りで行われた。

 さすがに、安倍首相もスピーチの冒頭、河井夫妻逮捕の問題に言及した。しかし、それは、以下のようにきわめて内容が乏しいものだった。

「本日、我が党所属であった現職国会議員が逮捕されたことについては、大変遺憾であります。かつて法務大臣に任命した者として、その責任を痛感しております。国民の皆様に深くお詫び申し上げます。

 この機に、国民の皆様の厳しいまなざしをしっかりと受け止め、我々国会議員は、改めて自ら襟を正さなければならないと考えております」

「任命した者として」「責任を痛感」と言いながら、その責任をどう果たすかについては触れず、論点を「国会議員」全体の話にすりかえている。

 記者としては当然、「安倍総理自身の責任は、どのように果たすつもりなのか」を問うべきところだ。

 第2次安倍政権では、10人の閣僚が辞任しているが、そのうち体調不良で辞めた1人を除き、そのたびに安倍首相は「もとより任命責任は総理大臣たる私にあり……」と述べ、国民に陳謝することで、やり過ごしてきた。

 ただ、今回の河井夫妻のケースは、これまでのさまざまな問題とは性格を異にする。

 まず、自民党からは通常の10倍に当たる1億5000万円もの金が投入された。安倍首相と何度も会食を重ねている政治ジャーナリストの田崎史郎氏ですら「総裁である安倍総理か二階幹事長のどちらかが出せって言わない限り出る金じゃないです」と述べているほど、異常な金額だった。ちなみに、2019年の自民党には国民の血税から176億円の政党助成金が交付されている。

 仮に1億5000万円であればもちろん、買収の直接原資ではないとしても、党のトップとしての安倍総裁の責任は軽視できない。党本部から多額の資金提供が期待できたからこそ、河井夫妻は手元資金をばらまけた、とも考えられる。

 さらに、安倍首相が自身の複数の秘書を案里氏の選挙戦に派遣している。首相自身も応援演説を行い、菅義偉官房長官は2回も広島入りした。二階俊博・自民党幹事長も、広島で「圧倒的に勝たせてください」などと訴え、案里氏の応援を行った。

 案里氏は、安倍首相本人、官邸、そして安倍総裁率いる自民党が総力を挙げて当選させた、といえる。その選挙を前に、河井夫妻は自ら地元の地方議員や首長、後援会関係者らの金をばらまき、それが買収に当たる、との疑惑である。

 この経緯を考えれば、安倍首相自身の「責任」は、「結果的に、法務大臣にすべきでない人を任命してしまった」ことだけにはとどまるはずがない。

 記者会見では、当然その点が問われると、中継を見ていた人も、考えていたのではないだろうか。

 ところが……。

“不要不急”の質問に終始する記者たち

 質疑応答は、まず内閣記者会から2人が代表質問を行うよう、司会の官邸報道室長が促す。この日のトップバッターはフジテレビの鹿嶋記者。彼は河井案件について、遠慮がちに次のように尋ねた。

「冒頭、言及がありました河井夫妻が逮捕されたことについて、責任を痛感していると述べられましたが、総理、総裁として具体的にどういった責任を痛感されているのかということと、自民党から振り込まれた1億5000万円の一部が買収資金に使われたことはないということでいいのか、おうかがいします」

 安倍首相は、冒頭の発言を繰り返した後、官僚が用意した手元の資料に目を落としながら、次のように述べた。

「選挙は民主主義の基本でありますから、そこに疑いの目が注がれることはあってはならないと考えております。自民党総裁として、自民党においてより一層、襟を正し、そして、国民に対する説明責任も果たしていかなければならないと、こう考えています。

 それ以上につきましては、個別の事件に関すること、捜査中の個別の事件に関することでありまして、詳細なコメントは控えたいと思いますが、自民党の政治資金につきましては、昨日、二階幹事長より、党本部では公認会計士が厳格な基準に照らして、事後的に各支部の支出をチェックしているところであり、巷間言われているような使途に使うことができないことは当然でありますという説明を行われたというふうに承知をしております」

「どういった責任」を感じているかという、生ぬるい質問にすら答えておらず、あとは前日の二階幹事長の記者会見の内容を紹介しただけ。新しい情報も、首相自らの心中を語る言葉も、まるでなかった。

 それなのに、約1時間の記者会見で、河井案件についての質問はこれ以上なされなかった。

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