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2年かけ母を特別養護老人ホームに入所させた体験から伝授、挫折を防ぐ5つのポイント

文=林美保子/フリーライター
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「Getty Images」より

 取材で超高級の高齢者専用マンションに訪れたことがある。至れり尽くせりの設備とサービス体制が整っていて、聞けば、入居金は2億円からだという。このようにお金さえあれば老後は安泰なのだが、残念ながら大方の庶民は、これほどまでに潤沢な老後資金を持っているはずもない。

 なかには比較的手頃な高齢者施設もあるが、要介護度が高くなれば追い出されるところもある。要介護4や5といった重度の高齢者ばかりを受け入れているお手頃価格の有料老人ホームを取材したことがあるが、自分の親は入所させられないような施設だった。

 やはり、多くの人たちにとって頼みの綱は特別養護老人ホームになるだろう。とはいうものの、特養は入所待機者が多く、地域によって差はあるものの、一般的には2年待ちは当たり前といわれている。そこで、筆者が母を特養に入所させたときの体験談を紹介しようと思う。

申し込み時には、介護状況の大変さをアピールする

 母の介護が泥沼状態にあったとき、主治医の勧めもあって、私は特別養護老人ホームの入所申込書を書いた。「在宅で介護できない理由」欄は少しのスペースしかなく、思いきり字を小さく書いて字数を稼ぎ、自分の思いを伝える工夫をした。あとで知ったことではあるが、このような場合には、別紙に書いてもかまわないそうだ。

 施設見学にも行った。事務的な対応だった他施設と違い、A施設の担当者は親切で、「緊急性や介護者の状況などが点数化される」と教えてくれた。

「あなたのように、介護者が変形性膝関節症を患っているとポイントになります。重い物を持つのが大変になりますから。それと、仕事を持っている場合もポイントになります」

 待機中にはひと月の半分近く、母をショートステイに預けるようにした。親類の男性が月半分、母親をショートステイに預けながら仕事と介護の両立を図っているという話を聞いたのがきっかけだった。私もそんなに長く預けることができるのだろうかと思いながらもケアマネに聞いてみたところ、「できますよ」とあっさり言われた。どうも、こちらから行動を起こさないと何も変わらないということは結構あるようだ。

 入所申込をしてから半年後、A施設から母が入所候補者になったとの連絡が入り、驚いた。当時はまだ、介護1から入所が可能ではあったが(2015年から要介護3以上に変更)、B施設に見学に行ったときには、「要介護3以上ではないと、なかなか」と言われたので、要介護2の母ではそう簡単には順番は回って来ないだろうと思っていたからだ。きっと、見学のときに対応した相談員が私の必死さを受け止めてくれたのに違いないと思った。

 ケアマネージャーによる訪問があったのだが、「ほかにもっと緊急性を要する人がいるから」と言われ、母は入所候補者からはずれてしまった。

 母をショートステイに預けるようになった直後のことで、ずいぶん楽になったという安堵感から、「いま入所させなくても……」という迷いがあったことが相手に伝わってしまったのだと思う。地方都市に住む友人も、介護が大変さを必死に訴えたら、すぐに入所できたという話だった。職員それぞれの受け止め方もあると思うが、受け身的な介護者よりも必死に訴える介護者のほうが伝わるのだと思う。その後、母は申し込みから2年経った頃、C施設に入所した。

親と世帯分離をしたら、特養利用料が5.8万円も安く

 世帯分離とは、同居していながら住民票の世帯を分けることである。医療や介護サービスなどは世帯分離が必ずしもトクにならないこともあるようだが、低所得者には利用者負担を軽減する制度がある特養では明らかに違う。

 母の場合、世帯分離をしなければ、C施設の利用料は1カ月14万8000円だ(要介護3・個室)。これに、医療費など個別の諸経費を合わせると実際には1万円くらい多くなる。母の年金は1カ月8万円なので、7万8000円も不足する。

 ところが、世帯分離したために、母は第3段階(非課税で、本人の収入額が80万円超)に該当、諸経費を合わせても1カ月10万円で済み、その差は5万8000円と大きい。これなら、母の貯金から月2万円持ち出せばなんとかなる。

 母が特養に入居して数カ月経った頃、「介護保険制度改正によって、1000万円以上の貯蓄がある人には利用者負担の軽減ができなくなったため、通帳のコピーを提出してほしい」という連絡が入った。母には700万円しか貯金が残っていなかったためにぎりぎりセーフで、現行のままで済んだ。この改正によって、一気にやりくりに苦労する家庭も増えたことだろう。

ちょっとした知恵があれば、負担もかなり軽減できる

 その後、仕事で介護施設の取材をしてみると、母の入所先がいかに体制の整った施設であったかを思い知った。ショートステイや世帯分離などの知識も、偶然人から聞いて知ったことばかりだったので、運がよかったと思う。そのちょっとした知恵やコツがあるかないかでかなり違うと思うので、私の体験から得た情報を以下にまとめてみた。

1.各施設で順番が回ってくる時期が異なるため、数カ所に申し込むとよい。私の場合は、母がショートステイに利用していた施設を中心に4カ所に申し込んだ。

2.在宅で介護できない理由は、具体的に詳しく書く。介護者の負担がいかに大きいか、持病を持っているか、仕事を持っているかなども優先条件に考慮される。

3.待機に時間を要して介護疲れを感じた場合には、ショートステイを最大限に利用すれば負担を軽くすることができる。

4.待機中に介護度が上がったとき、私は少しでも優先順位が上がるように、申し込んでいる施設に連絡を入れた。定期的に状況を聞いてくる施設もあれば、連絡のない施設もあるからだ。

5.親が低収入の場合には、世帯分離をすると利用料の負担が少ない。ただし、制度改正により、1000万円以上の貯蓄がある場合には、利用者負担の軽減ができなくなった。

 介護は経験してみないとわからないことばかりで、手探りの毎日だ。いま振り返ると、人から聞いたことが一番参考になったと感じている。

(文=林美保子/フリーライター)

林美保子/ノンフィクションライター

林美保子/ノンフィクションライター

1955年北海道出身、青山学院大学法学部卒。会社員、編集プロダクション勤務等を経て、執筆活動を開始。主に高齢者・貧困・DVなど社会問題をテーマに取り組む。著書に『ルポ 難民化する老人たち』(イースト・プレス)、『ルポ 不機嫌な老人たち』(同)、『DV後遺症に苦しむ母と子どもたち』(さくら舎)。

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