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鬼塚眞子「目を背けてはいけないお金のはなし」

かもめの玉子「さいとう製菓」、震災で本社壊滅、完全復活を遂げた10年の苦闘

文=鬼塚眞子/一般社団法人日本保険ジャーナリスト協会代表、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表
かもめの玉子「さいとう製菓」、震災で本社壊滅、完全復活を遂げた10年の苦闘の画像1
かもめテラス店内

 さいとう製菓(本社:岩手県大船渡市)は東日本大震災で巨額の損害を抱えましたが、地域の復興一番を目指し、約40日後には営業再開を果たしました。とはいえ、物流がすべてストップしてしまったために、売り上げは前年比の3分の1からのスタートとなりました。

 そんな同社に、またしても試練が訪れました。陸海空の物流が止まっている以上、資材も人も確保できません。修理の目途も絶たない店舗の社員に、一時解雇や休職を申し入れることになったのです。

「苦渋の選択どころではありません。社員の復帰なくして当社の復興はありません。ただでさえ、余震が続くたびに恐怖が蘇ってくるのです。そんな時に休業を申し渡される社員の心中を思うと、我が身を切る思いでした。あんなに辛いことは二度と経験したくありません。そのためにも、震災前よりも『絶対に飛躍する』と心の中で堅く誓いました」(齊藤会長)

 こうした場合、世間では時間経過とともに、解雇になるケースが圧倒的です。しかし、同社は他県に転居などした社員を除いて、再雇用希望者を全員呼び戻しました。これは、齊藤会長のチリ地震のどん底から這い上がった壮絶な経験を踏まえてのことでした。

 流れが変わったのが4月29日からです。急ピッチで復旧工事を進めていた東北新幹線が待望の再開を果たしたのです。大船渡にも、日本全国から大勢のボランティアの方が訪れました。

「当社にも各地から『かもめの玉子』の通販の申し出をいただき、通販売り上げは、それまでの2倍となる約1億6000万円の実績を挙げることができました。人の温かさ、真心や絆を再認識し、改めてご支援をいただいたお客様、通販の拡大にご尽力をいただいた方、ボランティアにお越しくださった皆様に、衷心から御礼を申し上げます」(同)

 そんな復興需要も、2年後に終わりが来ました。

「復興特需は、いつまでも続くはずはないと思っていました。ただ、時間が経てば、売り上げは回復すると予測していた通り、2014年から経営が軌道に乗り、ようやく次のステップを描くことができるようになりました」(同)

 その一つが「かもめテラス」です(記事冒頭の写真)。2017年に「かもめの玉子」の工場のある高台に本社機能を移すと同時に、耐震も万全な床面積1400坪の総本店「かもめテラス」のオープンを果たすことができたのです。ここではお菓子の製造工程の見学、お菓子教室、飲食など、“見て、参加して、つくって、食べて楽しむ”体験型のスペースを設けました。

 齊藤会長のことを数奇な運命だと言う人もいます。

「お菓子は人に安心を与え、幸せにするといいながら、お菓子をつくっている自分の人生は何だろう? と思った時期も確かにありました。でも、かもめテラスには震災後に生まれた子供たちも大勢お越しいただいています。子供たちの笑い声や弾む声を聞いていると、夢や希望も見いだすことのできなかった少年時代やチリ地震後の苦労も吹き飛びます。間違いなく、お菓子は私を幸せにしてくれたと心の底から思っています」(同)

次なるステージへ

 2度の震災から見事に蘇った齊藤会長は、コロナ禍で中小企業や飲食店、観光・サービス関係など多くの方が沈痛な思いで毎日を過ごしていることを、どう見ているのでしょう。

「震災からの復活は目標・目的が明確です。再建を目標に努力し、取り組めば成熟していつか花開くという信念・勇気が湧いてきます。今、挫けそうな方も大勢いらっしゃると思いますが、必ず達成することができますとお伝えしたい。一方、新型コロナウイルスは科学と医薬によって撲滅が可能です。ですから、いたずらに心配したり、不安がってはいないのです。会社は組織ですから、自分一人だけが良ければいいわけではありません。まずは自分一人で、次にチームで、最後に全社でやれることを悔いが残らないようにやる。そして自分と仲間を信じることに尽きると思います。長いトンネルの先に希望の光が輝くと信じて自分を鼓舞することが大切なのではないでしょうか」(同)

 実は齊藤会長は、経営が安定し「かもめテラス」の再建構想が動き出した2015年7月に、長男である俊満氏に社長の座を譲りました。

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さいとう製菓の齊藤俊満社長

「お取引先、社員を大切に思い、信頼を裏切らない正直な商いを心掛けていきます。また、予期せぬトラブルなども起こると思いますが、変化の大きさにかかわらず、一つひとつしっかりと丁寧に向き合い、取り組んで参ります。当社の良さを継承しながらも、発想の転換を意識して行くことが大切だと思っています」(俊満社長)

 昨年から続くコロナ禍への対応について、俊満社長はこう言います。

「まず、販売強化を喫緊の課題として、新たな道筋づくりを進めていきたいと思っています。その一つが、看板商品である『かもめの玉子』の新商品開発です。一番の特徴である立体的な卵の形を大事にしながら、お客様の声、社員のアイディアを取り入れて、いままでのイメージを全く覆すような『かもめの玉子』を展開していきたいと思っています。また、数字をカバーするために鍵を握っているのは、社内全体の体制の再構築だと捉え、大規模な人事異動を実施し、会社全体に活力を与え、新たな基盤づくりに励んでいます。今後、さいとう製菓全体として、先を見据えた取り組みを進めていきます」

 震災からようやく10年、まだ10年です。さらにコロナ禍で元気をなくしている方も被災地はじめ全国には大勢いらっしゃいます。大船渡発“希望の味”は、今日も、そしてこれからも人々に笑顔と安らぎを与えていくことでしょう。

(文=鬼塚眞子/一般社団法人日本保険ジャーナリスト協会代表、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表)

【企業データ】

本社:岩手県大船渡市赤崎町字宮野5-1

お客様窓口:0120-311-740

かもめテラス:岩手県大船渡市大船渡町字茶屋前7-31

定休日:元旦のみ

HP:https://www.saitoseika.co.jp/

資本金:5000万円

鬼塚眞子/ジャーナリスト、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表

鬼塚眞子/ジャーナリスト、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表

出版社勤務後、出産を機に専業主婦に。10年間のブランク後、保険会社のカスタマーサービス職員になるも、両足のケガを機に退職。業界紙の記者に転職。その後、保険ジャーナリスト・ファイナンシャルプランナーとして独立。両親の遠距離介護をきっかけに(社)介護相続コンシェルジュを設立。企業の従業員の生活や人生にかかるセミナーや相談業務を担当。テレビ・ラジオ・新聞・雑誌などで活躍
介護相続コンシェルジュ協会HP

Twitter:@kscegao

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