「クラブハウス」ブーム、一瞬で終了か…“爆死”の本当の理由&「Voicy」躍進の事情
ダウンロードしたものの、数回使っただけで休眠状態だったり、アンインストールしてしまったりしたアプリがある人も多いはずだ。テレビCMなどでは「数百万ダウンロード突破!」と威勢のいい言葉を聞くが、実際にどんなアプリがどの性年代にどのくらい使われ続けているのか。
本連載では、ダウンロード数だけでは見えない「アプリの利用率」をモニターの利用動向から調べるサービス「App Ape」を提供しているフラーに、四半期ごとに人気アプリの実態について聞いている。
前編に続き、同社のオウンドメディア「App Ape Lab」編集長の日影耕造氏に、2021年第1四半期(1~3月)のアプリ利用動向をうかがう。今回は、彗星のように現れ、彗星のように消えていったように見える「Clubhouse」(以下、クラブハウス)について聞いた。
1~2月のブーム過熱が3月から急失速
――21年1~3月、世間を賑わせたアプリといえば音声SNS「クラブハウス」だったかと思います。米国での提供が始まったのが20年4月、iPhone限定(アンドロイド版は21年4月時点で未リリース)、さらに「本名登録」「招待制」「会話の録音禁止」という、既存のSNSにはない敷居の高さ、自由度の低さが逆に魅力に映ったのもあるかもしれません。
また、YouTubeの創成期は芸能人は冷ややかな人が大半でしたが、「クラブハウス」は第二のYouTubeになるかもしれない、と芸能人、スポーツ選手、文化人など著名人の食いつきも早かったですよね。
21年2月3日のニュース番組『news zero』(日本テレビ系)で有働由美子キャスターや落合陽一氏もその魅力を話しており、この頃がある意味ピークだったのではと思いますが、現状はどうなのでしょうか?
日影耕造氏(以下、日影) 「App Ape」はアンドロイドの実測データをもとにiPhoneの利用動向を推測しているため、現時点でiPhoneでしか提供されていないクラブハウスの詳細なユーザー動向はわからないのですが、AppleのApp Storeのアプリランキングデータは毎日取得していますので、そちらを見てみましょう。こちらが「クラブハウス」のApp Storeランキング推移です。
――「ブームが過ぎ去った感」が、露骨なまでにランキングに反映されていますね。
クラブハウス“爆死”の本当の理由
――このグラフの1月末から2月までの部分を紹介し、「絶好調」と伝えた記事を多く見た記憶がありますが、こうして「その後」を見ると、2月頭の盛り上がりが嘘のような爆死ぶりですね。なぜなのでしょう?
日影 いくつかの要因が考えられます。まず、競合の存在ですね。ツイッターが同じような音声チャットルーム「Spaces」という機能を出しました。ツイッターは実名と紐づかないため、クラブハウスより匿名性が高くなります。クラブハウスの思想は「実名制」ですが、そこに使いづらさを感じてしまう人も少なくないはずです。
――特にツイッターが人気の日本では「匿名だから言えるのに」という傾向が強いのかもしれませんね。あと、クラブハウスは実名制、録音禁止、音声のみの配信などの「ルール、思想」は確かにユニークでしたが、何か技術的な仕組みがユニークかと言えば……というところもありますね。
日影 はい。競合の多い世界なので、ルールやコンセプト、思想がユニークでも、それが技術的な独自性に活かされていなければ、あっという間に類似したサービスが出てきてしまうんですよね。
そして、クラブハウスの普及が伸び悩んでいる大きな要因は、やはり「アンドロイドでは使えない」という点でしょう。iPhoneは端末価格が高いですし、日本では人気が高いですが、グローバルで見れば全然普及していない地域も多いです。
ただ、開発側の立場に立ってみると、iPhone向けの開発とアンドロイド向けの開発は大きく勝手が違います。アンドロイドは、さまざまなメーカーがさまざまな端末を出していますからね。「テッククランチ」の3月23日発表の記事を見ると、2~3カ月後にアンドロイド版がリリースと出ているので、夏以降にどう盛り返していくかでしょうね。
そもそも、どんなアプリも利用動向は右肩上がりではなく、大なり小なり「踊り場」ができるものです。今は多くの方に使われている「スナップチャット」「ピンタレスト」なども、ローンチ当時は芳しくない結果と評判でしたからね。クラブハウスも、真価が問われるのはこれからでしょう。
音声アプリ「Voicy」が躍進
日影 「クラブハウス」は苦戦していますが、「音声アプリだから伸びていない」というわけではないんです。図2が「Voicy」(以下、Voicy(ボイシー))のMAU(Manthly Active User:月に一度でもアプリを起動したユーザー数)推移です。
――伸びていますね。「ボイシー」は日経新聞など新聞社のチャンネルのほか、個人も発信はできますが、パーソナリティが登録制で、SNS的な誰でもいつでも気軽に発信というのとは異なる、専門性や品質を売りにした音声アプリですね。以前、コロナ禍の巣ごもり需要で動画や漫画が伸びているとはうかがいましたが、音声も伸ばしているんですね。
日影 動画や漫画などの視覚的なメディアは、仕事や家事などの「ながら」シーンには不向きですからね。音声はそういったシーンに刺さった、というのはあるかもしれません。
50代女性もハマる「Makuake」の魅力
日影 最後に、伸びているアプリをもうひとつ紹介します。クラウドファンディングアプリ「Makuake」です。20年下半期の半年で、MAUをほぼ倍増させています。
「Makuake」の特徴は、クラウドファンディングの対象に「ガジェット」的なものが多いことです。サイトには「まだ世の中にないものやストーリーあふれるチャレンジが集まる『アタラシイものや体験の応援購入サービス』です」と説明があり、「クラウドファンディング」「ガジェット」「応援」がうまくつながっている印象です。こちらが、21年3月の「Makuake」利用ユーザーの性年代比です。
――男女でちょっと毛色が違っていて、おもしろいユーザー層ですね。男性は「ガジェット好き」で、ちょっとだけお金が張ってもいいから、こだわりの逸品を持ちたい……というユーザーの姿が想像できます。
一方、女性は珍しく50代が牽引していますね。「Makuake」はガジェット的なものに限らず、百貨店にあるようなこだわりの日用品、スイーツなどもあったりしますが、これらなのか、それともクラウドファンディングなので3月に何か50代女性の心をつかむようなプロジェクトがあったのか……。
前編でお話いただいた「ウマ娘」は若年層が牽引しており、パワフルな若年層はアプリの起爆剤でもありますが、「Makuake」のように中高年世代が牽引しているアプリも増えてきているのですね。
「クラブハウス」も「利用しているのは中高年男性ばかり」とマイナスのニュアンスで言われていますが、そもそも日本の人口比で見れば、40代も60代も20代の1.5倍ほどいますからね(20代1262万人、40代1861万人、60代1831万人。19年時点)。「クラブハウス」は開き直って、日本における「フェイスブック」のような「中高年がリラックスして使うサービス」という路線もアリかもしれませんね。
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