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大人っぽくなった天才女流“中学生”棋士・仲邑菫、52年ぶり快挙…最年少で二段昇段

写真・文=粟野仁雄/ジャーナリスト
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初優勝した仲邑菫二段

 この春から中学生となる囲碁の仲邑菫二段(12)が小学校卒業直前、プロ入り後初めて優勝し、少し大人っぽくなった笑顔を見せてくれた。

 優勝したのは3月23日から始まった「女流ティーンエージャー棋士トーナメント戦」。公式戦ではないが、日本棋院が年少から順に女流プロ8人を選んでのトーナメントだった。仲邑は大須賀聖良(せいら)初段(17)を下し、準決勝で本田真理子初段(16)を下して最終日24日の決勝に勝ち上がった。「白」を持った仲邑は上野梨紗初段(14)を259手目に六目半で下し、賞金である50万円を獲得した。

 勝利の後、「昨日はぐっすり眠れたので落ち着いて打てました、中盤まではよかったけど、終盤がよくなかった」「勝てるとは思っていなかったので嬉しい」などと笑みを見せた。敗れた上野は「最後は残念でしたが2局勝ててよかった。悔しいというより内容がよくなかった」などと話した。今大会で上野は仲邑の次に年少だった。

 この日の対局について記者室で映像を見守っていた蘇耀国九段は「全体的には仲邑二段がいい流れでした。終盤、コウ(劫・お互いが碁石一子を取り合う形が無限に繰り返される形。一子を取られた対局者は次の石をほかの場所に打たなくてはならないなどのルールがある)になったあたりでもつれ、上野初段に逆転のチャンスがありましたが、上野さんがもう一歩踏み込まなかったこともあって、仲邑さんがものにしましたね」と解説してくれた。

 今回は仲邑に軍配が上がったが、上野と仲邑はいい勝負をしており、永くライバルになりそうだ。

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仲邑のライバル上野梨紗初段

谷亮子との共通点

 早生まれで3月2日に12歳になったばかりの仲邑は、これに先立つ3月15日、東京で行われた「阿含・桐山杯・全日本早碁オープン戦」の予選で松原大成六段(48)に勝利して二段昇段を決めた。12歳0カ月での二段昇段は、あのレジェンド、趙治勲名誉名人(64)の最年少記録(12歳3カ月)を52年ぶりに破る快挙だった。二段昇段の条件は、プロ入り(初段)の後に女流棋戦を除外した公式棋戦で通算30勝という規定があり、仲邑はこれをクリアしたのだ。

 これもあって筆者は「二段になって、初段の時とは違うような自信を持って臨めましたか?」と気負って質問したが、仲邑は「変わらないです」とそっけなかった。会見で必死に仲邑から言葉を引き出そうとする報道陣相手に対して、以前に比べれば少しは話してくれるようになった。以前は何を質問されても「ひたすら沈黙」で記者たちも難儀していた。

 とはいえ、今も敗北すると沈黙する。昨年10月、「ドコモ杯女流棋聖戦」で仲邑は、女流名人5期など数々のタイトルを獲得してきた大御所の青木喜久代八段(52)に挑戦した。大熱戦となったが敗れ、4強に進めなかった。終局後の会見では押し黙ったまま悔しさをにじませ、ほとんど語らなかったという。

 相手が格上だからといって「負けてもしかたない」とはまったく思わない。これこそ真の勝負師である証拠だ。別の世界だが、柔道を思い出す。かつて「やわらちゃん」こと谷亮子(当時は田村姓)は15歳の時に出場した世界選手権で、世界王者のカレン・ブリッグスに決勝で敗れた。谷はこの時、周囲も止められないくらい激しく泣いた。「世界一を相手に15歳でよく頑張った」などの慰めは耳に入らない。相手が誰であろうと、ただただ負けたことが悔しいのだ。号泣と沈黙は違うが「やわらちゃん」と「菫ちゃん」に似たものを感じる。

 2年ほど前、大阪で仲邑がAIと対戦したのを取材した。「AIが強すぎ」(後藤俊午九段)で敗れたのだが、会見では記者たちが何を聞いても、悔しさのあまりか、唇を真一文字に結んで無言だった。超一流になる勝負師の子供の頃からの性(さが)である。将棋の藤井聡太(18)にも共通するものがあろう。

 今大会、仲邑は表彰式で授与された賞金50万円と書いてあるパネルを大事そうに持ち帰った。プロになってから2年、初めての賞金はやはり嬉しかったのだろう。今年の目標としていた二段昇段を早々と達成し、早くも次なる目標は初タイトルだという。一時期、壁にぶつかっていたように見えたが、最近は3月18日に名古屋市で行われた「女流立葵杯」でも本戦トーナメントに進出するなどし、今年に入っての通算戦績は公式戦で12勝2敗(3月18日現在)と好調だ。今年からプロ棋士である父親の仲邑信也九段(47)ら家族とともに、育った関西を離れて東京に居を移している。

 転居、中学入学など大きく環境が変わった「菫ちゃん」のさらなる飛躍に注目しよう。

粟野仁雄/ジャーナリスト

粟野仁雄/ジャーナリスト

1956年生まれ。兵庫県西宮市出身。大阪大学文学部西洋史学科卒業。ミノルタカメラ(現コニカミノルタ)を経て、82年から2001年まで共同通信社記者。翌年からフリーランスとなる。社会問題を中心に週刊誌、月刊誌などに執筆。
『サハリンに残されて−領土交渉の谷間に棄てられた残留日本人』『瓦礫の中の群像−阪神大震災 故郷を駆けた記者と被災者の声』『ナホトカ号重油事故−福井県三国の人々とボランティア』『あの日、東海村でなにが起こったか』『そして、遺されたもの−哀悼 尼崎脱線事故』『戦艦大和 最後の乗組員の遺言』『アスベスト禍−国家的不作為のツケ』『「この人、痴漢!」と言われたら』『検察に、殺される』など著書多数。神戸市在住。

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