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中根氏、岡崎市長選で「市民に5万円配布」公約→当選後あっさり断念…問題ではないか?

文・構成=菅谷仁/編集部
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岡崎市公式サイトより

 新型コロナウイルス感染症の拡大と政府・自治体の緊急事態宣言の発令で、多かれ少なかれ多くの国民が経済的なダメージを受けている。そんな有権者の弱り目を見通しているのか、各地方選挙でさまざまな候補者が自治体独自の「現金給付」を公約に掲げ始めている。問題は、そうした公約が自治体の財政状態を精査した上で練られていないことが多く、計画段階でとん挫する事例も散見され始めていることだ。地方選挙における「現金給付公約」の問題点とはなんなのか。一連の経緯を調べた。

 コロナ禍で最初に同問題が顕在化されたのは2020年5月に投開票が行われた小田原市長選だ。当サイトは同年6月29日、記事『小田原市長選、公約で「ひとり10万円」→当選後「国の給付金のこと」と判明…批判の声も』を公開し、給付金公約の問題を取り上げていた。

 一方で、東京都千代田区の石川雅己区長は、新型コロナウイルス対策として区民一律12万円の給付金事業の実施を決定し、全国の注目を集めたことは記憶に新しい。

岡崎市長選では「“5万円公約”で流れが変わった」

 次にクローズアップされたのが10月18日に投開票された愛知県岡崎市長選挙だった。同選挙では無所属新人で元衆議院議員の中根康浩氏が、3選を目指していた現職の内田康宏氏を破り、初当選した。同市市議は当時の選挙戦を次のように振り返る。

「当選した中根市長は選挙公報が配布される段階で突然、『コンベンションホールの80億円をやめて、全市民に1人5万円をお戻しします』という公約を掲げてきました。あれは大きな効果があったと思います。

 しかもその表現が巧みでした。まず『給付金を配る』とは書いていない。だから、どのような形で市民に還元されるのかは言い切っていないのです。おそらくご当人としても実現が厳しいことはわかっていたのではないかと思います。

 そして『コンベンションホールの80億円』という表現です。コンベンションホールを含めた事業は複数の基金をまたいだ整備・防災事業です。まるで無駄な箱ものを建設するのに80億円かかっているかのように読めてしまいます。当選後、中根市長は自身の公約を実現するために、各基金の大規模な取り崩しを実行しようとしましたが、自治体としての財政が崩壊させるようなことはできないので、議会として反対せざるを得ませんでした」

 そして今月16日、岡崎市が発表した令和3年度当初予算案に「5万円還元」の費用は盛り込まれないという事態に至った。CBCテレビ(中部日本放送)が複数のニュースサイトに公開した記事『市長公約の5万円給付計上しない新年度予算案 愛知・岡崎市』は次のように公約の顛末を伝える。以下、引用する。

「中根市長は5万円給付の費用を計上できなかったことを謝罪したうえで、市長就任時にはすでに予算の編成方針が決まっていて『中根カラーが出せなかった』と釈明。3月の補正予算で独自の経済対策を打ち出したいと話しました」

 同様に愛知県豊橋市市長選、兵庫県丹波市長選などでも当選候補者が公約に現金給付を掲げ、いざ、実現の段に至って市議会と対立することになり、暗雲が立ち込めているようだ。

地方自治体での現金給付は「一過性の政策」にすぎない

 前出の東京都千代田区のように給付を行っている自治体も存在している。そのため、インターネット上では「ずるい」「東京の一人勝ちだ」などとの声も聞かれる。

 一連の状況に関し、太田区議会議員のおぎの稔氏は次のように語る。

「選挙のために一発逆転を狙い『お金を配る』という公約を掲げるのは、確かに注目を集めやすいとは思います。しかし、現実問題として給付金を自治体が配ること自体、財源的にすごく難しいと思います。

 岡崎市は人口38万人の中核市です。給付対象の住民が中核市の規模いるのです。195億円かかるといわれていましたが、中核市でも約200億円規模の全住民への給付金の財源確保を、街のために必要な様々な基金を6つも7つも取り崩さないとねん出できないことに、驚いた方も多いのではないでしょうか? 

 自治体の中には、コロナ禍での施策として、すでに財政調整基金を使い切り、岡崎市長がやろうとしたような、今までに積み立ててきた基金を取り崩そうというところも出てきていますが、こういった基金の取り崩しを行えば、当然ながら今まで計画されていた事業の中止や延期、災害時などの備えがおろそかになります。

 千代田区はかなり特異な例です。住民は約6万人なのに、昼間人口は約85万人と15倍近い。居住人口が少なく、税収の多い地域ならではですね。

 給付金は一過性です。つまり、おおむね1回配るだけで終わってしまう政策です。地震や台風など災害の際の備え、学校や公園などの公共施設の備えのためのお金まで取り崩してしまって本当によいのか。選挙の時にそれを有権者がどう見るのかということだと思います」

 コロナ禍の混沌とした状況は地方選挙にも及んでいる。今こそ、有権者の“見る目”が問われている。

(文・構成=菅谷仁/編集部)

菅谷仁/Business Journal編集部

菅谷仁/Business Journal編集部

 神奈川新聞記者、創出版月刊『創』編集部員、河北新報福島総局・本社報道部東日本大震災取材班記者を経て2019年から現職。

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