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中国、日本・台湾への軍事的挑発が活発化…米バイデン政権、超・対中強硬政策の中身

取材・文=相馬勝/ジャーナリスト
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ホワイトハウスのサイトより

 バイデン米政権が発足して27日で1週間が経った。この間、ジャネット・イエレン財務長官やアントニー・ブリンケン国務長官、ロイド・オースティン米国防長官といった重要閣僚が議会で承認され、いよいよバイデン政権が本格始動する態勢が整いつつある。

 このようななか、中国の習近平国家主席は25日、世界経済フォーラムの会議(オンライン形式)で講演し、バイデン政権を意識して「新冷戦や制裁は世界を分裂に向かわせ対立させる」と述べて、バイデン政権がトランプ前政権同様、対中敵視政策をとれば、これまで以上に米中対立が激化し、世界は冷戦状態に逆戻りすることを懸念するという発言を行った。

 これに対して、バイデン氏は直接的な反応を示していないが、サキ米大統領報道官は同日の記者会見で「米国の中国への対応は3、4カ月前と変わっていない」と述べたうえで、「わたしたちは中国と激しい競争をしている。中国との戦略的競争は21世紀を決定づける特徴だ」と指摘して、米中関係が極度に悪化したトランプ前政権からの政策転換を望む習氏の要請にただちには応じず、一定の強硬路線を維持する考えを表明。同盟国と連携した対中政策を進める姿勢を強調した。

 これは、バイデン氏が大統領当選を確実にした昨年12月初旬、米ニューヨーク・タイムズとの1時間も及ぶ電話インタビューで、「私は(大統領就任後)すぐに、(トランプ大統領の)対中政策を変えるつもりはない」と述べたうえで、「中国との取引の鍵は影響力を築くことだが、我々はまだその能力を持っていない」と発言した延長線上にあり、バイデン政権が対中強硬路線を当面維持することを示したものといえる。

 バイデン政権はまだ発足したばかりで、喫緊の課題は世界で最も感染者数が多い新型コロナ対策であり、失業者対策などの内政の立て直しだ。まだまだ対中政策に手を付ける余裕はないというのが実情だろう。

 バイデン政権が対中政策などの外交政策に取り組むのは、新型コロナウイルスの感染収束が軌道に乗ってからで、それは早くとも今年の夏から秋にかけてであり、ワクチンが全国民に行き渡り、早ければ感染が下火になる来年以降でなければ、バイデン政権が対中政策に本格的に取り組む条件は整わないと推測できる。米中両国は対立状態のまま1年間が過ぎることも考えられる。

重要閣僚の対中姿勢

 それを暗示するように、バイデン大統領が指名したイエレン財務長官やブリンケン国務長官、キャサリン・タイ米通商代表部(USTR)代表、オースティン国防長官はいずれも国内重視であり、中国について厳しい見方をしていると伝えられる。

 女性で初めて米財務長官の指名を受けたイエレン氏は19日、上院財政委員会の指名承認公聴会で、バイデン氏が新型コロナ禍に対応するため先に発表した1兆9000億ドル(約197兆円)規模の経済対策案について、早期成立を議会に訴えるのに当たって低金利環境持続の見通しを強調。中小企業や失業者向け援助、州・地方自治体への支援金など一連の歳出案について、新型コロナ禍との闘いに必要だと指摘する一方、それに伴う連邦債務残高の増加を憂慮するにはあたらないとの姿勢を表明している。これは一言でいえば、国内重視だ。

 バイデン氏が25日、政府調達で米国製品を優先する「バイ・アメリカン法」の運用を強化する大統領令に署名したことがそれを裏付けている。政府機関に米国製品の調達拡大を促し、国内製造業を支援するためだ。これはトランプ政権の政策を踏襲することを意味している。

 一方、外交政策を担当するブリンケン国務長官も指名承認に関する上院外交委員会での公聴会で、中国について「米国に最大の挑戦を突き付けている」と指摘。「中国との競争を制することができる」と述べ、強硬姿勢で臨む方針を鮮明にした。

 通商問題を担当するUSTR代表に指名されているタイ氏はまだ議会で承認されていないが、両親が台湾人で、アメリカで生まれ、イェール大とハーバード法科大学院で学び、首都ワシントンの法律事務所や議会、政府でキャリアを重ねてきた超エリートといわれる。2007年から14年までUSTRの中国担当法律顧問を務め、中国の知財権侵害のほか、農産品への輸出補助金や輸出規制を世界貿易機関(WTO)協定違反として提訴したこともあり、やはり当然ながら米国重視であり、その意味では典型的な対中強硬派だ。

 国防政策担当のオースティン元中央軍司令官(退役陸軍大将)も22日、国防長官として議会で承認された。黒人の国防長官は米史上初めて。オースティン氏は同日、国防総省の全職員に向けた声明で「国防長官として、理にかなった政策と戦略を策定し、同盟・パートナー諸国との協力を重要視していく」と訴えた。

 同氏はこれに先立つ19日の指名承認公聴会に際して提出した書面証言で、中国とロシアが米国の「戦略的競争相手」であるとする18年の米国家防衛戦略の認識を確認した上で、「軍近代化の範囲や規模からみて、最重要懸案は中国だ」と明言しており、やはり対中強硬派、あるいは対中警戒派といってもよいだろう。

中国、「衝突」「対抗」重視

 特筆すべきは、オースティン氏が22日の就任直後に岸信夫防衛相と電話で会談したことだ。これは「バイデン政権の東アジア地域や日米同盟を重視する姿勢の表れ」との岸防衛相の指摘を額面通り受け取ることができる。また、オースティン氏は会談で、米国の対日防衛義務を定めた日米安全保障条約第5条が尖閣諸島に適用されることも改めて確認しており、「対中警戒、日本重視」の姿勢を示したことで、中国はトランプ政権同様、軍事的に米国との対立を深めることになろう。

 習近平国家主席は冒頭部分で触れた講演で、「中国は対話で意見の食い違いを埋める努力をする」「協議や連携を堅持し、衝突や対抗は求めない」などと述べて、米国との対話の重要性を強調したが、バイデン政権は習氏の発言についてまったく意に介していない。あるいは信用していないようだ。これは前述したように、バイデン政権は発足したばかりであり、当面の喫緊の課題は内政問題だからだが、それ以上に、習氏ら中国指導部は口先では「対話」「協調」を繰り返すが、実際の中国の行動は対話や協調とはほど遠い「衝突」と「対抗」でしかないからではないか。

「平和を求めている」と言いながらも、南シナ海の島嶼に軍事基地を建設して、米軍やアジア諸国の艦船の航行を監視、妨害する。台湾には二言目には「軍事的手段を放棄しない」などと恫喝し、実際に中国人民解放軍の戦闘機や爆撃機が台湾の防衛識別圏に侵入する。沖縄県尖閣諸島周辺海域にはほぼ毎日出没し、領海にも侵入するなど、言行不一致も甚だしい。

 習氏は「新冷戦は世界を分裂させる」と指摘するが、その張本人は中国自身であり、習氏こそ自身の発言を肝に銘じるべきであろう。

(取材・文=相馬勝/ジャーナリスト)

相馬勝/ジャーナリスト

相馬勝/ジャーナリスト

1956年、青森県生まれ。東京外国語大学中国学科卒業。産経新聞外信部記者、次長、香港支局長、米ジョージワシントン大学東アジア研究所でフルブライト研究員、米ハーバード大学でニーマン特別ジャーナリズム研究員を経て、2010年6月末で産経新聞社を退社し現在ジャーナリスト。著書は「中国共産党に消された人々」(小学館刊=小学館ノンフィクション大賞優秀賞受賞作品)、「中国軍300万人次の戦争」(講談社)、「ハーバード大学で日本はこう教えられている」(新潮社刊)、「習近平の『反日計画』―中国『機密文書』に記された危険な野望」(小学館刊)など多数。

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