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五輪組織委の暴走…開会式演出家を使い捨て、メディアを恫喝、多額税金を浪費と文春砲

写真・文=粟野仁雄/ジャーナリスト
五輪組織委の暴走…開会式演出家を使い捨て、メディアを恫喝、多額税金を浪費と文春砲の画像1
東京2020オリンピック競技大会公式ウェブサイトより

 東京オリンピックの開閉会式の演出内容やネガティブな裏事情を「文春砲」で報じられ、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(橋本聖子会長)は激怒、回収まで求めたが「文春」側は一歩も引かない。すでに聖火ランナーが走るなか、メディアと組織委が全面戦争に投入している――。

 4月1日発売の「週刊文春」(文藝春秋)は、五輪の延期決定前まで五輪開閉会式の制作チームのリーダーだった演出家MIKIKOさんが、「女性蔑視発言」で組織委会長を辞任した森喜朗氏と昵懇の電通ナンバー2、高田佳夫代表取締役によって辞任に追い込まれたと報じた。MIKIKOさんはTwitterで、延期から半年たっても電通から連絡がなく、10月に電通に問い合わせると、すでに責任者は別の演出家になっていたことを明かしている。

「文春」によれば、演出内容の変更でオリパラ開会式に約10億円の予算が追加で使われ、巨額の税金が浪費され、さらに森氏が市川海老蔵や横綱白鵬らお気に入りの芸能人や力士らを出演させようと「政治介入」していたという。MIKIKOさんが国際オリンピック委員会(IOC)にプレゼンした280ページにおよぶ内部資料も紹介されている。

 これに対して組織委は4月1日、次の見解を発表し、「文春」に反発している。

「開閉会式の制作に携わる限定された人員のみがこれにアクセスすることが認められた極めて機密性の高い東京2020組織委員会の秘密情報であり、世界中の多くの方に開会式の当日に楽しんでご覧いただくものです。開会式の演出内容が事前に公表された場合、たとえそれが企画の検討段階のものであったとしても、開会式演出の価値は大きく毀損されます」

「この内部資料の一部の画像を本件記事に掲載して販売すること及びオンラインに掲載することは、著作権を侵害するものです。同社に対しては、当該の掲載誌の回収、オンライン記事の全面削除、及び、資料を直ちに廃棄し、今後その内容を一切公表しないことを求めています」

「営業秘密を不正に開示する者には、不正競争防止法違反の罪及び業務妨害罪が成立しうるものであり、東京2020組織委員会としては、今回の事態を重く受けとめ、所管の警察に相談をしつつ、守秘義務違反を含め、徹底的な内部調査に着手しました」

 会見した橋本会長は「280ページにおよぶ内部資料が入手され、組織委員会の秘密情報を意図的に拡散して業務を妨害するもので厳重に抗議を行う」と語ったが、「報道の自由を制限するということではまったくありません」と加えた。

 一方、「文春」編集部は以下のように反論している。

「記事は、演出家のMIKIKO氏が開会式責任者から排除されていく過程で、葬り去られてしまった開会式案などを報じています。侮辱演出案や政治家の“口利き”など不適切な運営が行われ、巨額の税金が浪費された疑いがある開会式の内情を報じることには高い公共性、公益性があります。著作権法違反や業務妨害にあたるものでないことは明らかです。(中略)「雑誌の発売中止、回収」を求める組織委員会の姿勢は、税金が投入されている公共性の高い組織のあり方として、異常なものと考えています。不当な要求に応じることなく、今後も取材、報道を続けていきます」

「時事の事件の報道のための利用」

「侮辱演出案」とは、電通幹部だった佐々木宏氏の案である。五輪開閉会式の演出の中心人物だったが、タレントの渡辺直美さんの容姿を揶揄した「オリンピッグ」などの企画が批判され辞任した。「文春」は「佐々木氏はMIKIKOさんが手がけた企画案を切り貼りしていただけ」としている。

 辞任したMIKIKOさんはツイッターで、「疑問を持ちながら参加するわけにはいかない、と悩み抜いた上で辞任の決断に至った。企画に一から関わっていない以上、責任が取れるものではありませんでした」と明かした。さらに「延期から約6カ月後の去年の10月、今後について皆様に何もご連絡できていない中で、これ以上お待たせするわけにはいかないと思い悩み、勇気を出して私から電通に問い合わせを入れました。その際、すでに別の演出家がアサインされ、新しい企画をIOCにプレゼン済みだということを知りました」とのコメントを出した。

 組織委は情報漏洩者への法的措置も示唆するが、法的に争われたらどうなるのか。

 東京スポーツによれば、組織委の五十嵐敦法務部長は「著作権法41条には『時事の報道目的の場合には著作権侵害にならない』という規定がある。ですが、その条文にも報道の目的上、正当の範囲内で、などと様々な要件が規定されている。我々としては41条の適用はないと判断して抗議した」と説明した。

 何が「正当の範囲内」かが焦点となるが、著作権に詳しいI2斉藤法律事務所の齋藤理央弁護士は言う。

「『文春』は雑誌およびウェブサイト共に、CGイラストを特徴がわかるように掲載しており本来、著作権者の許諾を受けなければならない。しかし著作権法は『著作権の制限規定』で権利の保護と社会一般による著作物の利用の調整を図り『適法』とする場合を定めている。

 今回は著作権法41条に定められた『時事の事件の報道のための利用』がポイントですが、過去には殺人事件の被告人が書いた未公表の手紙を本人の同意なく掲載した報道を『報道の目的上正当な範囲内の利用』と適法とした判例もあります。

 今回は、オリンピックという公共事業の開会式の内容の決定の過程や、その公金支出の過程を批判する公益性が高い記事で、国民の知る権利に資する報道とみられ、正当な範囲内の利用と捉えられるべき。報道の時期がオリンピック前であっても、今回のような資料の一部公開なら適法とすべきです」

開会式の内容の秘密化に意味はあるのか?

 オリンピックの開会式や閉会式の内容は、報道関係者にはある時期から詳細が伝えられる。そうでなければ当日、適切に撮影したり中継したりできない。そのため当日まで報道各社に「縛り」がかかる。もし記者たちが解禁日を破って公にしたりすれば、そのメディアは組織委などから競技の取材禁止などされかねないから、彼らは「縛り」を守る。

 五輪の肥大化に伴い、閉会式や開会式も肥大化した。うろ覚えだが、メキシコ五輪(1968年)の閉会式では選手たちが自由にスタジアムを歩くだけでなく、結婚式をしている選手もいた。素朴でよかった。

 今は巨大イベントとなり政治献金をしている大手広告会社が徹底的に企画化する。「極秘」にエネルギーが注がれ、漏洩すれば「犯人探し」に躍起になるが、開会式や閉会式の内容の秘密化に、そんなに意味があるのだろうか。「驚かせる」の要素がなければ、そんなに価値が下がるものなのか。あっと驚かせなければ感動を呼べないのなら、しょせんはその程度の企画・演出内容でしかない。

粟野仁雄/ジャーナリスト

粟野仁雄/ジャーナリスト

1956年生まれ。兵庫県西宮市出身。大阪大学文学部西洋史学科卒業。ミノルタカメラ(現コニカミノルタ)を経て、82年から2001年まで共同通信社記者。翌年からフリーランスとなる。社会問題を中心に週刊誌、月刊誌などに執筆。
『サハリンに残されて−領土交渉の谷間に棄てられた残留日本人』『瓦礫の中の群像−阪神大震災 故郷を駆けた記者と被災者の声』『ナホトカ号重油事故−福井県三国の人々とボランティア』『あの日、東海村でなにが起こったか』『そして、遺されたもの−哀悼 尼崎脱線事故』『戦艦大和 最後の乗組員の遺言』『アスベスト禍−国家的不作為のツケ』『「この人、痴漢!」と言われたら』『検察に、殺される』など著書多数。神戸市在住。

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