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飲食店が生き残るには時短要請の“積極的無視”しかない…コロナで変わる経営の常識

文=深笛義也/ライター
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坂口孝則氏

 450件。帝国データバンクが発表した、8月20日時点での「新型コロナウイルス関連倒産」の件数だ。飲食店、ホテル・旅館、アパレル・雑貨小売店、食品卸、建設・工事業、食品製造が倒産件数の上位に並ぶ。

 生き残るために、何をすべきか。企業、個人店、個人事業主のすべてに通ずる経営ノウハウを説いた、坂口孝則著『1年仕事がなくても倒産しない経営術』(Hagazussa Books)が8月20日に発売される。著者の坂口氏にコロナ禍でのサバイバルについて聞いた。

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『1年仕事がなくても倒産しない経営術』(坂口孝則/ハガツサブックス)

  業績が悪化した産業では、非正規労働者の解雇・雇い止め、正社員から希望退職を募るなど、リストラの動きが広がっている。企業の生き残り策として、リストラはしかたのないものなのだろうか。

「欧米と違って日本では、解雇の濫用を戒めた最高裁判決があって、正社員のリストラはなかなかできません。これまでアクティビストといわれる“物言う株主”が、現金を留保せずに使うか株主に還元しろということを言ってきましたが、そうした主張は一旦リセットされるでしょう。これまで日本の企業は利益を内部留保として溜め込んでいると批判されてきましたが、それが今、人材の維持に役立っているので、実は正しかったと見直されるでしょう」

 内部留保が少なくコロナ禍で尽きてしまったという企業、初めから内部留保がないという企業はどうすべきなのか。

「1980年代、90年代までは、目先の利益ばかり求めないという日本企業はたくさんあったんです。それがバブルの崩壊やデフレ不況の影響か、目先の利益を求める傾向が強くなってきました。アマゾンがやっているように、短期的な利益ももの凄く稼いで、かつ中長期的な投資を行っていく姿勢が必要だと思うんですね。日本企業は儲かっている根幹事業にばかり人材をさいている傾向があります。儲からない事業を切り捨てていくのはいいですけれど、それと同時に新しい事業をつくりだして、そこに人材を投入していくことが必要だと思います」

「帰省する」も選択肢

 コロナ禍で最も打撃を受けているのが、飲食業界だ。東京都は8月3日から酒を提供する飲食店などについて、午後10時までに営業時間を短縮するよう要請した。大阪府は8月6日からミナミの一部で、同様の飲食店などに対して午後8時までの営業時間短縮を要請。他の自治体でも飲食店への時短営業の要請が行われている。この要請に、従うべきだろうか。

「日本の平均で言うと、飲食店は9%売上が下がると赤字になってしまうんですね。本当に生き残りを考えるのだったら、時短要請には従わないという選択しかないと思うんです。大手チェーンだったら、ブランディングの観点から、行政に近いところの意見を聞かないといけないということもあるかもしれません。そうでなければ、生き残りのためには、時短要請は積極的無視をするという答えにしかならないでしょう」

  飲食業の次に打撃を受けているのが、観光業だ。さまざまな批判も受けている、Go To トラベル キャンペーン。これをどう見るか。

「大手の旅行代理店の最新決算状況を見ると、前年比98%減くらいなんですね。残り2%くらいしか残っていない状況。生き残りを考えるんだったら、Go To トラベルに乗っかるしかないでしょう。倒産してもかまわないと言うんだったら、別ですけど……。Go To トラベルから東京が除外されたり、小池百合子都知事が帰省の自粛を呼びかけたりして、東京都民は外に出ちゃいけないようなムードです。

 私の両親は75歳です。私たちの子どもである孫と、これから会える回数は10回くらいかもしれません。そうしたらこれは、経済とか疫学とかの話じゃなくて、人間の尊厳の話です。うちは私も妻もテレワークしてますし、子供も2週間学校に行ってなくて発症してないので、会いに行くのも1つの選択だと考えています。結局は帰省しませんでしたが」

弱点を持っていた業態にコロナ禍が決定打

 コロナ禍の生き残り策の1つとして、事業への共感を持つ人々から広く協力を求めるクラウドファンディングがある。

「私は10代の頃から大好きなライブハウスを、文化論的に論じることもしています。コロナ禍でライブハウスはかなり絶望的な状態で、さまざまなクラウドファンディングが行われています。集客をバンドに依存するのではなく、店そのものの魅力で観客を集めていたライブハウスは、クラウドファンディングでお金が集まっています。それとは逆に、バンドにおんぶに抱っこで集客してきたライブハウスはクラウドファンディングをやってもあまりお金は集まっていません。

 これは飲食店や観光業など他の業種でも同じです。コロナ禍以前にバイネームで集客できていたところは、クラウドファンディングで支援が集まっています。そこから言えることは、それまで弱点を持っていた業態に、コロナ禍が決定打を与えたということです。多くの産業はだいたい2カ月分の現金しか持っていません。阪神・淡路大震災や東日本大震災などを見てわかるように、震災が事業を脅かすことも日本では珍しくありません。そうしたことが起きても対応できる耐性をつくっておくのが重要です。2カ月の売上がなくなっただけですべてが台無しになってしまうという会社がほとんどだということには、警鐘を鳴らしておく必要があると思います」

 コロナ禍での生き残りをリストラで行おうとする企業は、滅亡への道を歩んでいるといえるだろう。

(文=深笛義也/ライター)

●坂口孝則(さかぐち・たかのり)

未来調達研究所株式会社所属の経営コンサルタント。大学卒業後、メーカーの調達 部門に配属され、調達・購買、原価企画を担当してきたコスト削減、仕入れ等の専門家。日本テレビ「スッキリ」、TBS「篠田麻里子GOOD LIFE LAB」のコメンテーター、ラジオ「オールビジネスニッポン」のMCなどとしても活躍中。8月20日に新刊『1年仕事がなくても倒産しない経営術』を上梓した。

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『1年仕事がなくても倒産しない経営術』(坂口孝則/ハガツサブックス)

深笛義也/ライター

深笛義也/ライター

1959年東京生まれ。横浜市内で育つ。10代後半から20代後半まで、現地に居住するなどして、成田空港反対闘争を支援。30代からライターになる。ノンフィクションも多数執筆している。

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