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キリン、負の遺産・豪大手飲料の売却頓挫…海外「1兆円」M&Aの“世紀の大失敗”

文=編集部
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キリン 一番搾り(「Amazon」サイトより)

 キリンホールディングス(HD)はオーストラリアの乳飲料事業の売却を中止した。2019年秋、豪国内で乳製品や飲料を手がけるライオン飲料を中国蒙牛(もうぎゅう)乳業に6億豪ドル(約460億円)で売却する契約を結んだが、豪政府が売却に反対したため実現しなかった。豪フライデンバーグ財務相は蒙牛乳業に対し、「提案された買収は国益に反する」と伝えていたことを明らかにした。

 今年4月、豪州が新型コロナウイルスをめぐり、中国に対して独立した調査を要求したことから両国の関係は決定的に悪化した。当時、米国や欧州で、中国をコロナの発生源とみなし、中国へ賠償を要求するといった見方が広がっていた。

 中国共産党が最も恐れたのが各国からの賠償要求だった。賠償論の引き金になりかねない独立調査を主張した豪州を徹底的に叩き、同調する国が広がらないよう、抑え込むことを狙った。5月、中国は「検疫上の理由」から豪産食肉の輸入を一部停止。直後に、豪産大麦の価格が不当に安いとし、80%超の追加関税を課すことを決めた。

 8月には豪産ワインを対象に反ダンピング(不当廉売)調査を始めた。豪州ワインは輸出の約4割が中国向けだった。中国はワインの輸入規制をちらつかせながら豪州を揺さぶった。さらに、政治的対立へとエスカレートした。中国政府が香港への統制を強める「香港国家安全維持法」を施行したことを受け、モリソン・豪首相は7月、豪国内にいる香港市民が永住権を申請できるようにすると発表。同月下旬には中国が軍事拠点化を進める南シナ海について、中国が主張する領有権を認めないとする書簡を国連のアントニオ・グテーレス事務総長に提出した。

 豪州は華為技術(ファーウェイ)や南シナ海など安全保障で米国と足並みを揃えるが、経済的には中国に依存している。例えば、豪州最大の輸出品である鉄鉱石は8割以上が中国向け。農産品では羊毛は輸出の7割超、大麦は6割超がそうである。中国は輸入規制の強化で豪州を締め上げるとみられている。一方、豪州ではチャイナ―マネーの流入への警戒感が広まり、3月、海外からの全投資案件を審査することを決定。6月には安全保障にかかわる事業への投資について規制を強化する方針を決めた。

 キリンHDの豪州の乳飲料事業を蒙牛乳業に売却することが「国益に反する」としたのはこうした流れの一環。豪政府の許可が得られないと判断し、キリンは契約を解除する道を選んだ。中国以外の企業やファンドと再交渉し、年内に売却したいとしている。

キリンの海外でのM&Aは失敗の連続

「あのときの悔しさを一日たりとも忘れることはない」

 06年3月、キリンビールの社長に就いた加藤壷康氏が就任会見で発した言葉だ。「スーパードライ」で空前の大ヒットを飛ばしたアサヒビールに業界首位の座を明け渡した01年を振り返り、シェアの再逆転、首位奪回に強い決意を示した。

「非連続の成長」と名付けたM&Aで、加藤社長はアジア・オセアニアを重点地域と位置付けた。07年、豪の乳製品・果汁飲料のナショナルフーズ(現・ライオン飲料)を2940億円で買収したのを皮切りに09年、豪ビール2位のライオンネイサン(現・ライオン酒類)を2300億円を投じて完全子会社にした。加藤社長は怒涛の勢いでM&Aを展開。「ミスターM&A」と呼ばれるようになる。

 しかし、10年、経済界を騒然とさせたサントリーホールディングスとの経営統合は、三菱グループの猛反対で頓挫。「ミスターM&A」は得意のM&Aで足をすくわれ失脚した。

 加藤氏の後任の社長に就いた三宅占二氏は11年、ブラジル第2位のビール会社、スキンカリオール(ブラジルキリンに社名を変更)を3000億円で買収した。キリンHDの海外事業への出資総額は1兆円を超えた。ライオンネイサンやブラジルキリンの買収は「高値づかみ」という拙い結果に終わった。

 キリンHDは海外へ経営資源を集中しているうちに国内のシェアも落ち、15年12月期は上場以来初めて最終赤字に沈んだ。15年に社長に就任した磯崎功典氏のもと不採算事業の撤退を進めた。海外は、ブラジルキリンと豪ライオン飲料を売ることになった。17年、3000億円で買収したブラジルキリンを770億円でハイネケンに売却した。19年11月、豪やニュージーランドの事業を統括するライオン飲料を中国の乳業大手、蒙牛乳業に約460億円で売却することで合意した。豪飲料事業の売却で「負の遺産が一掃できる」と安堵していた。

 キリンHDの19年12月期の連結業績(国際会計基準)は純利益が前の期比64%減の596億円だった。豪子会社ライオンの飲料事業(ライオン飲料)で571億円の減損を計上したことが響いた。同期のライオン飲料の売上高は円ベースで前期比11%減の1282億円。事業利益は69%減の16億円と低迷が続いていた。

 21年12月期までの中期経営計画でM&Aを封印。クラフトビールや健康事業に注力する。20年12月期の連結業績予想は、売上高にあたる売上収益は前期比6%減の1兆8400億円、事業利益は27%減の1400億円の減収・減益の見込み。コロナの影響が大きい。家庭用は巣ごもり消費の拡大により第三のビール「本麒麟」が大幅に伸びるが、居酒屋向けなど業務用ビールが落ち込む。前期にライオンの飲料事業で減損を計上したため、最終利益は8%増の645億円とみている。

(文=編集部)

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