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吉澤恵理「薬剤師の視点で社会を斬る」

肩や膝などの痛みに画期的な治療法…メリットだらけの「運動器エコー」、なぜ普及しない?

文=吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト
肩や膝などの痛みに画期的な治療法…メリットだらけの「運動器エコー」、なぜ普及しない?の画像1
「Getty Images」より

 長引くコロナ禍にあって、外出を控え運動量が減少し、腰や膝、肩などの関節の痛みを訴える人が増えている。関節の痛みといえば、整形外科を受診するのが一般的だが、実は同じ症状で受診しても医師によってその診断は大きく異なる。

 従来の診察では、レントゲン撮影を行い、特に異常がなければ原因は「加齢」と判断され、痛み止めや注射、リハビリ通院で経過観察することが一般的だった。しかし、その経過観察ではほとんどの場合、症状が大きく改善することもなく、漫然と薬や注射を続ける患者が圧倒的に多い。そんな無限ループから抜け出せると注目を浴びる「運動器エコー」を用いた治療法について、狛江はく整形外科院長の白勝医師に話を聞いた。

運動器エコーとは

 エコー検査とは、超音波を体内に当て、反射してくる音を受信して画像をつくり出す検査法である。そのなかのモードのひとつにドップラー法(Doppler method)がある。ドップラー法とは、近づいてくる音は高くなっていき、去っていく音は低くなっていくドップラー効果を応用して、炎症部位を同定するために用いられる検査である。この運動器エコーのドップラーモードを関節炎に応用した治療が、成果を上げているという。

「たとえば、40~50代に多い石灰沈着性腱板炎は、体内で自然にできる塩基性リン酸カルシウム(石灰)が肩関節の腱板に沈着することで起きますが、レントゲン撮影では石灰化していることはわかっても、肩の腱板のどこが炎症を起こしているかまではわかりません。しかし、エコーを併用すれば、モニターで炎症を起こしている部位を可視化できます」

肩や膝などの痛みに画期的な治療法…メリットだらけの「運動器エコー」、なぜ普及しない?の画像2
レントゲン写真
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運動器エコー写真/レントゲンでは把握できない炎症部が可視化できる

 運動器エコーによって炎症部を同定でき、そこへ直接、薬液を注入できるのがエコーの強みでもあると同時に、患者が自身の病態を理解しやすいという利点がある。

「患者さんにモニターを見せながら病状を説明できるのは大きなメリットです。漫然と痛み止めや注射を繰り返すことによるQOL(生活の質)の低下を防げます。注射の針もモニターで確認できるので、血管や神経を傷つけることもありません。レントゲンによる被曝の心配もないので、子供や妊婦にも安全に使用できます。運動器エコーは、検査だけではなく治療にも用いることができる画期的なツールなのです」

医師の裁量には差がある

 運動器エコーの治療効果は口コミで広がり、白氏のもとには遠方からも患者が訪れる。なかには、長年続いた肩の痛みで腕が上がらないという患者が運動器エコーによって治療し、帰る際には腕が上がるようになり笑顔を見せることもあるという。もちろん、肩のみならずほかの部位の関節炎にも応用できる。

 それほど患者にとって利益がある運動器エコーだが、ひとつ大きな問題がある。それはエコーを診療に取り入れている整形外科が少ないことだ。

「私がエコーを始めたのは約4年前。エコー装置の開発が進んで解像度が上がり、臨床で使えるレベルになってきてからです。大学の医局に在籍していたころには触ったこともありませんでした。日本整形外科学会の整形外科専門医試験にエコーに関する問題は出題されませんし、整形外科医用のエコー装置も存在しなかったので、関節痛にエコーを使うという発想自体がありませんでした。整形外科医がエコー装置の使い方を学ぶ場所がなく、医師本人の熱意によるところが大きいと感じます」

 白氏のようなエコーを診療に取り入れる医師らが積極的に普及のための勉強会などを行い、最近ではだいぶ普及してきているが、エコーを診療に使っている開業医は全体の5割程度、治療に使っているのはまだ1割程度、オペを行う大学病院や市中の病院ではさらに低いと予想される。患者のためにも今後、運動器エコーを用いた診療が広く普及することを願う。
(文=吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト)

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吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト
1969年12月25日福島県生まれ。1992年東北薬科大学卒業。薬物乱用防止の啓蒙活動、心の問題などにも取り組み、コラム執筆のほか、講演、セミナーなども行っている。

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