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藤和彦「日本と世界の先を読む」

米政府、コロナ起源の調査を指示…中国・研究所からの流出説や人工的製造説、海外で議論に

文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー
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WHOのサイトより

 5月24日から世界保健機関(WHO)の年次総会が開催されている。当初は「台湾のオブザーバー参加を中国が拒否した」ことが話題になっていたが、その後、新型コロナウイルス(以下、コロナ)の起源に関する論争がヒートアップしている。

 コロナの起源についてWHOは、3月末に公表した武漢調査報告書のなかで「動物から人間に感染した可能性が高く、武漢ウイルス研究所から流出した可能性は極めて低い」と結論付けたが、これを疑問視する声が高まっているのである。バイデン米大統領が5月26日、情報機関に対し「中国で最初に確認されたコロナの起源をめぐる調査報告を90日以内に行う」よう指示したことを明らかにした。バイデン大統領の政策スタッフは政権移行直後に、トランプ前政権下で非公表で行われていたコロナの起源に関する調査を中止させていた(5月28日付CNN)が、ここに来て方針転換を図ったのである。

 その理由は明らかになっていないが、SARSやMERSの起源が感染拡大から1年ほどで明らかになったのに対し、コロナの起源となる宿主(人に感染させた動物)がいまだに発見されていないことがその背景にあることは間違いない。

武漢ウイルス研究所

 トランプ政権時代に「武漢ウイルス研究所からの流出説」に否定的だった米国の専門家たちも、その可能性について言及し始めている。口火を切ったのはレッドフィールド米疾病対策センター(CDC)前所長である。3月末に公開されたCNNのインタビューで「新型コロナウイルスは中国の研究所で発生し、必ずしも意図的ではないが研究所から流出した」との見解を示した。2018年に同研究所を訪問した米国大使館の外交官が「研究所の安全運営に問題がある。コウモリのコロナウイルス研究はSARSのようなパンデミックを引き起こすリスクがある」と警告していたことが明らかになっている。

 5月に入るとワレンスキーCDC所長も議会の場で「武漢ウイルス研究所から流出した可能性がある」と証言している。このように専門家の間でコロナの自然発生説が力を失っている一方、「コロナは人為的につくられた証拠がある」と主張する専門家が出てきている(5月29日付英デイリー・メール)。ウイルス学者のダルグレイス氏(英国)とソーレンセン氏(ノルウェー)である。

 両氏は02年から19年までの武漢ウイルス研究所の実験結果を分析した結果、「武漢ウイルス研究所の研究者は、人に対するコウモリが保有するコロナウイルスの影響を研究する過程で、新型コロナウイルスをつくりだした」と結論付けている。

 今回のコロナはコウモリ由来であるが、人の細胞に結合する働きを有するスパイクの部分に突然変異が起こったことで感染力が増強したことがわかっている。具体的にいえば、スパイクの先端はもともとアスパラギン酸というマイナスの電気を帯びるアミノ酸だったが、これがグリシンという電気を帯びないアミノ酸に変わったことにより、ウイルスのスパイクの数が大幅に増加すると同時に、人の受容体への結合力も格段に強くなった。しかし、この突然変異が自然に発生する確率はほとんどゼロに等しいことから、両氏は「人の手が加えられた」としているのである。

「雲南省の洞窟に入った住民が新種の肺炎を発症している」との情報を得た武漢ウイルス研究所の研究員が、12年に洞窟に生息するコウモリから新型コロナウイルスと遺伝子が酷似するコロナウイルスを採取したことがわかっているが、その後彼らはこのコロナウイルスの遺伝子を改変した可能性を指摘しているわけである。

 米フェイスブックが5月下旬に「新型コロナウイルスが人工的につくられたという主張は今後削除しない」との方針を明らかにしたように、世間の受け止め方が変わったことで、世界の科学誌に掲載を拒否され続けてきた両氏の研究結果がようやく日の目を見ることになったのである。

真相の解明はますます困難に

「既存のコロナウイルスの遺伝子を改変して新型コロナウイルスがつくられた」可能性が高まっているが、その責任は中国だけにあるのではないようである。米国のコロナ対策の総責任者であるファウチ米国立アレルギー感染症研究所長はこれまで「武漢ウイルス研究所からの流出説」について消極的な態度を取っていたが、5月下旬「ウイルスが動物を通じて人に感染したという調査結果があるが、別の可能性もある。中国でどんなことがあったのか私たちは能力が許す限り継続調査しなければならない」と議会で証言した。ファウチ氏がこのように発言すると中国側は直ちに猛反発し、「ファウチ氏は中国の科学者を裏切った」と断じている。どういう意味だろうか。

 ファウチ氏はかねてからウイルスを遺伝的に改変することについて積極的な姿勢を示しており、武漢ウイルス研究所で行われたコウモリのコロナウイルスを遺伝的に改変するためのプロジェクトに、17年、米国立衛生研究所の連邦助成金60万ドルの一部が充てられた際にも積極的な役割を果たしたとされている。

 米上院は25日、武漢ウイルス研究所への助成金支給を禁止する修正条項を審議中の法案に盛り込むことを全会一致で承認したが、ファウチ氏の責任を追及する動きも出てきている(5月27日付ZeroHedge)。「起源がわからなければパンデミックの再発防止もできない」として世界の科学者は追加調査の必要性を訴えているが、コロナ後の覇権をめぐって米中の対立が激化する状況下では真相の解明はますます困難となっているといわざるを得ない。

(文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー)

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

1984年 通商産業省入省
1991年 ドイツ留学(JETRO研修生)
1996年 警察庁へ出向(岩手県警警務部長)
1998年 石油公団へ出向(備蓄計画課長、総務課長)
2003年 内閣官房へ出向(内閣情報調査室内閣参事官、内閣情報分析官)
2011年 公益財団法人世界平和研究所へ出向(主任研究員)
2016年 経済産業研究所上席研究員
2021年 現職
独立行政法人 経済産業研究所

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