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鈴木貴博「経済を読む“目玉”」

転売ヤーは経済学的にみて悪くない…任天堂がスイッチ在庫の1割をメルカリに出せば撲滅?

文=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役
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メルカリのサイトより

 最初に謝っておきます。「すみません。私、一度やってみたかった転売ヤーをやってみました」

「いやいや鈴木さん、そんなことしなくても稼げるでしょ?」と突っ込まれると思いますが、私のことをよく知っている方ならわかるとおり、好奇心が強いんです。そして、ここが今回の記事の本題なのですが、社会学の立場と違って、経済学の立場に立つと転売ヤーは悪いことではない。その真偽を実際にやってみることで検証してみようと思ったのです。

転売ヤーの存在は社会にとって悪いことなのかどうか?」

 経営コンサルタントはこういった疑問を解明する際に、まず仮説をたてて、それで実際に実験を行って検証します。この記事を書く際に私が設定した仮説は以下の通りです。

(1)一般素人の転売ヤーはたいして儲からない

(2)一般素人の転売ヤーがたくさん出てくることでプロ転売ヤーの利益が大きく減少する

(3)転売ヤーが存在することで一般の消費者は得をしている

 これは経済学のなかでも特に有名な「神の手」理論、つまり商品の需給は神の手によって最適な価格へと収斂していくという考えに基づく推論です。本当にそうなるのでしょうか。順を追って検証してみましょう。

 まずやってみたのが、素人が転売をしてどれだけ儲かるのか。少なくとも商品の目利きについては私は自信があります。細かくは開示しませんが、コンサルタントとして得た販売や在庫のマネジメントについての知識から、人気がとても高くてすぐにオンラインで売り切れになってしまうユニクロの特別コレクションのようなケースで、なかでも特に人気のアイテムの人気サイズについての情報収集は、一般の転売ヤーよりもずっと得意です。

 それであくまで実証実験のつもりで数点だけ転売してみました。商品を実際にフリマアプリで販売して利益があがるかどうかを試したのですが、それでわかったことをお伝えします。

素人転売ヤーは転売価格の適性化に役に立っている

 第一に、結構売価を高く設定しないと黒字が出ません。たとえば人気のTシャツの仕入れ値が税込1500円だったとします。メルカリで2000円で売ったらどうなるかというとメルカリに支払う手数料とネコポスの送料で375円が差し引かれます。すると手元に残る差益は125円だけ。

「それでも薄利多売で利益を出せばいいじゃないか?」と言うかもしれませんが、売れ残りリスクを考えると、この125円という利幅はビジネスとして成立しません。この例だと仕入れた1500円のTシャツが売れなくて1860円まで値下げした段階で赤字になります。

 一般に、売れ残りリスクを考えたうえで小売業として利益を上げるには25%の粗利が必要だといわれています。1500円のTシャツを売るなら手元に残る差益が500円程度は欲しい。その場合、2400円程度に売価を設定する必要があります。

 そしてここが問題なのですが、店頭での小売価格が1500円のTシャツを2400円でメルカリユーザーに買ってもらうのが難しい。店頭よりも1.6倍高いわけですが、やってみるとわかりますが、かなりの人気商品でも消費者がこのプレミアムを払うことはない。理由は、同じ商品がもう少し安く出品されているからです。

 実際、2400円で出品して2~3日放置しておくとわかります。閲覧数が100件ぐらいになり「いいね」も5件ぐらいつくのですが、誰も買ってくれません。他の出品者から先に売れていきます。メルカリで同じサイズと色の同じ商品を検索して売り切れ商品を見ると、このようなケースではだいたい1800円から2000円ぐらいで取引が成立していきます。

 要するに同じようなことを考えた素人転売ヤーが世の中にはたくさんいて、それで同じように人気商品を出品しているわけです。そして通常は人気商品の転売価格が高騰するのは発売直後のわずかな時期だけで、その後、手持ちの商品の相場がじりじりと下がりだす。逃げ足の速い素人転売ヤーから順に値下げを始めて、神の手によってあっという間に落札相場は損益分岐点の1860円以下に下がっていくのです。

 これは株式市場にデイトレーダーが参加しているのと同じ経済効果です。一般にデイトレーダーがいることで「株式の流動性が高まる」といわれています。市場の参加者が多いことで、価格決定に神の手が作用しやすくなるという効果があるのです。

 この転売価格の神の手のメカニズムは、実際にやってみるとわかるのですが、メルカリだけでなくアマゾンマーケットプレイス、ヤフオク、ラクマでほぼほぼ同じ水準になります。どのサイトでも利用手数料と郵送料を払ってちょうど損益ぎりぎりの線になるのです。おもしろいことに、手数料の低いラクマでは手数料の低い分は落札価格に転嫁されます。つまり得するのは購入者であって出品者ではないという結果になります。

 大人気で品薄の商品の発売当日に、バイトを雇って大量に商品を買い占めて転売するプロ転売ヤーが社会問題になっていますが、一般のケースではプロ転売ヤーが利益をあげようにもその他大勢の素人転売ヤーの参加によって、相場価格が下がるために利益を出すのが非常に難しくなる。デイトレーダーと同じで素人転売ヤーが多ければ多いほど転売価格は、神の手によって適性価格へと収斂していきます。つまり素人転売ヤーは転売価格の適性化に役に立っているのです。

市場原理が働くことが一般消費者の最終利益にもなる

 さて、プロ転売ヤーがこのような制約下で儲けを出すためにはどうすればいいのか? それは仕入れに工夫をすることです。

 わかりやすい例を出しますと、新型コロナの自粛期間を通じてニンテンドースイッチのメルカリ価格が高騰しました。希望小売価格の2万9980円に対して昨年の緊急事態宣言時には一時5万円超えました。その後、供給が戻ってきて昨年の秋頃には転売の損益分岐点である3万4000円を割り込みましたが、第三波がやってきた後の直近だと4万円。もし新品を持っていれば5000円程度の利益が出る価格になっています。

 転売ヤーにはチャンスなのですが、問題はどうすれば仕入れられるかです。緊急事態宣言時にニンテンドースイッチを手に入れようとしたら、忙しいビジネスパーソンの場合、ヨドバシカメラの抽選などに申し込むしか手段がありません。私は昨年、実際に欲しかったので抽選に参加したのですが、そのときの倍率は46倍でした。

 もう少し時間に余裕がある方は、ツイッターなどで売っているお店の情報を集めることもできるでしょう。東京に住んでいて「〇〇デンキ春日部店で売り出し中」みたいな情報をキャッチしたらすぐに電車に飛び乗って1.5時間かけて売り切れる前に手に入れるわけです。ひとり1台の制約で販売しているお店なら、運がよければ1台ぐらいゲットできるでしょう。でも、それだけ努力して1日に得られる利益が5000円ということです。

 実際に数千万円単位で儲けている転売ヤーは、このような地道なやり方ではなく、きちんとした仕入れルートを開発します。日本に輸入される前の商品を生産国の販売店と契約して裏ルートで大量に押さえるようなやり方です。

 そして高額転売問題を社会問題として考えると、こういったサプライチェーンの途中で不公正に仕入れるプロ転売ヤーこそが問題であって、小銭を稼ごうと頑張る転売ヤーはむしろその人数が多ければ多いほど転売価格を下げてくれる経済効果があるのです。これを経済学的には「市場原理が働くことが一般消費者の最終利益にもなる」と考えます。

 ニンテンドースイッチの例でいえば、新型コロナの品薄に乗じて5000円の利益を上げる行為はちょっとよくないと思いますが、2万9900円の品薄商品を3万4000円という出品者にとって損益ゼロで売るような市場があることは、どうしてもそれを手に入れたい消費者にとってはメリットです。例えればユニバーサル・スタジオ・ジャパンでユニバーサル・エクスプレス・パスを買うするようなもので、少しだけ高いけれども時間を買う行為と同じです。

画期的な解決策

 最後に経済学的な観点から、この問題の画期的な解決策を提案してみたいと思います。緊急事態宣言のような超品薄な状態が起きたら、任天堂自体がスイッチの在庫の1割程度をメルカリに3万3000円で出品してはどうでしょうか。そうなれば再販市場価格は神の手による均衡価格よりも常にちょっとだけ低くなります。そして、ほとんどの転売ヤーは儲からなくなってニンテンドースイッチの転売から手を引くでしょう。

 一部のどうしてもスイッチを手に入れたい消費者は、プレミアム価格で買うことができる。転売ヤーの利益減は封じ込められる。このほうが、消費者倫理に訴えて転売をとどまらせるようなやり方よりも経済的でよいと私は思うのですが、どうでしょうか。

鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役

鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役

事業戦略コンサルタント。百年コンサルティング代表取締役。1986年、ボストンコンサルティンググループ入社。持ち前の分析力と洞察力を武器に、企業間の複雑な競争原理を解明する専門家として13年にわたり活躍。伝説のコンサルタントと呼ばれる。ネットイヤーグループ(東証マザーズ上場)の起業に参画後、03年に独立し、百年コンサルティングを創業。以来、最も創造的でかつ「がつん!」とインパクトのある事業戦略作りができるアドバイザーとして大企業からの注文が途絶えたことがない。主な著書に『日本経済復活の書』『日本経済予言の書』(PHP研究所)、『戦略思考トレーニング』シリーズ(日本経済新聞出版社)、『仕事消滅』(講談社)などがある。
百年コンサルティング 代表 鈴木貴博公式ページ

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