日本郵政、6200億円で買収の海外企業の実質価値ゼロに…西室元社長の独断経営の負債の画像1
JPタワー(「Wikipedia」より

 日本郵政と子会社の日本郵便は傘下のオーストラリアの国際物流会社、トール・ホールディングスの主力事業の1つを豪ファンドに売却する。売却額は約7億円。トールへの債務保証を実質的に肩代わりすることに伴う減損損失などを含めて、日本郵政は2021年3月期連結決算に674億円の特別損失を計上する。現地の投資ファンド、アレグロに、豪州とニュージーランドでの宅配や貨物輸送事業を売却する。審査当局の手続きを経て6月末に売却を完了する見込みだ。

 日本郵政は野村證券とJPモルガン証券を助言役に選び、20年11月から事業の売却先を探していた。国際航空貨物などの混載事業、倉庫保管など企業の国際物流の受託部門は保有を続ける。日本郵政の西室泰三社長(当時)が上場に際して株価テコ入れのためにトールの買収を独断で決めた多大なツケは、まだ残っている。

西室氏の負の遺産

 日本郵政グループ3社の同時上場は政府主導の案件だった。3社同時上場を強行したのは、株式の売却益をできるだけ多くしたいという政府の意向が強く働いた。親会社、日本郵政の上場だけでは東日本大震災の復興財源を確保できないという懐事情があった。

 日本郵政グループの上場のために13年6月、元東芝会長の西室氏が日本郵政社長に就任した。2015年11月4日、日本郵政、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険が東京証券取引所に同時上場した。元教師など堅実な個人投資家をターゲットにし、株式を売り込んだ。西室社長ら経営陣は、上場直前の9月下旬から10月上旬にかけて欧米に出張した。海外の機関投資家に経営戦略を説明し、日本郵政グループに投資してもらうためだった。

 機関投資家は、高い株価上昇が期待できる新規上場にしか興味を示さない。「日本郵政は成長性に乏しい」と厳しい評価を下した。持ち株会社の日本郵政と、その完全子会社の金融2社が同時上場を目指す“親子上場”に、欧米の機関投資家は拒否反応をみせた。利益相反を防ぐという観点から親子上場は歓迎されない。

 海外の機関投資家の買いが期待できないことから、「割安、高配当」を前面に押し出し、国内の個人投資家に買ってもらう方針に転換した。郵便事業でも成長性があるところを見せるため、上場半年前の15年2月、日本郵政は子会社の日本郵便を通じてトールを6200億円で買収することを決定した。トールは100件以上のM&A(合併・買収)を繰り返してきた、継ぎはぎだらけの組織だった。M&Aのプロなら誰も手を出さない。焦っていた西室氏はこの案件にのめり込み、数人の幹部で買収を決断した。買収当初から「高値づかみ」といわれた。買収額は買収公表直前の株価の1.5倍だったが、日本郵政の取締役会で正式に一度も議論しないまま買収を承認していた。