
新型コロナウイルスの感染拡大を受け、政府はようやくマイナンバーカードの普及とデジタル基盤の抜本改善に重い腰を上げた。コロナ対策で決めた、国民に1人10万円給付などの大幅な支給遅れへの批判に背中を押された。大阪市や名古屋市では、10万円支給は8月にまでずれ込みそうだ。行政手続きの遅滞はコロナ禍で誰の目にもわかるようになり、安倍政権の支持率は30%台へ急降下した。
遅滞の原因のひとつが、給付金のオンライン申請処理の遅れだ。マイナンバーカードを持っている市民は給付金をオンラインで申請できるが、そもそもカード保有者は国民の17%ほどしかいない。しかも、本人が暗証番号を忘れたり、手作業による内容確認で自治体の受付窓口が大混乱し、パンクして書面申請に切り替え、処理を遅らせてしまった。
影響の大きさに、政府はあわててカードの普及化と行政のデジタル化に乗り出した。2つの切り口が導入された。ひとつは、コロナの感染抑止策として、感染者と濃厚接触したリスクがスマートフォンでわかる「接触確認」アプリの普及だ。2つめは、マイナンバーカードに利便性と多機能性を持たせ、カードを保有するメリットを感じさせ、普及率を上げる。
厚生労働省は6月から、このアプリの運用を始めた。モデルとしたのは、感染抑止効果のあるシンガポール政府のアプリ。中国や韓国のアプリと異なり、市民の行動を監視・追跡する位置情報はついていない。米アップルとグーグルが基本技術を開発した近距離無線通信「ブルートゥース」を使い、スマホ間の無線通信で互いに接近したことを把握する。
感染者との距離が「1メートル以内」で「15分以上」濃厚接触すると、無線で互いを判別し、双方のスマホに記録される。アプリ利用者が陽性診断を受け、アプリを通じて申告すると、2週間以内にその人と濃厚接触したアプリ利用者のスマホに通知される。その濃厚接触者がアプリで申告すれば、保健所が接触者の拡大状況をつかみ、対応できる仕組みだ。
肝心な点は、アプリの利用にあたり、名前や電話番号など本人がわかる特定情報を登録する必要がなく、利用者の接触情報は暗号化されてスマホ内に留まることだ。政府や捜査当局もアクセスできない。情報は2週間後にはスマホからも自動消去される。
中国や韓国が個人情報を政府管理しているのに対し、日本の使用アプリはドイツ、フランスと同じタイプ。「自由や人権を重んじる民主主義の価値観が表れている」「プライバシーに配慮しながらデータ活用のメリットを最大限生かしている」などと専門家の評価は高い。
9月から「マイナポイント」が開始
もうひとつの課題となった、マイナンバーカードの普及と利活用。政府のワーキンググループは6月末、課題を整理し、利便性を向上するため「民間利用の拡大」を打ち出した。柱となるのが、マイナンバーカードの保有者に最大5000円分のポイントを配る「マイナポイント」。