
株式上場による資金調達がたったの853億円?
東芝が債務超過を回避するために2018年6月、米投資会社ベインキャピタルを中心とする「日米韓連合」に約2兆円で売却したキオクシアホールディングス(旧東芝メモリホールディングス、以下、旧東芝メモリ、またはキオクシア)が2020年10月6日に東証1部か2部に上場する。
しかし、その上場に伴う新株発行での資金調達額が853億円と報道されて、一瞬目を疑った。「一桁額が小さいのではないか?」と思ったのだ。というのは、NAND型フラッシュメモリ(以下、NAND)のビジネスを行うには、年間最低でも5000億円、理想的には1兆円くらいの投資が必要であり、853億円では、ほとんど何もできないに等しいからだ。
筆者は株を一切やらないし(トランプ米大統領がツイッターでつぶやいただけで高騰したり暴落する株の仕組みが、よくわからないということもある)、株取引や上場の意味を正確に理解しているわけではない。しかし、それにしても、念願の株式上場で853億円というのは、あんまりだろう。
そして、東証に上場した後のキオクシアについては、どう考えても明るい未来が描けないのである。その最大の根拠は、株主が「日米韓(ぐちゃぐちゃ)連合」になっており、ここに日本政策投資銀行や産業革新機構が関わっていることから日本政府の意向が介入する恐れがある上、三井住友銀行、みずほ銀行、三菱UFJ銀行が約9000億円を融資しているために銀行団があれこれ注文を付けてくる可能性があるからだ(ヒット中のドラマ『半沢直樹』<TBS系>を視聴されている読者なら、銀行が融資先に口出しする事情がよくおわかりのことと思う)。
以下では、まずキオクシアが「日米韓(ぐちゃぐちゃ)連合」に売却されることになった事情を復習し、今日までの経緯を振り返ってみよう。
最高価格で応札したホンハイに経済産業省が仕返し
旧東芝メモリの買収については、2回の入札を経て2017年7月頃、ベインキャピタルを中心とする「日米韓連合」、米ウエスタンデジタル(WD)連合、台湾・鴻海精密工業(ホンハイ)を中心とする連合の3陣営が激しく争っていた(表1)。
市場原理からいえば、2回の入札のいずれにおいても、最高価格で応札したホンハイ陣営が買収権を得るのが筋というものであろう。ところが、実際はそうはならなかった。2016年のシャープの買収をめぐって激しく対立し、ホンハイに敗北した産業革新機構とその背後にいた経済産業省が、ホンハイに「外為法違反」を突き付けて仕返しに出てきたからだ。
経産省は、「ホンハイが買収すると旧東芝メモリのNANDの技術が中国に流出する恐れがある」などと言いがかりをつけてきたが、まったくのお門違いである。単に嫌がらせをしてきただけだと思うが、本気でそう思っていたとしたら見識を疑う。
というのは、旧東芝メモリのNANDは、ウエハにチップを製造する前工程は四日市工場で行っているものの、そのウエハは台湾や中国の後工程専門メーカー(Outsourced Semiconductor Assembly and Test、OSAT)でパッケージングされ、それがホンハイの中国工場に渡って検査を行った上でスマホ、PC、サーバーなどに組み込まれていた。
したがって、ホンハイが買収しなくても、旧東芝メモリのNAND技術の詳細は、台湾や中国のOSATおよびホンハイは非常によく知っていた。このような状況にあるにもかかわらず、「技術流出」などの理由で「外為法違反」を振りかざすのは、誰が見ても過去の仕返しであり、小学生レベルの子供の喧嘩に等しい。しかし、経産省は本当にこの屁理屈でホンハイを排除したのである。