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藤和彦「日本と世界の先を読む」

新型コロナ、死亡率低下で“治せる病気”に…既存のステロイド薬投与で治療の効果

文=藤和彦/経済産業研究所上席研究員
新型コロナ、死亡率低下で“治せる病気”に…既存のステロイド薬投与で治療の効果の画像1
トランプ大統領のツイッターより

「トランプ米大統領が新型コロナウイルスに感染した」というニュースが世界を激震させた。各種報道によれば、10月2日深夜に陽性が判明したトランプ氏は、午後になると高熱を出し、酸素吸入を受ける容態になったため、首都ワシントン近郊にある軍の医療センターに入院した。入院後に再び血中酸素濃度が低下したため、抗ウイルス薬「レムデシビル」や重症患者に有効とされるステロイド薬「デキサメタゾン」が投与された。

 医師団の治療により体調を回復させたトランプ氏は4日午後、車に乗って病院の外に姿を現し、集まっている支持者に対し手を振るなど健在ぶりをアピールした。トランプ氏が完治したかどうかは現時点ではわかっていないが、改めて新型コロナの怖さを再認識させる出来事だった。

 新型コロナは変異のスピードが速いことから、現時点で病原性がどのように変化しているかどうかはわかっていない。米国と中国の合同研究チームは9月2日、「新型コロナは、数千万人が死亡したスペイン風邪よりも致死率が2倍以上高い」とする調査結果を公表している。日本では感染者数が下げ止まりの傾向を強め、感染症が蔓延しやすいとされる冬が近づいていることに警戒感が高まっているが、現場の医師たちはどう思っているのだろうか。

 国立国際医療研究センターの大曲貴夫センター長は9月30日、「国内の2020年6月以降の『第2波』の入院症例は、2020年5月までの『第1波』の症例に比べて、あらゆる年齢層において死亡率が低下している」ことを明らかにした。死亡率が低下した理由については、発症から診断までの時間が短縮したことを挙げている。軽症のうちに見つかれば、医療的な介入が早期に実施でき、その結果、重症化率や死亡率が下がる可能性が高まるというわけである。

 春の「第1波」と夏の「第2波」を経て、臨床上明らかになったことも多い。国立国際医療研究センターは9月24日、新型コロナ感染者が重症化するかどうかを予測する血液中の物質「血中マーカー」を見つけたと発表した。28人の感染者を分析したところ、重症になる人は感染初期から血液中の「CCL17」というタンパク質の濃度が下がり、重症化の数日前には4種類のタンパク質の濃度が上がっていた。

既存の薬でも対処が可能

 海外でも、英研究者が新型コロナウイルス感染症による死亡リスクを4段階のスコアで診断するツールを開発した(9月10日付ロイター)。このツールは、年齢や性別、基礎疾患、呼吸や血中酸素濃度などのデータを基に、患者の死亡リスクを「低い」「中程度」「高い」「極めて高い」に分け、「中程度」以上と診断された場合はステロイド薬の使用や集中治療室への入院など積極的な治療が必要となるとしている。

 米ボストン大学医学部の研究チームは、新型コロナで入院した患者の症状の回復に、ビタミンDの充足度が大きく関連している可能性があることを示す研究結果を発表した(9月29日付Forbes)。血中のビタミンDが充足した状態が、サイトカインストームの発生やその他の合併症を低減させるという。

 症状が悪化したとしても、既存の薬をうまく使えば対処が可能になりつつある。高齢のほか糖尿病、高血圧などの持病がある人が新型コロナウイルスに感染すると、サイトカインストームと呼ばれる免疫の暴走が起きやすくなる。これが重症化をもたらし、ときに死に至るが、サイトカインストームはステロイド薬である程度コントロールすることが可能である。トランプ氏にもデキサメタゾンが処方されたように、リスクファクターが多く治療が困難とされていた人も、ステロイド薬で治療できることがわかってきたのである。

 世界6カ国(米国、カナダ、ブラジル、フランス、スペイン、中国)で実施された試験で、ステロイド薬(デキサメタゾン、ヒドロコルチゾン、メチルプレドニゾロン)の投与によって死亡リスクが20%低下したことが明らかになっている(9月2日付ロイター)。

 ステロイド薬は安価で入手しやすいことから、最近の国内の大学病院の集計では、重症患者の40%以上にステロイドが使われており、重症度にかかわらず、ステロイド薬を投与する場合もあるという。

 重症化の要因は、サイトカインストームのほかに全身の血管に血栓が生じる血栓症の発生が指摘されているが、血液検査で早期に血栓症を発見すれば、へパリンという既存治療薬で対応できることがわかってきている。

関節リウマチ治療薬「アクテムラ」に期待

 このような状況から、日本の医療現場からは「効果のメカニズムが不明でも治るということが大事である。日本の医療水準は高く、きちんと治療を施せば、新型コロナウイルス感染症は十分克服できる病になった」との声が聞こえ始めている(10月2日付日本経済新聞)。なんとも頼もしい限りである。

 新型コロナウイルスで重症化すると回復したとしても後遺症が残る可能性が高いことから、重症化に歯止めをかける薬が望まれるところである。筆者はかねてより関節リウマチなどの治療薬「アクテムラ」に期待しているが、スイス製薬会社大手ロシュは9月18日、「アクテムラの投与で新型コロナウイルス感染症患者の人工呼吸器装着や死亡に至る危険性が44%低下した」とする臨床試験の結果を発表した。日本をはじめ世界で早期に治療薬として承認されることを願うばかりである。

 感染初期と異なり、新型コロナウイルスは早期に診断を受ければ治る病気となった現在、私たちはこのことを認識して行動することが、新型コロナの感染防止と経済活動の再開を両立させるための最善の策ではないだろうか。

(文=藤和彦/経済産業研究所上席研究員)

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

1984年 通商産業省入省
1991年 ドイツ留学(JETRO研修生)
1996年 警察庁へ出向(岩手県警警務部長)
1998年 石油公団へ出向(備蓄計画課長、総務課長)
2003年 内閣官房へ出向(内閣情報調査室内閣参事官、内閣情報分析官)
2011年 公益財団法人世界平和研究所へ出向(主任研究員)
2016年 経済産業研究所上席研究員
2021年 現職
独立行政法人 経済産業研究所

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