日本時間5月4日未明から、G7外相会合が英国・ロンドン近郊で始まった。感染対策を徹底した上での2年ぶりの対面形式の開催である。会合ではワクチンの公平な分配など新型コロナウイルスへの対応や気候変動問題、中国への対応など幅広く議論が交わされたが、海洋進出を強める中国を念頭に欧州諸国がインド太平洋地域への関心を高めていることが特徴的だった。
G7外相会合に先立ち、茂木外相は3日、ラーブ英外相と戦略対話を行い、貿易や安全保障面での連携強化で一致した。会談の席上ラーブ外相は、インド太平洋地域への英空母派遣に触れ、同地域への英国のコミットメントを強調した。
1日、英国海軍の空母「クイーン・エリザベス」は打撃群を構成する他の艦船とともに母港ポーツマスから出航した。クイーン・エリザベスは、英国防省主導の年次国際演習「ジョイント・ウオリアー(5月8日から19日まで、NATO加盟国を中心に10カ国が参加)」を実施した後、28週をかけてインド太平洋地域に派遣される。その間、日本をはじめ40以上の国々と70以上の訓練を実施する予定である。
ウォレス英国防相は4月下旬、今回の派遣の目的について「インド太平洋地域において低下した同国のプレゼンスを空母打撃群を派遣することで回復させることにある」と発言している。2020年にEUから離脱し、約50年ぶりに世界国家への返り咲くこと(グローバル・ブリテン)を目指している英国にとって、近い将来、世界の政治、経済の中心になることが予想されるインド太平洋地域に深く関与していくことは必須事項である。
日英安全保障共同宣言
軍事力には、一定の地域に展開しその地域や国家に向けて自分の国の意思をメッセージとして発信する機能もある。20年ぶりに空母打撃群をインド太平洋地域に派遣し、さまざまな演習を行う目的は、英国が新たな世界に関与するグローバル・ブリテンに生まれ変わることをメッセージとして発信することなのだが、その目的を達成するため英国が最も重視しているのは日本との連帯である。今回の空母派遣には日本との関係が大きく影響しているという側面もある。
2017年8月下旬、英国のメイ首相(当時)が来日し、日本の安倍首相(当時)の間で「日英安全保障協力宣言」ともいうべき4つの合意文書を取りまとめた。
英国政府は2015年11月に新たな国家安全保障戦略を採用したが、そのなかで米国以外の国々との安全保障関係を拡大することを強調し、欧州以外の相手国として、唯一日本を「同盟国」と指定していた。その後、自衛隊と英国軍との交流がかつてとは比較にならないほど活発になったが、クイーン・エリザべスのアジア展開は、2017年に合意した日英安全保障共同宣言に盛り込まれている。
印象的だったのはメイ首相が日英首脳会談後のNHKの単独インタビューの中で「英国と日本は両国とも海洋国家です。私たちは民主主義や法の支配、人権を尊重します。私たちは自然なパートナーであり、自然な同盟国だと思います」と語ったことである。この呼びかけに対して日本側も前向きに応じたことで、日英両国の関係は「パートナー」から「同盟」の段階へと劇的に強化されたのである。
このことは日本ではあまり認識されていないが、日英のリーダーが互いを「同盟国」と公式に呼び合ったのは1923年に日英同盟が解消されて以来、初めてのことだったのではないだろうか。クリーン・エリザベスの派遣は新たな日英同盟誕生の証を内外に示すものだといっても過言ではない。
1902年に日英同盟が締結された当時の日英両国にとっての共通の脅威はロシアであり、日本は英国の支援を受けて日露戦争で勝利した。新たな日英同盟の脅威の対象は中国であるが、100年前のように軍事同盟である必要はない。むしろ軍事的な協力を含む安全保障のあらゆる分野で協力し合う包括なもののほうが望ましく、有事よりもむしろ平和時に機能するものでなくてはならないだろう。
三国同盟の誕生を目指すべき
クイーン・エリザベスは、2017年に就役した英海軍史上最大級の艦艇である。第二次世界大戦後、日本を訪問する外国の大型艦船といえば米軍であり、米軍以外の大型艦船が日本の近海に立ち寄ることなど想像もできなかった。英国の空母がはるばる日本にまでやってくることは、時代の大きなうねりを感じさせる出来事である。
クイーン・エリザベスは最大40機の戦闘機を搭載する能力を備えているが、今回の派遣では英空軍のF-35Bステルス戦闘機18機に加え、米海兵隊第211海兵戦闘攻撃飛行隊のF-35Bステルス戦闘機10機も搭載されており、事実上の英米混成部隊となっている。日本近海で航空自衛隊のF-35Bステルス戦闘機が参加すれば、日米英の最新鋭の航空機部隊による史上最高レベルの演習になるに違いない。
英国との間でACSA(物品役務相互提供協定)を締結している日本は、クイーン・エリザベスが率いる艦隊に不足しているとされる補給艦の役割を自衛隊が肩代わりし、早期警戒機やイージス型護衛艦を派遣することもできるだろう。英国からすれば日本の港湾施設は空母への支援を受けることができる理想的な場所にある。
このように新たな日英同盟は時宜にかなったものであるが、かつてのように日英同盟が単独で機能するものではない。新たな日英同盟とともに日本と英国がすでに有する米国との同盟を深化させることで日米英の事実上の三国同盟の誕生を目指すべきである。これにより、日本は第二次世界大戦後初めて米国一辺倒から脱し、戦略的に自立できるのではないだろうか。
(文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー)
(参考文献)復活!日英同盟 インド太平洋時代の幕開け(秋元千明著)