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「加谷珪一の知っとくエコノミー論」

今回のビットコイン高騰が、前回のバブルと様相が異なる理由…有力な投資対象として認知

文=加谷珪一/経済評論家
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「Getty images」より

 ビットコイン価格の上昇が止まらない。一部からはバブル再来との声も聞こえるが、今回の上昇は前回とはだいぶ様子が違っている。機関投資家の一部が、インフレのヘッジ手段としてビットコインを位置付けていること加え、事業会社の中にも保有を検討するところが出てきている。仮想通貨(暗号試算)が有力な投資対象のひとつとして認知され始めたと見てよいだろう。

ビットコインに対する基本的な認識が変化

 このところ高騰が続いていたビットコイン価格にさらに弾みがついている。12月21日の週には1ビットコイン=240万円を突破し、前回(2017年の年末)のピークだった200万円を完全に上回った。テクニカル分析的には、次の相場がスタートしたと解釈してよいだろう。

 ではファンダメンタルズ的に見た場合、今回の価格高騰についてどう考えればよいのだろうか。

 今回、ビットコインが大幅に値を上げていることには、主に2つの理由がある。1つはビットコインに対する基本的な認識の変化である。

 ビットコインは当初から通貨としての要件を満たしており、市場で通用する能力を持つ存在だったが、電子的に扱われるという点で、多くの人には未知の存在と映った。香港ドルのように今でも民間銀行が発行する通貨は存在するし、IMF(国際通貨基金)のSDR(特別引出権)のように、バーチャルな通貨も存在しているので、仮想通貨の概念自体は特段、目新しいものではないが、当初はビットコインを怪しげなものと認識する人が多かった。

 加えてビットコインのような民間ベースの通貨が普及すると、中央銀行や市中銀行など、法定通貨を独占的に扱ってきた組織が持っていた権益の一部を失ってしまう。当然のことながら損得勘定が働くので、金融関係者の多くがビットコインに否定的となり、当局もかなり厳しい規制を加えてきた。

 だが通貨としての要件を満たしているのであれば、存在の是非は最終的には市場メカニズムによって決定される。

 日銀が2019年に行った調査では、7.8%の人が「入手したことがある」と回答するなど、仮想通貨の社会への普及は着実に進んできた。こうした状況を受けて、IMF(国際通貨基金)は2020年10月、「ビットコインやリブラなど民間通貨によるデジタル通貨圏が出現する可能性があり、場合によってはドル基軸体制が崩れる可能性がある」とする報告書を取りまとめた。これはIMF理事会の正式見解ではないが、国際機関がビットコインなどの仮想通貨を事実上、認めたことで市場の雰囲気は大きく変わった。

機関投資家が投資対象のひとつに仮想通貨を加えた理由

 前回の相場で中心的な役割を果たしていたのは、先端的な分野に興味を持つ個人投資家だったが、今回の価格上昇は前回とはまったく様子が異なる。今回の価格上昇を主導しているのは、米国を中心とした主要国の機関投資家であり、これはプロの投資家がビットコインを投資対象のひとつとして認識し始めたことを意味している。ビットコインをベースにした投資信託も組成されており、金融市場における法定通貨と仮想通貨の境界線は消滅しつつある。

 では、機関投資家はビットコインをどのような理由で購入しているのだろうか。もちろん価格が高騰しているわけだから、「上がるから買う」という側面は否定できないだろう。だが、機関投資家の場合、「上がるから買う」という理由だけでは、投資家に対する説明義務を果たすことはできない。

 このところ機関投資家がビットコインを買っている理由は、コロナ危機と密接に関係していると考えられる。各国は新型コロナウイルス対策に巨額の財政支出を行っており、各国財政は悪化が進んでいる。マクロ経済の常識として、財政の悪化が進めば金利が上がり、物価上昇を招きやすくなる。

 つまり機関投資家の一部は、コロナをきっかけとした大型の財政出動とそれに伴うインフレによって、米ドルの価値が毀損リスクを懸念し始めている。もちろんドルは世界の基軸通貨であり、今後もその立場を維持し続けるのは明白だが、インフレによる価値の毀損が進むのであれば、当然、資産の一部を代替商品にシフトする必要に迫られる。

 一昔前であれば、原油はこうしたオルタナティブ投資の受け皿だったが、各国が一気に脱炭素政策に舵を切っているので、原油価格の継続的な上昇は見込みづらい。そうなると、退避資金の受け皿は金くらいしかなくなってしまう。このところ金価格が上昇しているのも、インフレ懸念が主な理由だが、投資家の一部は金に加えて、より積極的な退避先としてビットコインを選択している。

ペイパルがビットコイン・サービスを正式にスタート

 もうひとつの理由は事業会社の取り組みである。ビットコインの普及が進めば、投資ファンドだけではなく事業会社も当然、その取扱いに関心を寄せることになる。米決済大手のペイパルは2020年11月、米国における仮想通貨の取扱いを正式にスタートした。

 ペイパルが提供する仮想通貨サービスは、一般的なウォレットや取引所とは異なり、仮想通貨の購入と売却しかできない。購入した仮想通貨を外部に送金できない仕様にしたのは、米国をはじめとする各国の金融当局の意向を受け入れた結果だろう。逆に言えば、この形式であれば各国の通貨当局と交渉できるということを意味しており、同社は、いずれ米国以外の利用者にもサービスを展開する予定だという。

 送金できないクローズドなシステムなので自由度は少ないが、全世界で3億人以上の利用者を抱える巨大な決済サービス・プラットフォームがビットコインの取扱いを始めた影響は大きい。ペイパルの参入によって仮想通貨の市場拡大に弾みが付くのは間違いない。

 電気自動車(EV)メーカーのテスラもビットコインに関連して興味深い動きを見せている。同社のイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は、自社資産の一部をビットコインで保有することについて、著名な仮想通貨推進者とツイッター上で議論した。

 マスク氏はあくまで仮定の話として議論をしただけだが、機関投資家が投資対象として認知した資産について、事業会社がポートフォリオの一部に組み入れることを検討するのは何ら不思議なことではない。今後は関連事業への参入や、財務上の選択肢のひとつとしてビットコイン保有を検討する企業が増えてくるだろう。

金の一部を代替するのなら、価格はまだ上昇する?

 では、ビットコイン価格は今後、どこまで上昇するのだろうか。もちろん相場に関する事なので、「何円になる」と予言することは不可能だが、参考になるデータはある。

 ビットコインの設計は金本位制に近く、発行総量の上限が設けられている。実際、投資家の多くが、ビットコインについて、法定通貨の価値毀損をヘッジする手段として捉えているので、金に近い役割が期待されていると見てよいだろう。そうであれば、金の時価総額はひとつの判断材料になる。

 これまで全世界で採掘された金の総量は19万トンといわれている。工業用途に使われる金もあることや、宝飾品として販売され、行方がわからなくなっている金もあるので、実際に価値保全の機能を持った金の量はもっと少ないと考えられる。だが、仮に19万トンを基準にした場合、金全体の時価総額は約1000兆円となる。

 現在、ビットコインの時価総額は45兆円に達しているので、すでに金の時価総額の4.5%に達している計算だ。ビットコインが金を代替するとは到底考えにくいが、金の時価総額の1割を担うとしても、また上昇余地があるとの計算が成り立つ。

 相場は期待感などさまざまな要因で形成されるので、価格を予想することにほとんど意味はないが、理論上はこうした考え方が成立する。仮想通貨が新しいフェーズに入ったことだけは間違いなく、金融市場の多様化に大きく貢献することになるだろう。

(文=加谷珪一/経済評論家)

加谷珪一/経済評論家

加谷珪一/経済評論家

1969年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。著書に著書に『貧乏国ニッポン』(幻冬舎新書)、『億万長者への道は経済学に書いてある』(クロスメディア・パブリッシング)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)、『ポスト新産業革命』(CCCメディアハウス)、『教養として身につけたい戦争と経済の本質』(総合法令出版)、『中国経済の属国ニッポン、マスコミが言わない隣国の支配戦略』(幻冬舎新書)などがある。
加谷珪一公式サイト

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