
大相撲7月場所7日目。幕内土俵入りで一人の力士、阿炎(あび)が姿を見せない非常事態が発生した。休場であれば普通は事前に情報が入ってくる。最初に疑うであろう新型コロナウイルス感染の線は消えている。遅刻は天候などの問題で稀に発生するが、付き人がいるので事態は把握できるはずだからその線もない。アナウンサーがこの時点で不在の理由を説明できないということが、本来あり得ないことだ。
そして偶然にもテレビ解説をこの日担当していた、阿炎の師匠である元寺尾の錣山親方が言及した不在の理由。それは、場所中に会食に参加したことに伴うペナルティであった。
本場所中に会食という考えられない事態はニュースとなり、世間を駆け巡った。コロナが感染拡大し大雨の被害もつぶさに報告されるなか、一人の力士の不祥事がこれだけ大きな扱いを受けるというのは、ことの大きさを物語っている。
だが、世間の温度感と異なる反応を見せた人物がいた。ホリエモンこと実業家の堀江貴文氏である。堀江氏は処分に対してツイッターでこう不満を口にした。
「異常なレベルの処分。ひどすぎる」
「外にすら飯食いにいけないって異常だと思いませんかね?」
「(協会の)ガイドラインがひどい」
堀江氏の発言は世の中の反応と真逆だったこともあり、ネット記事となり多くの人の知るところとなった。どのような意見を持つことも自由だと個人的には思う。人にはそれぞれ考え方がある。自身の信条から世論と異なる意見を持つこと自体は責められることではない。
ただ、コロナの感染が再度拡大するなかで7月場所の開催に踏み切らざるを得ない日本相撲協会の立場で考えると、ガイドラインがひどいとはいえないし、これに準じた対応をしているわけなので、外に食事に行けないことが異常ではない。さらには、これを逸脱した力士に対する処分として異常なレベルとはいいがたい。
まず考えてほしいのが、今回の本場所開催は感染症対策の専門家監修の下に行われているということである。このウイルスに対する研究がこの半年の間、急ピッチで進められているとはいえ、未知の部分が多いことは事実だ。となると、感染者を出さないようにするためにリスクがあれば極力避けるかたちにせざるを得ないということである。
堀江氏は「ガイドラインがひどい」と言う。ただ、仮に基準を緩くしたとして後年振り返った時にそれが適正なラインなのかもしれないが、今の段階ではそれはわからない。適正なラインがわからない以上は、厳しいラインを正とする。それゆえ、Withコロナ時代は窮屈ではあるのだが、詳細が判明するまでの間は協力していかねばならないわけだ。
ガイドラインを厳しくせねばならないのには、まだ理由がある。それは大相撲7月場所が2500人規模で、かつ15日連続で行われる、緊急事態宣言後としては日本で初めての屋内興行だからである。