「やりがい」より「高収入」を選ぶのが正解…早期リタイアを実現する「貯蓄増大」戦略
アメリカの炎柱「FIREムーブメント」とは?
私は基本オタクなので、昨年はしっかり『鬼滅の刃』にハマっていました。一昨年録画して見逃していたのがウソのように、テレビ放映の26話分を一気にサブスクで追いかけ、映画は初日に出かけ、こらえきれずに続きはコミックを全部買いそろえてしまいました。
日本では煉獄さん(鬼殺隊の炎柱)が大活躍する『鬼滅の刃 無限列車編』が国内最大のヒットを記録し、煉獄の炎が燃えさかっているわけですが、アメリカにも「炎」ブームがあります。それはFIREムーブメントと呼ばれるものです。といっても『鬼滅の刃』がブームというわけではありません。
FIREとは「Financial Independence, Retire Early」の略です。つまり経済的な独立を果たし、早期リタイアをしてしまおうという取り組みのことです。俗に「社畜」という言葉がありますが、経済的に余裕を持ち、仕事をしなくても生きていけるのならイヤな仕事に縛られる必要はありません。そう考えるのはアメリカでも同じようで、FIREにチャレンジする人が増えているのだとか。
せっかくなので「炎柱」が燃えさかる日本でも、このムーブメントを参考に、お金を貯め、増やす方法を考えてみましょう。あなたも、早くリタイアして人生をエンジョイできるかもしれません。
稼げる仕事を選ぼう 働きがいを搾取されるな
FIREムーブメントの基本的なステップの最初にあるのは、投資や運用で稼ぐことではありません。「仕事でもっと多く稼ぐこと」です。意外に思う人もいるかもしれませんが、特に若い人ほどこの部分にどん欲になっていいと思います。
しばしば「やりがいの感じられる仕事」「誰かを幸せにできる仕事」を目指そうといわれますが、正直いってそれは当たり前のことです。厳しい言い方になりますが、「やりがい」と「稼ぎのよさ」で悩むときは、恥じることなく年収が高いほうを選んでいいのです。
むしろ、まじめな人ほど「やりがい搾取」の被害に遭う恐れがあります。つまり「会社のためにがんばらなくては」と思うあまり、ブラック企業でもがんばってしまい、結果としてメンタルを壊してしまったり、低賃金で働いてしまうケースです。
会社と社員は基本的には対等ですから、あなたのアウトプットはあなたの収入と適切に交換されているかを考えましょう。社内の昇格昇給は、人事のルールを解読してチャンスを逃さないようにしましょう。社内のルールを知らずに働くなんて、ゲームのマニュアルを読まずに高得点を狙うようなものです。昇格するための最短距離は何か考えてみましょう。
そして転職活動にチャレンジして、自分がどれくらいもらえる可能性があるのか調べてみましょう。転職活動をしてみると、しばしば「ウチの会社はオレのことを100万円も安く評価していたのか!」なんてことに気づかされたりします。同じような仕事を、同じような労働時間でして、より高い年収になるなら、もう転職するべきです。
ただし、今は厳しい状況ですから、先に会社を辞めるのではなく、働きつつ転職活動して、良縁があったら辞表を出せばいいのです。
徹底的な節約により貯蓄の最大化を目指せ
FIREムーブメントの次に重要なプロセスは、生活コストの徹底的な削減と、それによる貯蓄額の増大です。貯蓄額を増やさなければ、どんなに稼いでも早期リタイアができるお金を貯めることにはつながりません。この指摘はとても重要で、仕事で稼ぐだけではない、というところにFIREの面白さがあります。
ただ、どこまで生活コストの削減を徹底するかは人それぞれです。一時期ミニマリストというのが流行りましたが、日常生活の維持は必要最低限度でいいじゃないか、と考える人もいます。
自宅にテレビを買わない(タブレットでサブスクが見られればいい)、服をたくさん買わない(日常のローテーションできる最低限度だけ用意する)、サブスクを上手に活用する(モノはあまり買わない)、などをできる範囲で追求していくことで生活コストを下げていきます。
ただ、本気でFIREを目指したい場合、年収の半分くらいを貯めるような覚悟を求める本があったりします(それ以上、という場合もある)。これは実行するにはなかなか大変です。現実的には年収の20%を超えて貯めようとするとかなりの気合いが必要になります。ただ、「未来の安心や早期リタイア」という夢を本気で目指してみたいと思うなら、節約を必死にやってみてください。お金は一気に増え始めるでしょう。
貯蓄原資は投資に回して、長期積立分散投資をせよ
FIRE本でいくつか意見が分かれるようなのは、資産を増やす方法です。銀行預金だけじゃダメだ、というスタンスは一致するようなのですが、そこでアクティブな運用方針を採用するか、ベーシックな運用方針(インデックス運用)を採用するかは意見が分かれます。
リスクを高く取ってお金を積極的に増やしたほうが、早期リタイアの時期を前倒しするチャンスが生まれます。一方で大きなリスクをコントロールする必要があり、また大失敗の可能性もあります。ビットコインやFXなどを組み入れる場合、こちらになります。「億り人になるか、全額溶かすか」という挑戦をするわけです。
一方で、経済の平均的な成長を運用利回りとして獲得するアプローチを採用すると、運用のメンテナンス負担は下がりますが、利回りも下がります。といっても、ほとんど運用にかける手間を抑え、かつ紙くずになるリスクもないようにしても、年3~4%くらいの利回りは確保できますので、預貯金と比べれば高い収益です。
こちらはインデックス運用を行う投資信託を買うアプローチです。インデックス運用のいいところは運用コストが低いことで、運用成績が良くても悪くても必ず生じる運用コストを低く抑えることは、しばしば運用成績を大きく左右する要素になります。
私は、インデックス運用を行うほうをすすめます。NISAやiDeCoのように税制優遇のある口座もぜひ活用してみてください(アメリカのFIRE本の翻訳が残念なところは、日本の制度の紹介が十分でないところです。そこは類書を併読して補ってください)。
FIREのゴールはなかなかハードだが、5~10年の早期リタイアには現実味も
さて、年収を早期に600万円以上に高め(できれば1000万円超を目指して)、その半額以上を貯め続けると、確かに2000万~3000万円の達成は難しくありません。年100万円のペースで貯め、年利4%で20年増やし続けると3060万円になります。
本気でFIREを実践し、年収600万円稼いでその半分、つまり年300万円を貯め、年利4%で20年増やし続けると9170万円くらいになります。40歳代で「億」に手が届くということですが、なかなかハードルは高そうです。
「億」は夢の一つですが、まだ早期リタイアには足りません。標準的なリタイア年齢より早く、例えば40歳でリタイアしたいとすればもっとお金は必要になります。仮に年間400万円でやりくりすると決めても「(老後に2000万円)+(40歳~65歳までに年400万円×25年分)=1億2000万円」にもなります。実際には500万円で毎年暮らしたいとすれば1億4500万円と上方修正が必要になります。
FIRE本はしばしば40歳代での早期リタイアを提案しますが、これはハードルとしてはかなり高いものがあると考えたほうがいいでしょう。一方で、リタイア年齢をそこまで早期化させなければ目標はずいぶん楽になってきます。
例えば、65歳が標準的な年金受給開始年齢ですから、その5~10年早いリタイアを目指した場合、
60歳リタイア:「(老後に2000万円)+(年400万円×5年分)=4000万円」
55歳リタイア:「(老後に2000万円)+(年400万円×10年分)=6000万円」
という感じですから、本気でFIREに取り組んだ人なら実現は不可能ではないでしょう。どうでしょうか。
あなたの「炎柱」を燃やし、経済的安定を手に入れよ
世の中自体は、70歳まで働ける社会に変化していきます。しかし、「定年まで働く」を当たり前にする必要はありません。むしろ「自分で定年を決める」のが日本版FIREの大事なところです(アメリカでは基本的に定年がないので、経済的安定がないと延々と働き続けることになる)。
また、結果として早期退職が実現できなかったとしても、FIREに取り組んだ人は他の人より老後資産形成の金額は上回ります。標準的リタイア年齢となったとしても、老後はかなり豊かなものとなるはずです。それだけでもFIREにチャレンジする価値があると思います。
実はFIREムーブメントは「老後に2000万円」問題と近いところもあります。どちらも「経済的安定を現役時代にいかに確保するか」を問うているからです。
日本版FIRE、つまりあなたの「炎柱」を立ててみてはいかがでしょうか。それはあなたの経済的な自立と自由を得ることにつながっていくはずです。
(文=山崎俊輔/フィナンシャル・ウィズダム代表)