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渡邉哲也「よくわかる経済のしくみ」

中国、弾道ミサイル4発発射で南シナ海が戦場に…米国に“先に手を出した”代償

文=渡邉哲也/経済評論家
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中国の習近平国家主席(写真:AP/アフロ)

 南シナ海をめぐるアメリカと中国の応酬が激化している。8月26日、ドナルド・トランプ政権は中国企業24社に事実上の禁輸措置を発動することを発表した。

 国有企業である中国交通建設の傘下企業などについて、南シナ海での軍事拠点建設に関わったとして、「エンティティー・リスト」に27日付で追加する。今後、対象企業にアメリカ製品を輸出する場合は米商務省の許可が必要となるが、申請は原則却下されるという。

 中国交通建設は習近平指導部が掲げる広域経済圏構想「一帯一路」に関わる企業であり、ほかにも、デジタル通信機器やGPS関連機器を手がける広州海格通信集団などが含まれており、今後大きな影響が出るものと予測される。

 ウィルバー・ロス商務長官は「(制裁対象企業が)中国の挑発的な人工島建設で重要な役割を担っている」と断定しており、南シナ海関連では初めてとなる経済制裁のカードをここで切ってきたことになる。ただし、今回の措置は「アメリカ原産技術の禁輸」であり、金融制裁を伴うものではない。そのため、警告の意味合いが強く、短期的には影響が限定されるだろう。

 また、米国務省も、南シナ海の埋め立てや軍事拠点化などに関与した中国人と家族に対して、入国拒否などのビザ(査証)制限を実施すると発表した。マイク・ポンペオ国務長官は、「アメリカは中国が南シナ海での威圧的行動を中止するまで行動する」と警告している。

 中国が南シナ海で人工島を建設するなど軍事拠点化する動きについて、7月には、ポンペオ国務長官が「完全に違法」「世界は中国が南シナ海を自らの海洋帝国として扱うのを認めない」と明言し、アメリカが初めて公式に否定した。また、同月には南シナ海で米中が同時に軍事演習を行い、一気に緊張が高まったという経緯がある。

中国のミサイル発射で南シナ海が“戦場”に

 一方、中国は8月26日朝に南シナ海に向けて中距離弾道ミサイル4発の発射実験を行ったことが報じられており、ミサイルは南シナ海の西沙諸島と海南島に挟まれた航行禁止海域に着弾したという。しかも、そのうち「東風26」は米領グアムを射程に収めることから「グアムキラー」と言われ、同じく発射された「東風21D」とともに「空母キラー」と呼ばれる強力なものだ。

 中国は前日に軍事演習区域を米軍偵察機が飛行したことに対して「あからさまな挑発行為だ」と非難しており、アメリカを牽制する意図があることは明らかだ。しかし、あくまで威嚇的な行動であるとはいえ、これは事実上の宣戦布告と言っても過言ではない。南シナ海を舞台にした米中による戦争状態を加速させる動きであると同時に、中国がアメリカに対して先に手を出してしまったことの代償は大きなものになるだろう。

 すでに、アメリカは新型コロナウイルスの感染拡大を受けて中国の在留アメリカ人に対して帰国命令を出しており、残留者については保護の対象外としている。そのため、中国には保護すべきアメリカ人はいないということになっている。

 中国に対して強硬姿勢を取るアメリカは、台湾との関係を強化している。8月10日には、アレックス・アザー厚生長官が台湾を訪れ、蔡英文総統と会談を行った。これは、1979年の断交以来、最高位の高官訪問であり、中国に対する牽制の意味合いも多分に含まれているだろう。

 当初は8月末に予定されていたG7サミット(主要7カ国首脳会議)は11月のアメリカ大統領選挙後に延期され、世界的な話し合いの場は先送りとなった。今後は、9月半ばに迎える、華為技術(ファーウェイ)や北京字節跳動科技(バイトダンス)が運営する動画アプリ「TikTok」に対する制裁期限、9月26日から実施される香港の貿易上の優遇措置廃止などが、事態が動くタイミングとなるのだろう。

 また、米大統領選の選挙戦が本格化する中で、中国共産党員のアメリカ資産凍結と入国拒否、アメリカからの退去命令などの、より強い制裁が発動されるのかも注目に値する。

(文=渡邉哲也/経済評論家)

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渡邉哲也/経済評論家

渡邉哲也/経済評論家

作家・経済評論家。1969年生まれ。
日本大学法学部経営法学科卒業。貿易会社に勤務し独立。複数の企業を経営、内外の政治経済のリサーチや分析に定評があり、政策立案の支援、雑誌の企画監修、テレビ出演等幅広く活動しベストセラー多数、専門は国際経済から金融、経済安全保障まで多岐にわたり、100作以上の著作を刊行している。

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